アジア・太平洋文化論 教育研究分野


教育・研究の目標

 地球の面積と人口で5割を占めるアジア太平洋。長い歴史のなかで実に多様な文化と重層的な社会を生み出してきた地域です。そして今、アジアの国々は著しい経済発展を遂げつつ、人と文化の交流による相互理解をいっそう深め、新しい「共同体」をつくりあげようとしています。
 アジア・太平洋文化論は、歴史と社会、民族と文化、宗教と価値観、国家と越境する人々の動きなどのテーマを教育研究の対象にします。中国、韓国・朝鮮、モンゴル、東南アジア、南アジア、そしてオセアニア。この広大な環境に生きる人々のダイナミックな営みを、文字資料だけでなくフィールドワークに基づいて探究するスタッフとともに、この地域を学ぶ醍醐味を分かち合いましょう。


教員紹介


須 藤 健 一 (オセアニア社会文化論)
 オーストラリア大陸と大海原に進出して島嶼に住みついたオセアニアの人々には、豊かな社会と固有の文化を編みだしてきた数万年の歴史があります。しかし、多くの社会は、西洋文明とキリスト教の洗礼、欧米列強と日本の植民地を経験し、伝統的な生活様式や価値観、さらには土地と生命をも失いました。現在、オーストラリアとニュージーランドのほか、12の国家が誕生し、固有の歴史と文化を再構築して新しい世界をつくりだしています。平和と環境を大事にするオセアニアの人々の思考と生き方を、文化人類学の視点から学んでいきましょう。
 主な著書:『母系社会の構造』紀伊国屋書店、『オセアニア3−伝統に生きる』(編著)東京大学出版会


石 原 享 一 (経済文化交流論)
 講義およびゼミでは、"国際政治経済学"のディシプリンと"地域研究"の視点とを結びつけて、平和共存と国際交流の可能性を探ります。扱うテーマは、途上国と先進国、アジアと欧米、国際秩序と構造的権力、開発と環境、国際機関と国際協力、グローバル化と文化摩擦、社会的共通資本と教育・社会保障など。経済のグローバル化の波及はアジア・太平洋地域に限定されるものではなく、したがって、対象とする地域は広く世界を包摂します。
 主な編著書:『中国経済の国際化と東アジア』アジア経済研究所、『途上国の経済発展と社会変動』緑蔭書房


王  柯 (中国社会システム論)
 中国社会システム論を担当しています。日本に来て16年。さまざまな側面から、いろいろな焦点を通じて、ひとつの地域社会を立体的に見るという恩師たちの手法に魅了されました。現在、「近代」における中国の歴史意識、文化伝統、社会構造、政治権力の相互関係の究明を目指し、ポスト・モダン時代のあり方について考えつつあります。当然、周辺社会、国際社会との関係も視野に入れています。最近、学生を巻き込んで「神戸華僑社会」、「東アジアの『共同知』」の研究に取り込んでいます。好奇心の強い学生と一緒に勉強することを楽しみにしています。
 主な著書:『多民族国家 中国』(岩波新書)、『20世紀中国における権力と「民族」』(近刊)



                                 
萩 原  守 (北アジア社会文化論)
 アジア太平洋地域を本当に研究するには、現地の社会や歴史に直接切り込んでいける現地語をかじることが絶対に必要です。そのため私の授業では、清朝史やモンゴル民族史の他に、現代モンゴル語、満洲語、漢文等も用意しています。私の研究テーマは、中国の清朝に支配されていた17c末?20c初における、モンゴル遊牧民の法律と裁判です。これはテレビ時代劇の捕物帳や犯科帳のような世界で、犯罪に関わった一般遊牧民の日常生活や波瀾万丈の人生も展開する楽しい研究ですが、歴史史料と研究文献の読解に、多種類の語学が必要です。現地フィールドワークにもよく参加します。
主な論文:「清朝の蒙古例−『蒙古律例』『理藩院則例』他」滋賀秀三編『中国法制史−基本史料の研究』東京大学出版会、「清代モンゴルのイフシャビに対する法律の適用−大活仏の領民と刑事裁判」『史林』


岡 田 浩 樹 (韓国・朝鮮社会文化論)
 韓国(朝鮮半島)と日本、この二つの社会はまるで双子のようです。相互に絡み合う複雑な歴史的な関係だけでなく、今日では環境、少子・高齢化、さらには「引きこもり」の問題まで共通の現代的課題として共に取り組みつつあります。またコリアン世界は、東アジア地域を越えてアジアへ、世界へと広がっています。私は、韓国・朝鮮の社会と文化、そしてコリアン世界について文化人類学の視点から取り組んでいます。「韓流ドラマ」より、ずっとおもしろい知的興奮が、ここにあります。
 主な著者・論文:『両班−変容する韓国社会の文化人類学的研究』風響社、「新生殖医療技術は儒教の下僕か?」
『民族学研究』


貞 好 康 志 (東南アジア国家形成論)
 インドネシア近現代史、とりわけナショナリズムの諸問題を、主に「周辺者」としての華人の視点から研究してきました。自分では華人研究というより、インドネシア地域研究の枠組を意識してきたつもりです。21世紀は、華人に典型的だった国民国家との折り合いづけや文化のせめぎあいの問題が、決して他人事でなく、「自分とは何者か、どこでどう生きてゆくのか」という、誰にとっても切実な問いの一環として、ますます重要性をもつ時代になると考えています。共におおいに学びましょう。
 主な論文:「生き延びる混血性−ジャワのプラナカン華人」『歴史評論』、
「ジャワで〈華人〉をどう識るか−同化政策30年の後で」加藤剛編『変容する東南アジア社会』めこん


伊 藤 友 美 (東南アジア宗教・社会論) 
 日本人にとって、東南アジアの文化は親しみやすさとエキゾチックな未知の魅力の両方を兼ね備えた存在といえるかもしれません。その魅力に惹かれて、滞在を長期化させ、より深い関わりを求める日本の若者も少なくありません。東南アジアの人々との関わりを深めていく上で、彼らの価値観、世界観を作り出してきた宗教と歴史的経験について、理解を深めることは大変重要であるといえます。宗教を切り口に、東南アジアの伝統的社会構造と変化の動態を探っていきたいと思います。
 主な論文:「現代タイ仏教における『ダンマ』の理解と実践−プッタタート比丘の思想」『東南アジア−歴史と文化』、「カンボジア仏教−二つの共産主義政権の経験と社会への関わり」『国際文化学』