研究部2010年度プロジェクト「ヨーロッパにおける多民族共存とEU」主催
第2回研究セミナー 講演会報告
佐野直子氏(名古屋市立大学大学院人間文化研究科准教授)
「少数言語の言語政策 — オクシタン語、カルカッソンヌのデモ行進から」
佐野氏の講演のテーマは少数言語であるオクシタン語の話者はどのような形で言語政策を行うことができるかということでした。まずEU域内での多言語政策の状況説明のあと、話者が現在3カ国にまたがっているオクシンタン語の「分裂する言語政策」「さまざまな文化団体の活動」について説明がなされました。そのあと、佐野氏自身も参加したオクシタン語話者のデモ行進について詳しい説明がありました。2005年から2年ごとに行われているこのデモの歴史的背景、参加文化団体の説明、その立場の違いなどに言及されたあと、2009年のデモ行進のさいに参加者にたいして佐野氏が行ったアンケート結果の分析が示されました。今回の講演は、デモそれ自体が一つの政策であり政策の実践でもあるということが非常によくわかり、EUにおける言語政策の難しさおよび今後の展望に大きな示唆を与えるものでした。

寺尾智史氏発表(神戸大学大学院国際文化学研究科助教)
「EUにおける少数言語保全と『人の移動の自由』原則」
寺尾氏の発表は、EUにおける少数言語保全の推進と、EUがその発足以来最も重要視している域内の「移動の自由」の促進との間に、どのような関係性があるのかについてでした。EU内の少数言語保全政策が「領域性」に基づいており、政策が人ではなく限定された地域を対象としていることに言及されました。一方、EU辺境地域が元来の分布地域とされる少数言語の保全に関しては、保全政策を施すべき地域がすでに過疎化・空洞化し、「どこに住んでいる、誰を対象とするのか」が見えなくなってきてしまっている状況について説明がありました。人間の移動がますます液状化している昨今、言語保全の対象を地域に置くのではなく、それを話す人間で見ることが必要になっているのではないかと結ばれました。
