2010年度プロジェクト「19世紀の科学と文化」主催 第2回研究会セミナー 『川本幸民生誕100周年記念講演会』

 今回塚原先生の川本幸民生誕200周年記念講演会に出席して、その新たな川本幸民の見方を提供してくださったように思う。というのも、通常の歴史上の人物においての研究・考察といえば、その人の残した著作物や功績などが重視しながらその人物が社会に与えた影響などを読み解いていくというものであるのだろう。しかし、今回の講演では、川本幸民という人物を経歴からだけでなく科学史の歴史上の展開において、彼を取り巻く社会関係や身分等々にまで踏み込んだ「外的科学史」の手法を用いて彼・川本幸民を読み解いていったという点に画期的な見方を発見することができたように思う。なぜ彼のように才能に溢れ、優れた著作・翻訳本を出版しているのにもかかわらず緒方洪庵らのように後世にも大きく名を残すことにならなかったのか。そこにある過小評価というのはどこから来るのかという疑問に対し、彼の身分であったり当時の彼を取り巻く社会環境や出身藩の藩主との関係から彼の身の振り方について考えを及ぼしている点など、単に彼の残した本を読み解くだけでは分からない「写真の周りの風景」についての一考察を提供してくれたように感じた。
 また、川本幸民の様々な著作を検討する上で、そのソースとなっているオランダ語で書かれた原本と翻訳本とを細かく比べて、当時の川本幸民ら蘭学者たちがはたして西欧からやってくる先進の科学技術に対してどこまで正確な理解があったのかを考察しているところなども、川本幸民一人にとらわれることなく幅広い発想と思考によってより深い分析ができるのだというのが新鮮な驚きをもって実感させられたことであった。また、彼ら蘭学者がなぜオランダやドイツで書かれた化学の基礎本を翻訳していたのかということについても、その、科学技術の軍事的側面から鋭くメスを入れ、そこに、島津斉彬を藩主とした薩摩藩になぜ幸民が必要とされたのかということにまで言及していた点についても非常に興味深いものがあった。
 蘭学者の生きた時代というのが当事者だけではなくその背景を同時に見ることによってより現実味を持って動いていたのだというのを実感することができた。このように今回の講演に参加することで得た新たな視点を大切にしてこれからの自分の勉強にも生かしていきたいと思う。

国際文化学部・異文化コミュニケーション論 中川真吾

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