第1回国際文化学のフロンティア(第1回アフリカ文化研究)研究発表会
「呪詛と祝福の民族誌にむけて―これまでのフィールドワークから―」

研究会が開催される会場へ足を踏み入れ、前方に目をやると体中に釘が刺さった恐ろしげな人形が目に入る。この人形以外にも何体かの怪しげな人形が横一列に陳列されている。これらの人形がそれぞれどのような意味を持つのか、知りたいような知りたくないような…異様な雰囲気を漂わせつつ研究会が始まった。
今回の研究会の舞台は、発表者である梅屋潔先生が1997年から調査を続けておられるアフリカのウガンダ東部トロロ県というところだ。トロロ県での調査中に不思議な巡り合わせで、梅屋先生はある著名な人物の「遺品整理」に着手されることになった。今回はその作業の中間報告ということで、まだ公開されていない貴重なデータを交えての報告を聞くことができた。「遺品」の持ち主は、アミン政権閣僚で出身地随一のエリートとして評価されている国務大臣を務めた人物である。しかしながら、その最期はアミン大統領の命令で殺害されたと言われている。地元では、オフンビの数奇な人生は「しばしば呪詛と祝福の観念に彩られて両義的な評価が付与されてきた」という。
梅屋先生からオフンビの生涯が語られる際、多数の写真や映像資料はもとより、先生が地道に蓄積された一次資料は圧巻であった。そして何よりも先生の独創的で豊かな表現力によって、その生涯が生々しく呼び起こされた。この発表を通して、私にとって未知の領域であったアフリカの一地域に生きる人びとの世界観によって描かれるオフンビの生涯を理解することができた。
発表を終えられた後、会場前列に陳列された呪いの人形たちの説明をしてくださっている時、梅屋先生が「ここにいるみなさんもすでに呪いにかかっている」と言われた時は、ゾッとする思いがした。聴衆の中の一人は人形を間近で眺め、携帯電話を使って写真を撮っていた。私は恐ろしくて、人形を凝視することもできなかった。しかしながら、人びとのいかなる感情あれ、遠く離れた土地に暮らし、そこで創られた観念に基づく人びとの強い思いが人形から伝わってきたような気がした。
最後に、コメンテーターの関西学院大学教授の島村恭則先生がおっしゃっていたように「信頼できる研究者」である梅屋先生のご研究の蓄積に触れることができたことは、人類学を志す私にとって大きな刺激となった。

国際文化学研究科文化人類学コース 博士後期課程 野上恵美

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