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脱マニュアル宣言

異文化コミュニケーション論
 谷口奈緒美 (三井物産)

 初めて就職を意識したのは私の場合、大学3回生の1999年4月頃だ。が、だからといって、すぐにそのために何か行動を起こしたというようなことはない。私はずっと前から大学在学中に最低1年は留学すると決めていた。そのため1回生の頃から、かなりハードにバイトに励んでいたのだが、1年休学して行くとして、バイトで予算を何とかして且つ就職活動に間に合うように帰国するには3回生の後期がギリギリの期限だと思い、その年の10月から1年間カナダに語学留学をした。就職活動は秋から始まると聞いていたからだ。向こうでの1年間、私は特に就職活動について考えることはなかったが、同期の日本の友達からメールで就職活動の話をよく聞くようになったのは、年が明けてからだったと記憶している。帰国したのは翌年の9月末だったので、就職活動には全く出遅れることなく、1年後輩の98年度生と同時のスタートとなった。

 帰国して復学し、まず最初に私がしたのは、内定を得て、後は卒業を待つばかりの同期の友達に、就職活動についての話を聞くことだった。「心構え」のようなものが必要だと思ったのだが、このとき聞いておいて後になって良かったと思ったのは、女性差別の現状である。少しは覚悟していたものの、実際、面接で差別的な質問をされた同性の友人の言葉にはリアリティがあり、その後私自身がムカッとするような質問を受けた時、「ああ、これがそうか」と、冷静に対処することができた。また、経済や経営学部の友達には「国際文化学部ってようわからんから、何してるか他人にちゃんと説明できな難しいんちゃうか」と言われたりもした。結論から言うと、国際文化学部にいることが不利で、経済や経営学部にいることが有利なんてことは絶対にない。大事なのは、何を学んだかではなく、どのように学んだかということなのだ。あるいは、その本人が学生時代に勉強であれ、クラブ・サークル、アルバイトであれ、何か1つのことに一生懸命打ちこんでやり遂げたかどうか、である。話を戻すが友達に話を聞いた後は、リクナビなどの就職サイトに登録し、業界や企業を研究して、次にエントリー、そして興味のある会社のセミナーに参加、筆記試験、面接というように、選考過程が進み、私も就職活動に入っていった。

 私は、こういった具体的な行動を起こす前に「絶対に譲れないこと」を3つ決め、それに従って就職活動をした。いわば行動指針である。 その3つとは、(1) できるだけ多くのセミナーに行き、会社の人間を直接見る、(2) ありのままの自分で行く、(3) 会社に選ばれるのではなく、会社を選ぶ、である。 私は、この行動指針の通り、他人から見れば闇雲で数打ちゃ当たる的行動にしか思えないようなことをした。2ヶ月足らずで50社以上のセミナーに参加したのだ。 当然このときはものすごく忙しく、1日に3つのセミナーをはしごしたこともあった。 もちろん「これだけ受ければどれか1社ぐらい内定出るやろ」などと考えていたわけはなく、私は、(1) を実践していたにすぎない。が、結果的にこれはとてもためになった。というのも、これだけ多くの会社を見て回っているうちに、自分の中に「会社鑑定眼」とまではいかないまでも、明らかに自分に合わない会社を見分ける力がつき、(3) につながったからである。また、幅広い業種を見たことで、自分が本当は何がやりたいのか、がわかったのもこの頃だった。

 だが、もちろん反省点もある。セミナーで情報を得るつもりで、事前にろくにその会社のことを調べもせずに行ってみれば、単なるセミナーだと思っていたのは、実はセミナー兼選考会で、その場で面接があり、もちろん結果は散々だったということもある。また、私の弱点はグループディスカッションで、選考過程にこれがある会社にはことごとく落ちたのだが、後になって私の友達は、これが大の得意だったと知って「もっと早く知っていれば」と、悔しい思いをしたこともある。

 しかし、筆記試験や面接は実践あるのみ、である。1つだけ言えることは、誰にとっても100%の模範回答など存在しないということだ。自分を良く見せようと嘘をついたり他人のまねをしても、面接官にはお見通しだし、そもそも自分を偽って入った会社で幸せになれるはずがない。絶対に素の自分でぶつかること。マニュアル本は要らない。面接というものは相手も自分を見ているが、自分もその面接官を通して会社を見ているのである。面接で、この会社は何かおかしいと感じれば先に進む必要はない。 最終的に、自分が一番行きたくてピッタリ合うと思う会社から内定を貰えればそれでいいのだから、周りの友達が先に内定していようが焦る必要はない。就職活動に関しては友達は友達、自分は自分である。ただ、焦ったばかりに妥協して、あとで後悔することだけはないように、100%納得の行く会社から内定を貰えるまでは、あきらめずに手を抜かないことだ。

 就職活動は「会社探し」であると同時に、「自分探し」でもある。それまで知らなかった社会の仕組みや自分のことがわかるものすごい好機なのだ。この機会に、色んな業種や企業の人に会って、その人達のすごいところを吸収してしまうくらいの心意気で行けば、必ずいい結果につながるだろう。が、そのためにはまず自分のことをよくわかっていることが大切である。自分の性格や夢などをしっかりと把握していてこそ、自分にあった会社が見つかるのだと私は思う。そしてもちろん自分の中で絶対に譲れない条件を、きちんと持つこと。自分の視点から会社を見て判断し、まわりに流されずに行動すること。これらをしっかり頭に入れておけば、後に振り返った時に、すごく楽しくて有意義な就職活動ができたと思えるはずだ。これが、就職活動の経験から得た私の結論である。

(2001/08/01)