2005年度アメリカ社会論優秀答案 1

アフリカ系アメリカ人とヒスパニックをめぐるアメリカ社会の状況には多くの共通点と相違点がある。まず共通点として挙げられるのは、若年出産、そして婚外出産率の高さである。何に比べて高いかといえば、白人などの非マイノリティ人口だが、アフリカ系、ヒスパニック系共に長年にわたって高い率を示している。この事実は両者の高校・大学進学率の低さとも関連している。進学率の低さは彼らを取り巻く貧困や就学を困難にしている家庭環境といった社会経済的要因の他に、SATなどの進学試験がWASPに有利な文化的バイアスを含んでいるという意見もある。両者がアファーマティブ・アクションに賛成している点も共通している。次に労働状況だが、アフリカ系、ヒスパニック系ともに雇用形態や財産の点でともに社会の底辺を支える数字を示しており、マイノリティ差別の根強い環境を示している。アフリカ系、ヒスパニック系の歴史を概観すると、1960年代の公民権運動や70年代の政治意識の高まりや組織化の点でマイノリティとして相互に影響しあった点では共通点が見出されるが、それ以前にアメリカ社会にどのように存在したのかという点で両者の間に大きな相違がみられる。まずアフリカ系はその大半の起源は奴隷としてアメリカ社会に入ってきたということである。もちろん自発的移民として入ってきたものもいるが、「奴隷」であったという負のイメージが消えず、「主人と奴隷」、「南部と北部の対立」といった歴史を想起させる。また中国系やアイルランド系といったほかの移民集団のように明確な文化的アイデンティティをもたず、外見上、すぐにアフリカ系と判別できる点が差別されやすい要因となっている。それに対してヒスパニックは、人種ではなく、言語による類型であるため、外見上は白人と判別できないものもいる。彼らの大半は移民であり、ヒスパニック系のコミュニティは孤立していたり、毎年のように新移民が流入するため、本国とのつながりが強いといった点で、アフリカ系と違って文化的アイデンティティは非常に強固で明確である。これらの諸要因によって教育や労働面でも様々な違いが出てくる。例えば教育に関して言えば、アフリカ系にとっては、住み分けによる教育における人種隔離とそれを是正するための強制バス通学措置など人種統合教育の実現が大きな課題とされ、争点となってきたが、ヒスパニックにとってはバイリンガル教育の是非が論点となってきた。このようにカラーラインと言語という異なった要因が両者の教育問題を異ならせる要因となっている。また文化的アイデンティティについては、ヒスパニックは明確であると前述したが、内部での分裂もまた激しい。ヒスパニック系アメリカ人の大半を占めるメキシコ系と非メキシコ系の対立や、アメリカ生まれと新移民、不法移民と合法移民の対立などがあり、政治的勢力として一つにまとまることが難しい。一方、アフリカ系はブラックパワーなど政治的には求心力をもち、短命に終わったチカーノ運動と比べて、他のマイノリティ運動に影響を与えるだけの力をもった。最後に両者に様々な差別は存在するが、法律上は明確な差別がなく、一応の平等が達成された今日、差別はより見えにくいものとなっている。そのような状況においてマイノリティ内部やマイノリティに対する社会のコンセンサスを形成することはますます難しくなってきている。しかしアフリカ系やヒスパニックといったマイノリティの存在がアメリカ社会を変質させてきたことも確かであり、アメリカ社会と両者の相互関係は多文化主義的な方向に進みつつある現代においても注目すべき存在であろう。

(寸評)
授業での議論やデータを踏まえながら、アフリカ系とヒスパニックについて自分なりに比較し、考察を深めている点で他の答案よりも優れていた。

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