2005年度アメリカ社会論優秀答案 2

アメリカ政治において民主党は、共和党に比べて「大きな政府」を標榜してきた。その主な支持層は、黒人、ユダヤ人、カトリック、移民、都市中下層民などであった。現代アメリカ政治において、民主党の方向性を特徴付けたのは「ニューディール政策」である。失業対策や社会保障政策などこれまで連邦政府が取り組んでこなかった分野に初めて積極的に政府として取り組むことでフランクリン・ローズベルト民主党政権は、従来の南部白人や北部大都市の移民といった支持層に加えて、新たに労働組合、中小農民、都市部の黒人などを支持基盤に取り込むことに成功した。しかしアメリカの二大政党制の場合、社会主義政党もなく、二つの政党の主義主張の差異は他の国と比べて大きくない。各政党にとって大切なことはいかに多くの集団利益を包括する政策を打ち出せるかということである。ニューディール期における政治的争点の中心は失業対策や景気対策といった経済問題であり、民主党の伝統的支持層である南部白人と他の民主党支持層の利害は衝突していなかった。しかし1950年代から60年代にかけて、政治的争点の中心が経済から人種問題、外交問題にシフトしていくと、ケネディ・ジョンソン政権の黒人差別撤廃政策などに反発した南部白人層は民主党から離反していくことになった。やがてこうした保守的な南部白人層をターゲットにニクソン共和党政権は「南部戦略」を展開し、共和党支持層になり、現在の共和党の南部における強さを支えていくことになった。従って現在の民主党にとっての課題は南部白人やニューディール政策の受益者であった白人労働者を再び支持基盤に取り戻すことである。しかしそのためには様々な問題がある。現在の民主党の政策の主な受益者であり、支持基盤となっているのは、女性、黒人、移民、貧困層などであり、男性や白人労働者の民主党支持率は相対的に低い。「大きな政府」路線で福祉を充実させ、リベラルな社会を実現していくことが現在の民主党支持層の希望だが、こうした政策はニューディール以降の政策の恩恵を既に受け、豊かになり保守化した白人納税者の反発を招きかねない。人工妊娠中絶や同性婚などの社会的争点にに対する柔軟な姿勢も保守的な福音派キリスト教徒などの「家族の価値」を重視する層から支持を得ることが困難になっている。民主党は危ういバランスの上にたっているといえる。「大きな政府」路線を続ければ、白人中高所得層、納税者の離反を招きかねないが、共和党的な「小さな政府」路線に展開し、またアファーマティブ・アクション縮小などの方向に進めば、従来の支持基盤を失いかねない。財政赤字解消を目指したクリントン政権は実際に小さな政府路線に歩み寄らざるをえなかった。ブッシュ政権成立以降、共和党の様々な路線内部でも特に保守的なネオコンサバティブ層やキリスト教保守層の発言力の強化が著しくなっているが、テロ対策一辺倒の中での市民的自由の確保、マイノリティの権利の擁護や、女性、同性愛者の権利の擁護などの点で民主党の果たす役割は小さくないはずであり、支持層拡大にために共和党路線に迎合しないことが望ましいだろう。

(寸評)
出題意図としては、戦後アメリカ政治の基調となってきたニューディール・リベラリズムの形成に民主党がどのような役割を果たしてきたのかということと、80年代以降のアメリカ政治の保守化と共和党政治の定着の流れの中で批判勢力としての民主党がどういう役割を果たし得るのかについて論じてもらうことだったが、必ずしもその意図に答えているとはいえないが、民主党の支持基盤に着目しながら、支持基盤と政策のバランスについて政治学的なセンスを感じさせる考察を行なっている点が優れていると思う。

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