2005年度アメリカ社会論優秀答案 4

まずコミットメントは何かについて定義したい。コミットメントとは、非常に簡潔に言うと、人と人の関わり合いのことであるが、ここでは特に男女、または家族関係において、互いにどう関わるかという質が重要である。すなわち単に婚姻や家族関係の形成という法的な結びつきではなく、互いにどのような価値観のもとで関わるかというモラル・規範の上で成り立つ関わりである。コミットメントについての私見を述べたい。まずアメリカの家族・男女関係でなぜコミットメントが欠かすことのできない概念となっているのか考えてみたい。私はアメリカの社会構成に大いに関係があると思う。社会を構成する人種・エスニックグループ・宗教・信仰の多様性を土壌としてコミットメントという概念が重要なものになったのではないだろうか。各種世論調査の結果から伺われるように現在、アメリカの家族や性に関する考え方はスタンダードといえるコンセンサスが存在せず、伝統的な規範とリベラルなモラル・価値観に二分されている。こうした多様な価値観を持つ人々が互いに関わっていく上で、どのような規範の下、どのように信頼関係を築くのかというコミットメントのコンセプトが欠かせないものとなったのだろう。「どのような関係か」ということよりも、「どのように関わっていくのか」という質が問われるのである。一見、こうしたコミットメントの質の重視、また個々の価値観やライフスタイルの多様性の尊重というのは、プラスイメージをもつものかもしれない。実際、果たしてそうだろうか?確かに結婚・育児・離婚・再婚・独身・シングルペアレント等の選択肢が拡大していることは、個々人のライフスタイルの幅を広げ、より自由で民主的で主体的担っているように思われる。ただここで看過されがちなのは、「多様な選択肢の中で本当に自分が望むものを選べるのか否か」という点である。私たちは目に見える「選択肢そのものの多様性」に目を奪われがちで、その人が本当に望んだコミットメントであったか否かという点を忘れがちである。これは人種的視点から家族・男女関係を見て気付いたことだが、例えば黒人女性のシングルマザーの多さは、社会経済構造のゆがみの反映だと言えるだろう。「コミットメント」という視点について考える時、その裏にある選択の幅・機会の不平等性にも目を向けねばならないだろう。最後に今後のコミットメントのあり方の展望を述べたい。今後は新生殖技術の進展により、家族・男女関係におけるコミットメントも大きく変質を迫られることになるだろう。「男−女」という従来の性差にとらわれない生殖の可能性は、伝統的モラルと宗教的規範に新たな問いを投げかけ、ライフスタイルやコミットメントのあり方の多様性を一層もたらすことになるだろう。

(寸評)
あまり具体的な事例や事実を踏まえてない点が問題ではあるが、授業で詳しく説明しなかった「コミットメント」という概念を、授業で扱ったアメリカの家族・男女関係の諸データを踏まえて考察させる問題なので、自分なりの論理を組み立てて、一通り説得力のある議論を展開している点がよかったと思う。

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