1.共通問題(「例外的ではない」と答えた答案例)
ブッシュ政権の外交・安全保障政策が、アメリカのこれまでの歴史において「例外」的かどうかを見るために、キューバ危機と湾岸戦争、そしてコソボ紛争を取り上げて比較したい。まずキューバ危機との比較である。キューバ危機とは、ソ連がアメリカを射程におさめたミサイルをキューバに配置したことから始まった。冷戦期にそれはアメリカにとって直接的な危機だったといえる。しかしブッシュ政権下のアフガニスタン攻撃、イラク攻撃の場合はどうだっただろうか?アフガニスタンはビンラディン氏をかくまっているとされたタリバン政権を打倒するための「報復」攻撃であったため、直接的な危機の末の決定とは言いがたい。またイラクも、大量破壊兵器の保有疑惑を理由に攻撃したが、これもまた明確な証拠がなく、直接的な危機だったとはいえない。キューバ危機において、ケネディ大統領が選んだ手段は「海上封鎖」であった。これは数々の選択肢から最小限のリスクで最大限の成果をあげるものを選んだ。しかしブッシュ大統領は、イラク戦争では国連決議をまたずに開戦し、欧州などの同盟諸国との亀裂を深めるという大きな政治的リスクをおかし、アフガニスタンにおいても最小限のリスクでの攻撃とは言いがたかった。またケネディ大統領はキューバ危機を最終的には平和的に解決することを目標に海上封鎖を行ない、結果としてキューバ危機がその後の米ソ・デタント路線につながったのに対して、ブッシュ大統領が行なった上記の二つの軍事行動は、一般市民に死者をだし、反米主義をさらに高める結果となったといっても過言ではない。このようにキューバ危機と比べてみると、ブッシュ大統領の行なった2回の戦争は異質のものであるといえる。また湾岸戦争について考えてみると、湾岸戦争は国連安保理決議を得た上での戦争であった。また連邦議会は湾岸戦争時の武力介入に慎重な姿勢で、世論と議会の後押しをうけて、その目標はバクダット陥落よりも限定的な「イラク軍のクウェートからの撤退」に留められた。コソボ紛争の場合は、NATO軍として空爆に参加したが、その空爆の動機は、民族浄化などの多大な犠牲を生んでいる紛争にストップをかけるという明確なものだった。このようにキューバ危機、湾岸戦争、コソボ紛争などの過去の事例と、ブッシュ政権下の外交・安全保障政策を比べると異なる点が多いといえる。ブッシュ政権は必ずしも最小限のリスクで最大限の効果をあげるための努力をし、国際社会からの承認を受けた上で軍事行動を行なおうとしていない。しかし全てのことをみてみるとその至上目標は、アメリカの平和、アメリカの利益を最大化するための政策であったといえる。ブッシュ政権はその利益を得るための方法を、今までの歴史と異なる形で行なっただけであり、結論としてはブッシュ政権の外交・安全保障政策は「例外」ではないといえる。
(寸評)
この問題に関する答案の大部分は、ブッシュ政権のユニラテラリズムを漠然と批判するものだったが、この答案はキューバ危機、湾岸戦争、コソボ紛争といった過去の具体的な事例と比較しながら、ブッシュ政権の行動を位置付けようとしている点で、問題の趣旨に適ったものであり、優れた答案となっている。各戦争の評価については他の見方や意見もあると思われるが、具体的に過去のケースと比較しているのが他の答案に見られない、突っ込んだ政策評価となっている。
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