1.共通問題(「例外的である」と答えた答案例)

私はブッシュ政権の外交・安全保障政策は、それ自体の特異性ではなく、「例外的」な状況下で従来通りであるという点で「例外的」であると考える。このブッシュ政権の性質を表すものの一つに、ブッシュ・ドクトリンがある。この中に示されている「先制攻撃」論は冷戦下での「封じ込め政策」からの転換であるといえる。しかし武力中心の対外行動で外交問題を解決しようとする基本的な姿勢は変化していない。武力重視の傾向は一層加速化されている。このようなタカ派的な外交姿勢は、冷戦期に「強いアメリカ」を体現しようとしたレーガン政権に似ていると言われるが、レーガン政権はあくまでも冷戦下の政権であり、しかもこのときに整備された武力がただちに行使されたというわけではない,という点でブッシュ政権とは異なっている。ポスト冷戦の現在、冷戦期以上に武力行使に傾斜しようとする姿勢は、冷戦期に同様のことをする以上に「タカ派」的と言えるのではないだろうか?この「先制攻撃」の姿勢は、実際に武力行使をする可能性自体を「威嚇」としてもち、相手に対して思いとどまらせようとするもので、この点が従来の「封じ込め政策」よりも行動的かつ攻撃的な姿勢である。この「先制攻撃」論では、相手が決定的な行動に出る前にアメリカが攻撃する可能性を示し、かつ、もしこの「威嚇」で相手が思いとどまらなければ間違いなく攻撃するので、「封じ込め政策」の場合よりもアメリカが武力行使に踏み切る可能性が高い、危険な戦略である。こうしたブッシュ・ドクトリンの姿勢は、冷戦が終結し、国家間の友好関係が重視される現在において,あまりも「冷戦」的で、時代に逆行しているように思われる。ではなぜこのような政策がとられるのだろうか?これはアメリカにとっての脅威が拡散していることが原因である。冷戦下ではアメリカにとって「脅威」となる存在は、国家かそれ以上の単位であり、アメリカ政府にとっても捉えやすかった。これらの存在の行動はかなりの程度、予測可能であった。しかし現在、国際テロリズムの横行で、アメリカ国内が突発的でかつ予測不可能な脅威にさらされている。これらの脅威は予想することも交渉することも困難である。また冷戦下の二極対立構造化では見えにくかった、様々な地域での対立構造やアメリカへの反感が顕在化してきている。アメリカはいま不特定多数の脅威となる可能性のある存在に対して、「先制攻撃」という「威嚇」によって自国を守ろうとしている。しかしテロリズムは本当に「先制攻撃」によって防げるのだろうか?従来とは異なる形態の脅威に対して、従来型の防衛をいくら強化しても対応できないのではないだろうか?内戦や紛争に対して、武力ではなく、政治・経済の力で、紛争当事者の一方を支援するのではなく仲介する動きが世界では見られている。冷戦下のカーター大統領の人権外交は失敗する面も多かったが、冷戦後の国家と国家の新しい関わり方が模索されている現在、アメリカは武力行使以外の形でリーダーシップを取ることができれば、アメリカに対する反感を軽減することができるのではないだろうか?

(寸評)
「ブッシュ・ドクトリン」を中心に冷戦後と冷戦期の国際関係の変化に着目して、自分なりの意見を展開しているところがよく書けている。「抑止論」と「封じ込め政策」と「先制攻撃」論の違いについて多少の混乱が見られるが(・・・冷戦期の「抑止論」も基本的には「威嚇」をベースとした「恐怖の均衡」である)、論旨が一貫している点が高く評価できる。

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