選択問題(優秀答案例) 7

アメリカのラテンアメリカ政策と他の地域に対する政策における大きな共通点は、どの地域にも民主主義を推進させるための政策であったという点である。またその政策遂行過程で軍事介入を行い、必然的に反米主義を起こした点も共通している。相違点は、大きく見るとラテンアメリカは、合衆国と同じ西半球に属しているが、他の地域は合衆国と地理的物理的に離れており、そのためもあって、ラテンアメリカに対する軍事介入が特に多くなっている。次に地域ごとに見てゆきたい。まず中東地域である。中東地域はラテンアメリカ同様、アメリカが軍事介入を行い、反米主義を喚起した点では共通しているが、中東の場合は石油という経済的・物質的利益を最重視しているのに対して、ラテンアメリカの場合は民主化推進・反共主義という政治的目標を重視している点が異なっている。またパレスチナ問題の場合は、アメリカはパレスチナに関しては他の西欧諸国がさじを投げたから介入したという一面をもつが、ラテンアメリカに関しては一貫して介入政策を続けてきた点も異なっている。次にアジア地域である。アメリカはアジア地域における地域的安全保障を重視しているが,この点はラテンアメリカにも共通している。対中国政策は時期によって大きく変化してきたが、これはラテンアメリカ政策についても言えることである。しかし中国はアメリカにとって戦略的ライバルと呼ばれるほど成長したが、ラテンアメリカにそれに匹敵する国は存在しない。日本はラテンアメリカ諸国同様に対米追随型だが、日本にはアメリカ型民主主義が定着したのに対して、ラテンアメリカでは反米主義やキューバの存在など、アメリカ型民主主義が根付いていない点が大きく異なっている。韓国については、同じ朝鮮半島に北朝鮮を抱え、地域内紛争の要因を抱えている点では中南米諸国と共通しているが、北朝鮮に対する政策で米韓両国のスタンスには温度差がある一方で、対キューバ政策でアメリカとラテンアメリカ諸国の間にあまり温度差は感じられない。次に東南アジアであるが、東南アジアはラテンアメリカ同様、経済問題を抱え、民主化や経済政策が至上命題である点は共通している。しかしポスト冷戦期において、アメリカの東南アジアへの軍事的コミットメントは縮小しているが、ラテンアメリカでは縮小しているとは言いがたい。アメリカは東南アジアに関しては同じアジア地域の大国である日本や韓国・中国に対応してもらいたいというのが本音であろう。ヨーロッパ地域においてはラテンアメリカ同様、親米から反米、戦略的ライバルなど様々なアクターが存在する多様な地域である点は共通しているが、ヨーロッパに関してアメリカはEUやNATOなどとともに行動し、EU、NATO共に世界政治経済において存在感があるのに対して、OASの影響力・存在意義は未知数である。このようにラテンアメリカとその他の地域では政策には違いがあるものの共通点も多数ある。冷戦期にはそれぞれの地域で米ソの「代理戦争」が行なわれていた。最後にアフリカについていえば、アメリカは冷戦期を除くと政治的・経済的利益の少ないアフリカに対して一貫的に消極的な立場をとってきた。ラテンアメリカの小国に対してもアメリカはその利害が少ない場合は消極的な立場をとって来た点は共通している。このようにアメリカのラテンアメリカ政策はアメリカの他の地域に対する政策よりも、アメリカの国益と地理的な近接性を露骨に反映しているものだといえるだろう。

(寸評)
出題時には、アメリカの対ラテンアメリカ政策と、アメリカのどこかの地域への政策(一つ)を比較するような答案を期待して出したのだが、この答案は授業でカバーした、アメリカの世界全地域に対する政策と、対ラテンアメリカ政策を比較したスケールが大きく、またオリジナリティに富んだ答案となっている点が優れている。下線を引いた部分は、かならずしも妥当とはいえないが、自分なりに比較検討し、全体を一つの論理でまとめている点で、他の答案には見られない総合力を発揮している点が評価できる。

アメリカ社会論特殊講義ページトップへ
 安岡ホームページトップへ
 国際文化学部アメリカ文化論講座ホームページへ