アメリカ社会論特殊講義(6.7)
8.郊外化とその政治的・社会経済的意味
8.1 郊外の機能的・階級的多様性
郊外は様々に分類される。たとえば機能面からベッドタウン型(residential or dormitory suburb)やオフィス型(employing suburb)、両者を兼ね備えた職住接近型郊外などがある。さらに社会経済的には、富裕層が住む排他的な郊外(exclusive suburb)、同質度が比較的高い、中産階級型郊外、労働者階級型郊外、黒人中心の郊外(黒人の27%が郊外に居住、ワシントンDCでは62万人、アトランタでは50万人、ロサンジェルスでは40万人の黒人が郊外に居住)、高齢者中心の郊外(リタイアメント・コミュニティ)などがある。
8.2 郊外開発の問題点
第2次大戦後のアメリカの都市形成は日本やヨーロッパのような戦災市街地から復興ではなく、世界最大の経済国として好況と経済成長を背景としたものだった。
1955年
インターステート・ハイウェイ法→長距離移動が容易に
1960年代前半には 自動車保有世帯が80%に→モータリゼーションを背景に、都会の喧騒を逃れ、緑豊かでプライバシーを重視した郊外住宅の形成へ(戦前の富裕層向けの郊外とは違った中産階級向けの画一的な郊外住宅)
ブロックごとに住宅を形成し、「行き止まり(cul de sac)」を多用して、隣接間隔を広く取って配置→プライバシー重視の低密度開発は、各住宅が孤立し、外部からの犯罪に無防備→70年代後半から守衛所を設けて、外壁で囲まれたゲート・コミュニティ(gated community)が増加
またスプロール型開発は、大気汚染などの環境保全の観点や高速道路の維持費、交通渋滞などで不経済である。→「伝統的近隣住区開発(Traditional Neighborhood Development)」が見直される。
例 ワシントンDC郊外のケントランド−ホームオーナーズ・アソシエーションが管理→「準政府化」
ケントランドの特徴 ワシントンDCの北西30キロ、メリーランド州ゲーザーズバーグ市内にある。
i. 歩行者優先→自家用車は自動車専用のレーンをとおる(バックレーン),ii. 公共施設が集中, iii. 傾斜にたった住宅(平坦にしない、エコロジカル),iv. マーケットスクウエアに高齢者が居住, v. 不動産の評価額に応じて,管理費を協会に納める。全員参加の自治。道路、湖沼、コミュニティセンター、公園広場など市に管理移管できるものはする。
住宅地の需要を高め,資産価値をあげる。NEIGHBORHOOD WATCHによって安全性を高める。老人や子供でも安心して暮らせる。
ヨーロッパや(場合によっては)日本の都市がモデル。
また人々が郊外からさらに準郊外(exurb)へと移住するにつれて、郊外もオフィスとショッピングセンターを備えたダウンタウン的機能を備えるようになったが、比較的短期間で作られた住宅建築がいっせいに老朽化する郊外住区においては、家主がいっせいに改築・新築を行わない限り、住区自体の老朽化→フィルタリングによる住民層の入れ替わりを免れない→データ参照
シティホール、美術館、大学、公共交通などのリソースをもつ中心都市の方のが
再活性化の可能性がある。同時にダウンタウンの再活性化も大きな課題に。
<アメリカ社会におけるダウンタウンの役割>a. 地域社会のリーダーや政府関係者が日常的に交流する場、b. 商工業,文化,医療、政治などの専門的、先端的施設が集中し、効率的に機能する場、c. 鉄道や道路などを通じて、周辺郊外部も含めたネットワークの連結点となること、d. 低賃金労働者に住居や公共サービスを提供すること、e. 移民が社会経済的に上昇する場を提供
<ダウンタウンの衰退要因>
a. 公衆衛生、治安、公害など生活環境の悪化、交通渋滞・駐車場の不足なども消費活動のマイナスに(→郊外型アウトレットモールや大型店が消費の中心に)
b. モータリゼーションによる生活、教育,労働拠点の郊外化、c. 都市中心部の消費購買力の低下
<ダウンタウン再活性化への取り組み>
オハイオ州シンシナティ市の取り組み
A, 市の経済開発局による支援プログラム
例 Tax Increment Financing 新規の開発や投資によってもたらされる市の税収の増収分で公債を発行して資金を調達し,駐車場や街路景観の改善を行ったり、民間の建設を支援する。
B. BID(Business Improvement District)−一定地域の不動産所有者が協力して結成し,特別税を負担して,ダウンタウンのマネジメントにあたる非営利組織−シンシナティの場合は,ダウンタウン・シンシナティINCがマーケティングやオフィス、小売、住宅開発を行う
C. 商工会議所(シンシナティではGreater Cincinnati Chamber of Commerce)は行政へのロビイングとダウンタウン事業者への情報提供を行う→公共部門と民間部門のパートナーシップにより成果をあげる。
8.3 郊外と政治
郊外都市は,市支配人制で非党派選挙という市政改革で導入された政治制度を採用している場合が多く,住民も社会経済的同質度が高く、中高所得層が多く、市民活動や政治参加率は高く,政治的には保守的(共和党支持)傾向が強いというのが一般的な仮定である。→大統領選挙データ
しかし実際には政治行動の差は顕著ではないが,1.排他的ゾーニングや建築規制による低所得層の締め出し、2.デイケアセンターや歩行可能な距離にあるショッピング施設の欠如は,シングルマザーや自動車を一台しかもたない世帯の女性には不利であるといった、郊外の社会経済的な排他性はしばしば指摘されている。
<郊外と排除>
1.最低敷地面積、最小床面積、2ベットルーム以上のアパートの制限−マルチファミリーユニットの増加
2.公共住宅(subsidized housing)の建設制限
均衡のとれた発展へのシナリオ
1.住宅の(一斉)改築の促進
2.すべての年齢・所得層がアクセス可能な公共交通の整備
3.歴史的景観保存や歩行可能な伝統的近隣住区の整備による人々の交流の場の提供
4.リージョナル・ガバメントの創設
5.低所得住区や高齢化住区での学校教育の質の維持
6.複数地方政府間での歳入分与システムの構築