アメリカ社会論特殊講義(6.28)
11.ジェンダー的視点からみたアメリカ都市問題
11.1 アメリカ政治における女性の参加
1920年 合衆国憲法修正第19条成立→女性参政権の確立
第1次世界大戦、第2次世界大戦期には女性の社会進出が活発化
1960年
労働力人口の30%、大学生の40%が女性に
1964年 公民権法 第7条項−「人種、肌の色、宗教、出身国」に加えて、性別による差別の禁止→女性の雇用・昇進差別の撤廃に大いに貢献
1966年 全米女性機構(NOW)の結成(ベティ・フリーダン会長)→フェミニズム運動(当時の言葉では「ウィメンズ・リブ」運動)の旗手となる。
「法のもとにおける平等の権利は、合衆国も州も、これを性によって否定したり制限したりしてはならない」という男女平等憲法修正条項(Equal Rights Amendment, ERA)の実現を主要な政策目標とした(ちなみに日本国憲法、1946では第14条が「すべての国民は法のもとに平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において差別されない」と規定している)。→1971年に下院を、1972年に上院を圧倒的多数の賛成で通解した。しかし7年以内に4分の3の38州の承認が必要だったが、1982年に3州の承認が足りずに不成立
ERAの敗因
1. フィリス・シュラフリらの「反ERA運動」の成功→平等条項は、トイレや刑務所の男女の区別の撤廃や女性の徴兵制や家族の崩壊につながると社会不安を煽った。2. 1973年の「ロー対ウエイド」判決の反動→人工妊娠中絶を認めた連邦最高裁判決がかえって「女性の選択優先派(Pro Choice)」対「胎児の権利を主張する派(Pro Life)」という対立を激化させたこと→保守派の勢いがかえって強力になった。
→女性運動もERAの挫折後は、ドメスティック・バイオレンスやセクシャル・ハラスメントなどの社会的争点の解決に力点を転換するようになった。
<女性の政治参加の現状>
資料参照 アメリカでの女性の公職参加は日本を除くと先進国では最低レベルである。
過少代表の原因 ア.現職優位の選挙(再選率が9割)、イ.伝統的性別役割観の影響、ウ.小選挙区制選挙、エ.家事や子育てなどとの両立の困難さ→フランスのような「候補者男女同数化」の法案化などの試みが必要ともいえる
地方政治のほうが国政よりも女性にとって進出しやすい点は日本と共通しているが、比例代表をとっている日本は参議院では県議会議員よりも女性比率が高くなっている点がアメリカと異なっている。
11.2 都市環境とジェンダー
他の全ての政治的・政策的分野の場合と同様に都市計画の分野でも計画者は男性中心であった→ジェンダー的視点が不在の都市計画
男性中心の都市づくりの問題点
1. 公共交通が「ピーク時間」中心の編成→「オフ・ピーク時」にも活動する女性のニーズに合っていない。
2. 公共交通が安全性の点で十分に配慮されていない(地下鉄の照明、駅員の配置など)。
3. AFDCやフードスタンプなどの福祉政策も依然として、「一戸建てあるいは単一世帯アパートメントで専業主婦が長時間、家事や子育てをすることを前提にしていること(Hayden, Dolores. 1981. “What Would a Non-Sexist
City Be Like?: Speculations on Housing, Urban
Design and Human Work” In Women and the American City, ed. Catharine R. Stimpson)
4. 公共サービスが平日の勤務時間にしか得られないこと
5. 託児所や介護施設の数や営業時間が限られていること
6.ショッピング施設と職場、居住地域がすべて離れて存在していること。
⇒仕事を持つ女性たちが仕事と家庭を両立するのに役立つ体制が整っていない。
また夫婦で住居選択をする場合、夫の方は、ベットタウンとしての郊外を選択したがる傾向にあるが、そうした郊外都市にすむ場合、女性が仕事と家庭を両立するインフラが整っておらず、また社会的にも孤立しやすい傾向にある(ベティ・フリーダンの『女らしさの神話』The Feminine Mystiqueもこうした郊外の孤立した主婦の苦境が背景にあった)。
シングルマザーの増加(第4回参照)→結婚可能有職男性の増加を対策として打ち出したWilliam J. Wilsonの議論(The Truly Disadvantagedにおける)も、フェミニスト的観点に立てば、男性中心的という批判を免れない。→雇用と医療・公的サービス+デイケアサービスと居住の3者を共存させたコミュニティ作りが不可欠(第7、8回の成長管理や郊外化の講義参照)
ドロレス・ハイデンの提言(図参照)
またゾーンニング規制を緩和し、小規模住宅建設を増やし、賃貸住宅も増やすことが女性が一人でも生きられる環境を整備する上で重要。