ヴァヌアツの都市生活者における“エスニシティ”−ルガンヴィルの事例より
 

吉岡政徳


(2004年10月23日 民博地域研究センター 共同研究会『オセアニア諸社会におけるエスニシティ』 於:法政大学)


1 ルガンヴィル
 
   1-1 アメリカ軍の建設したキャンプ都市からメラネシアン・タウンへ
 
○もともと現在のサンミッシェル(St. Michel)地区にあたる場所がフランス人居住者によってルガンヴィルと命名されていた
○ヴァヌアツは独立前イギリスとフランスの共同統治領であり、それぞれの行政府は各地に行政局をもっていた。このルガンヴィルにはフランスの北部地区行政局があり、その周りにはカトリック教会、診療所、木賃宿があったが、それ以外はココヤシのプランテーションにすぎなかった(Bonnemaison 1981)。
○アメリカ軍:1942年からブッシュを切り開いてキャンプの建設
      :10万人が居住可能な大規模なものであった。
      :無数のかまぼこ型宿舎、40以上の映画館、四つの軍病院、5つの飛行場
      :1945年までの間に主としてアメリカ軍を中心に50万人がここを訪れた
       といわれている(Harcombe and O'Byrne 1995:220, Haberkorn 1989:74)
      :ルガンヴィルは、平地と高台からなっており、戦時中のキャンプ都市は
       高台にあるシャピ地区の西方全体やさらに奥の方まで広がっていた
○大戦後  :ミリオンダラーポイントでの投棄
      :地方都市として再出発ーーーフランス系白人、ベトナム人など多い
      :1967年 2600人、1979年 5200人
      :ナグリアメル運動の拠点、フランス人の追放
      :11000人(1999年)
○住み分け :「ポートヴィラに比べると、それぞれの島のものがかたまって居住して
       い るので、相互の意志疎通がうまくいかない。トンゴアの連中がパー
       マの連中を傷つけたとすると、パーマの連中はトンゴアの連中に復讐
       する。」
      :地図参照ーーマンゴ→バンクス
             ペプシ→タンナ、パーマ
             タンガーラ(A) →ペンテコスト
             タンガーラの西 →バンクス、タンガーラの東 →パーマ
             ラフシヴァトゥ(B)→ペンテコスト
    「ポートヴィラに比べると、それぞれの島のものがかたまって居住しているの
     で、相互の意志疎通がうまくいかない。トンゴアの連中がパーマの連中を傷
     つけたとすると、パーマの連中はトンゴアの連中に復讐する。」









 









 

  島

 人数

   島

人数

Banks & Torres
Ambrym
Paama
Pentecost
Ambae
Maewo
Malekula

1307
1268
910
1434
1125
164
1449

  Tongoa
  Santo
  Malo
  Efate
  Eromanga
  Tanna

 

205
1959
261
214
 20
277*

 









 









 
                         *Aneyteum,Aniwa,Futuna も含む
        表1 ルガンヴィルの島別人口
 
 
   1-2 Luganville man island counsil of chiefs









 

  島

 人数

   島

人数

Banks & Torres
Ambrym
Paama
Pentecost
Ambae
Maewo
Malekula

 2
 1
 2
 2
 1
 1
 2

  Tongoa
  Santo
  Malo
  Efate
  Eromanga
  Tanna

 

 1
 2
 1
 1
 1
 2 *

 
                      *Aneyteum,Aniwa,Futuna も管轄下に入る
        表2 Luganville man island counsil of chiiefs
         
2 島単位の都市生活
 
   2-1 ata Raga=ラガ人
 
     O北部ラガで話されている言葉=ラガ語
     O中核:北部ラガで生まれ、ラガ語を母語とし、北部ラガで生活する人々
     O  :マエウォ島南部の人々、都市部への移住者、都市部生まれだが、両
          親が北部ラガ出身の者
     O周縁:ata Raga la nos, ata Raga la saos という表現、都市生活者 etc
     Oその周縁 (1)都市生まれでピジン語を母語とするが、両親のどちらか
              が北部ラガ出身
           (2)養子縁組した他の島の者で北部ラガで生活
           (3)フィールドワーカー
           (4)ata Raga la nos, ata Raga la saos という表現
     O中核となるイメージからの拡大、中心は言語単位
     O言語単位から島単位へ
 
   2-2 man Pentekos(ペンテコスト人、ペンテコスト島民)又は uman Pentekost
 
     OMan wea ? という質問に対する答え
     O言語の差異を超えて、同じ島単位でのまとまりを表明する概念 man ples
     O都市生まれの者も、どこかの島への帰属を表明する
     O「マエウォにいるラガの人々は、ata Ragaでata Maewo ではない。ビスラ
       マでも、彼らは man Pentekost で man Maewo ではない。しかし子供が
       そこで生まれたら man Maewo になる。(自分の息子の)ブラウンのよ
       うに。」
     Oただし、ブラウン氏は man Pentekos を名乗っている。
      :父はペンテコスト、母はアンバエ
       主たる使用言語はピジン語(ビスラマ)
       マン・サントは嫌い。マン・ペンテコスとだと土地が継承できる。
       ata Raga の最周縁部分を占める
 
  2-3 ata Raga と man Pentekos の調整
 
     O「言語が異なるだけで、慣習は一緒だ」
     O「Malakulaには沢山の言語があり、それぞれカストムも違う。言語が一つ
       だったらカストムも一つになるのに。同じ島の人間なのにピジンで会話
       する。これは良くない。man Malakulaは違う人々をまとめているが、内
       部での違いは他の島との違いと比べると大きくはない。異なった人
       々(diferen pipol)が一つの島にいるが、他の島との方が違いが大きい。」
     O国民国家形成と同様の論理(ex. man Niu Hebredis)
       :西洋世界とは異なる「我々」認識
        内的な共通項目の設定は難しいが、西洋とは違うという点ではまとまる。
        ex. man Niu Hebredis 概念
         しかし、こうした概念構成は「近代」の導入とともに明確化される
 
3 hafkas 概念
 
   3-1 hafkas blong wea ?
 
     O良い、悪いという価値判断を伴わない概念
     Oまず、肌の色、目の色、容姿から判断
     O「白人との混血。おじいさんが白人でもhafkasという。色が黒いとblakman。
       しかし、例えば、その父が日本人であることがわかるとhafkasと呼ぶ」
     O「日本人やフランス人やタヒチ人の父とここの女との間に子供が出来て、
       父が行ってしまった。その子供をhafkas blong どこどこ という。」
     ・曖昧なカテゴリー:man Pentekos と uman Solomon の間の子供は?
 
   3-2 ジミー・スティーヴンスは man Santo ではない
 
     ・サント島分離独立を唱えたナグリアメル運動の指導者ジミーは hafkas
      hafkas は man ples ではない
     Oman wea ? の wea はヴァヌアツ内のどこかの島を指す
      hafkas blong wea ? の wea はヴァヌアツの島以外の場所・地域を指す
     ・内(=どこかの島=ヴァヌアツ)と外(=島以外=非ヴァヌアツ)の対比
 
4 ピジン語による明示的な差異化の確立
 
   4-1 atatu meto / tuturani から blakman / hafkas, sinowa, franis, inglis・・・へ
 
     ・異人(tuturani)概念の消失
     ・同じ平面(人間)における差異化の進行
 
   4-2 「クレオール」の拒否
 
     ・都市生まれでピジン語を母語とする人々を、単独カテゴリーにしない→
      「島」への帰属が明確でない者を作らない。
     ・人々の「島」への配分
     ・man ples 概念の単配列カテゴリー化
     ・man wea ? の wea が包摂する範囲の単配列カテゴリー化
 
5 差異化カテゴリーとしてのエスニシティ
 
   5-1 「民族」概念
 
     ・「同じ言葉をしゃべり、風俗習慣を共有し、しかも(あまり根拠なく)同じ
      ような風貌をもつ人間の集団がいる」というイメージにもとづいて、「言語
      =習俗=精神共同体としてのエトノスの概念が生まれてきたのである」
     ・「ほぼ共通の言語と生活習慣をもち、こうした共通性を根拠に「他者(彼ら)
      から「われわれ」を分かつ主観的意識をもっている(と想定される)人間集
      団」
 
   5-2 エトノスとしての man Pentecos, エトニーとしての ata Raga
 
     ・エトノス(ハードな、エッセンシャリズム的、単配列的)
      エトニー(ソフトな、エッセンシャリズム的ではない、多配列的)
     ・「精神共同体」としてのまとまりを持つ ata Raga と、それを持たない man 
      Pentecos
     ・差異化カテゴリーとして大きな意味を持つ man ples
     ・2004年の man Tongoa と man Tanna の抗争
 
○タンナの男とトンゴアの男の話をすると、今日、タンナの連中がトラックいっぱいに乗
ってトンゴアの連中を襲いに行ったらしい。つかまって、警察にいるとか。トンゴアの男
から喧嘩を吹っかけたらしい。結局顔や手などを切られたが、死にはしなかったという。
しかし家族が怒って復讐に出たという。マン・タンナは困った連中だという。本人もマン
・タンナ。サントではマン・サントが喧嘩好きで困るといわれているというと、マン・サ
ントとマン・タンナは同じ思考をするという。
 
     ・排除のための「我々意識」が単配列的カテゴリー化と平行して生まれる
     ・エスニシティという概念の適用