秘境の地からやってきた仰天ニッポン滞在記(テレビ東京)
この番組は異文化を描くバラエティ番組の最近の傾向を顕著に示している。最近の異文化交流のテレビ番組は、「日本がいかにすばらしいところか」を描くことに力を注いでいるが、この番組も、異文化の地で日本人が驚きの体験をするということよりも、異文化の地の人が日本に来て驚きを体験することに主眼が置かれ、それも、日本の文明の利器、日本的な暮らしに称賛を送るような形で描かれる。
もちろん異文化交流は行われており、戸惑う異文化からの客がやがては日本側の「おもてなし」の心をしり、感謝するというパターンは出来上がっている。そして、最後は両者の心のふれあいを経て、感動の涙でのお別れで番組を締めくくる。
ホストの側の日本を中心に描かれている点で、特に異文化が「秘境」の地であった場合には、圧倒的に日本人は優位な立場から安心してみることが出来るようになっている。しかも、秘境を強調するために、ゲストはことさら日本の「文明」に驚く様子が描かれる。車の多さにも驚きの声が上がるが、ゲストたちは日本に来るためには彼らの国の首都を通らねばならず、首都では、渋滞に列をなす車があることは珍しくない。
ちなみに、この番組の「秘境の地」では、これまでの放送で、ミクロネシアが2回、パプアニューギニアが4回、ヴァヌアツ共和国が3回、インドネシアのニューギニア島側が2回、ブルギナファソが1回と圧倒的にオセアニアの地が秘境として選ばれている。
第7回放送(2015年2月13日放送)<秘境をきわだたせるための演出>
第7回では、ヴァヌアツ共和国のタンナ島で裸で暮らす家族が、日本にやってくる。日本の文明世界に驚きの声を上げると同時に、日本的な「風呂」などにも驚く。これらは一般的なテーマの線に沿っているが、今回、一番気になったのは、ささいなことだが、ヴァヌアツの家族が日本でしたいこととして挙げられていたことの中に、「アイスクリームというものを食べてみたい」という子供の希望。アイスクリームがヴァヌアツではないかのような描き方だが、ヴァヌアツの地方都市ルガンヴィルでは路上でアイスクリーム売りが何か所もあったし、首都のポートヴィラの空港では、国際線のイミグレに入る前にアイスクリーム屋が店舗を広げている。いかに「僻地」の島から来たとしても、首都で国内線から国際線に乗り換えるときにはここを通らねばらならない。それを、日本でしか食べることが出来ないという形で描くのは、やはり、やりすぎだろう。
第10回放送(2016年3月20日放送)<別れの感動を生むための意訳=誤訳>
パプアニューギニアのサポサ島からやってきた家族の話。大型バス、気候の違い、車の多さ、電車、大きな観覧車などに驚く様子を経て、日本の家族と対面。いつも通りの描き方で、最後にはお互いが涙して別れを惜しむ。その場面でのテロップの日本語訳がちょっと気になった。
サポサからのゲストが最後に感謝の言葉を述べるところで、「感謝の気持ちがあふれます」とアナウンスが入ったあと、次のテロップが流れる。
「ニッポンに来てからはずっと夢のような時間でした。ジョエルがすねた時も暖かく見守ってくれました。出会えたことが一番の思い出です。」
確かに雰囲気はそうなのだが、実際に話している内容は次のようなもの。
「皆さんに謝りたい。ジョエルの態度は大変悪かった。私は嫌だった。我々は良くなかった。本当に申し訳ない」。
意訳といえば意訳だけど、訳に視点を当てたらこれは「誤訳」。感動を導き出すための「テレビ語(物語を盛り上げるためのテレビ側の演出)」である。