海外在住の卒業生からの便り


メルボルン大学大学院博士課程に留学中の 前川真裕子さんからの便り

第1便

前川真裕子さんがメルボルンで作成中の「ブログ」


ドイツ在住の学部6期生 谷口奈緒美さんからの便り

第1便  第2便  第3便 第4便 第5便 第6便 第7便 第8便 第9便、第10便 第11便

前川真裕子さんからの便り

第1便

メルボルン大学に来てもう7か月が経ちました。
まだ全然論文書けてないのに、時間だけは経ちますね。
今年の11月もしくは来年の2月初めに、日本でいう博論の中間審査論文および発表みたいなものを出さなければなりません。
最低文字数が一万字で、今は九千字まで書けました。
でも、日本語と混ぜて描いているので、恐らくもっと字数は減るだろうな〜と思っています。

指導教官はガッサン・ハージ先生という人なのですが、何かと忙しそうで、ここのところ面談してもらっていないです。なんでもオーストラリアのインテレクチュアル・トップ25人に数えられているらしいです。学会で発表したり、書きものしたり、しておられます。今、海外出張されているみたいで、メールを私の方から3通送り、報告やら質問をしたのですが、返信が返ってきたのは最初の一通だけ。吉岡先生ならすぐ返してくれるんだけどと不安に思いつつ、帰ってこられるのを待っています。私の聞き及ぶ限りこれで2回目の海外出張。こないだはジャマイカ行っていたけど、今回はどこなんだろ?

代わりに来週、副指導教官のタミー・カーン(Tammy Kohn)先生と面談することになりました。でもちょっと失敗したなと思ったことは、一か月ほど前に面談して以来、タミーに近況報告をしていなかったことで、今回の面談もタミーの方から言ってきてくださいました。

指導教官には逐一「ホウレンソウ」するように心掛けていたのに、また上手くできなかったなぁ。

意思疎通はタイミングが難しい。
私は昔から「以心伝心」という言葉に弱く、無意識のうちに以心伝心に頼ってしまいます。でも自分の意思を言葉で伝えることを怠ってはいけないのだ。
ちなみに以心伝心とは禅の言葉だそうです。師匠から弟子に禅の真髄を伝えるとき、言葉や文字を使わずに伝授することをいうそうです。

「心こころを以もって心こころに伝つたう」と訓読する。

以心伝心 出典 『禅源諸詮集都序ぜんげんしょせんしゅうとじょ』 goo辞書より  (2008年9月25日受信)

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谷口奈緒美さんからの便り

第1便


 こんにちは。第6期生(
2002年卒業)の谷口奈緒美です。意外なきっかけで4月にドイツのハンブルグに引っ越してはや3ヶ月。こちらでの日々の生活や、日頃考えていることなどをお話していきたいと思います。

「ドイツと言えば…」

ドイツと言えば、この後に続くのはそう、もちろんビールとソーセージですね。日本人なら誰でも持っているこの典型的なドイツのイメージ、果たして本当にドイツ人はビールを飲んでソーセージばっかり食べているのでしょうか?もちろん、そんなことはありません。世界的に有名なビールのお祭り「オクトーバーフェスト」がある南部バーバリア地方(ミュンヘンはバーバリアにある最も有名な都市です)では、もちろんビールを飲む人は多いですし、ビールのつまみにソーセージを食べる人も多いでしょう。が、ここドイツ北部の港町ハンブルグでは、魚を好む人も多いのです。実際、こちらの友人に聞いてみると、「ソーセージなんかバーベキューする時くらいしか食べないから、年に23回食べるくらいかなぁ」と言っていました。もちろん個人差もありますが、これは意外でした。それでは一体彼らは何を食べているのでしょう。
 まずは主食。これは圧倒的にパンです。朝食から始まり、昼食、時には夕食にまでなってしまうドイツのパン。色んな穀類、木の実なんかを生地と一緒に焼き上げたどっしりとした栄養満点の茶色いパンを1斤まるごとパン屋さんで買ってきて、家で都度食べる分だけスライスする、というのが一般的なようです。朝食に食べるパンといえば、食パンとベーグルくらいしか知らなかった私は、ついついスライスしたパンをトースターに入れようとしてしまいがちですが、こちらではトースト用の何のフレーバーもない白い食パン(に似ています)以外はトーストしません。スライスしたパンにマーガリン、ジャム、ヌーテラ(パンに塗る瓶詰めのチョコレートです)、チーズ、蜂蜜、ハム等、好きなものをつけて食べます。スーパーマーケットではパンに塗るBreadSpreadが充実していて、卵サラダ、ハムサラダ、チーズサラダ、小エビのサラダ等、「え?こんなものをパンに塗って食べるの?」とびっくりするほど種類が豊富です。土曜日には手のひらサイズの小さいパン(Brotchenといいます)を家族分(これももちろん個人差はありますが、上記の色々な具とともに、女性では2つ、男性では3つくらい食べるのが普通です)朝からベーカリーに買いに行き、焼きたてを朝食に食べる人が多いです。パン以外の主食として人気があるのはジャガイモです。日本人にはあまり想像がつきませんが、肉や魚の付けあわせとして、あるいはそれ自体がメインの料理として色んな方法で調理されたジャガイモが日々食卓に上っています。実は私はドイツに来る前は1年間カナダに住んでいたのですが、カナダでは付け合せとしてついてくるジャガイモはもっぱらフライドポテトでした。が、ここドイツではフライドポテトよりもむしろジャーマンポテト(これは日本人の造語ですね。こちらの人はジャーマンポテトとは言いませんが、薄切りにしてゆでたジャガイモをフライパンで、たまねぎと一緒に焦げ目がつくまで焼いたものです)が一般的ですが、それ以外にもマッシュポテト、ポテトサラダ、ハッシュドポテト、ベークドポテト、ポテトパンケーキ等、色んな調理方法があります。
 これら主食のパンやジャガイモに肉や、魚、スープなんかを組み合わせるのが一般的なドイツの食事です。もちろんパンやジャガイモではなく、パスタを食べることもありますが、お米はあまり食べません。こちらで独特のお米の食べ方はMilchreisと言って、牛乳で煮込んだ甘いご飯(でもデザートではありません。)です。これは日本人には口にするのに相当勇気が要ります。私も初めて食べたときは甘いご飯(しつこいですが、デザートではなく主食です)に相当の抵抗がありましたが、慣れると結構癖になる味で、最近ではお気に入りになってしまいました。そのうちレシピを書きますのでお楽しみに。
 と、ここまで書いて、食べるものも日本の一般的な食事とはかなり違いますが、もっと決定的に違うもの、それは食事の取り方です。ですが、これ以上書くと相当長くなってしまいますので、食事の取り方については次回お話したいと思います。

ではでは。(2007年7月24日受信)


第2便

2回:食事の取り方


こんにちは。前回の予告どおり、今回はドイツの食事の取り方についてお話したいと思います。日本の家庭では、朝食、昼食は省いたり、外食で済ませることが多くても、夕食になれば、手作りの家庭料理を家族そろって食べる、というのが一般的だと思います。が、ここドイツでは、必ずしも夕食がメインになるわけではありません。

と、いうのもこちらには「暖かい食事」と、「冷たい食事」という概念があり、暖かい食事、とは私たち日本人が普通に思い浮かべるような、調理された手作りの料理のことで、冷たい食事、というのはパンに前回書いたような色々な具を載せて食べるだけ、といったように、火にかけて調理をしない軽食のような料理を指します。

そして一般的には、11回暖かい食事を取りさえすればよく、それは昼食だろうが夕食だろうが構わない、というふうに考える人が多く、例えば遅めの昼食に家族そろって肉料理などを食べ、夕食はパンだけ、という家庭もあります。

 これは理にかなっているように思えますが、実際に夕食を食べる段になって、テーブルにパンとハムとチーズしかない、という状況になってみると「え?これだけ?まだ何かメインが来るんでしょう?」と、日本人である私は驚きを隠せません。

ドイツ人が比較的痩せている(例えば北米のカナダ人と比較してみれば、カナダ人のほうが圧倒的に肥満率が高いです)のは、料理の量以外にも、こういう食生活にもあるのかもしれないですね。

と、ここまでサラっと書きましたが、そもそもどうして遅めの昼食を家族そろって食べることができるのでしょう。それは働き方が日本とは違うからです。日本では大抵の人は9時から5時まで働いていますね。もちろん、実際に5時に仕事が終わって、すぐに帰れる人なんて本当に少ないと思いますが、ここドイツでは仕事の後の時間は家族と過ごすことが最重要とされているので、朝の7時から3時までといったように、早い時間に働いて早く帰る人がけっこういるのです。自分で働く時間を選べるなら、朝寝坊できるよりも早く仕事を終わらせてさっさと帰りたい、と思う人が多いのでしょう。


さて、これまで2回続けて食事について書きましたが、次回別のテーマに移る前に、食事の項目の締めくくりとして、Milchreis(前回書いた牛乳で煮込んだ甘いご飯です)のレシピをご紹介します。好き嫌いの分かれる味だとは思いますが、チャレンジ精神の旺盛な方は、ぜひとも挑戦してみて下さい。


Milchreis(約3人分)

米:250g(タイ米のようなサラサラした米ではなく、日本の米を使ってください)

牛乳:1.5リットル

塩:一つまみ

砂糖:適量

好きな果物(イチゴがおいしいですが、缶詰のみかんや桃もいいですね。):好きなだけ


作り方

1、米を洗って、牛乳と塩一つまみとともに鍋に入れる

2.中火でかき混ぜながら30分ほど、牛乳の水分がほとんどなくなるまで煮る

3.最後に砂糖を少しだけ入れて、ほんのり甘めの味に整えたら、火からおろし、器に盛り付け、仕上げにフルーツを乗せてできあがり


お好みでシナモンを振りかけても美味しいです。


それでは、また。(2007年8月20日 受信)



第3便

第3回:ドイツ人と日本人

 こんにちは。今回はハンブルグ滞在5ヶ月を越えた現時点、日ごろ感じるドイツ人と私たち日本人の性格や、特徴などについて少しお話したいと思います。
 みなさんは日本以外の欧米諸国ではお互いをファーストネームで呼び合うのが普通となんとなく思っていませんか?私は思っていました。と言うのも日本に入ってくる外国の情報は多くがアメリカ(アメリカではファーストネームが普通です)についてであることに加え(ハリウッド映画なんかが顕著な例ですね)、自身の経験からもそれが普通だと思っていたのです。昨年カナダ人の中で仕事をしていた際には、メールこそきちんとMr./Ms.と書いていましたが、実際に会って話したり電話する時には、お客さんだろうが上司だろうがすべてファーストネームで呼び合っていました。が、ここドイツでは違います。初対面や年上の人に対しては敬語を使い、会社の同僚とか電話ではお互いの呼びかけにもっぱら苗字を使うのが普通なのです。そう、ドイツ人は礼儀正しく、北米人のように言い意味でも悪い意味でも馴れ馴れしくありません。ブラジルとかラテン系の初対面からまるで親友のような付き合いをする国出身の人には、「冷たい」とか言われていますが、我々日本人からするとあまり違和感がない環境です。さらにドイツ人が日本人と似ているところを挙げれば、時間に正確な人が多く、性格的にも几帳面で、おとなし目の人が多いです。
 では、普段割と行儀のいいドイツ人が我を忘れてワイルドになるのはいつでしょうか?それはもちろんサッカー観戦をしているときです。

 ドイツといえば2006年のサッカーワールドカップの主催国で、主催国としてそのホスピタリティをメディアから絶賛されていたのは、みなさん記憶に新しいと思います。ワールドカップは残念ながら終わってしまいましたが、ドイツのサッカー人気は相変らず続いています。私の周りでも地元のサッカーチームHSVのシーズンチケットを購入し、シーズン中は週に1回のペースでスタジアムまで応援に行く人の多いこと多いこと。。。特に地元チームに対する応援の熱さは、大阪における阪神タイガースの応援を彷彿とさせるほど気合が入っています。サッカーに全く興味のない私には何がそんなに面白いのかさっぱりわかりませんが、テレビ観戦でさえ普段はおとなしい人が大声を出したり、時にはソファから立ち上がって大盛り上がりで応援している様子は見ていてなかなか楽しいです。

 このように日本よりかなり盛り上がっているサッカー以外に、日本人から見て、ドイツ人が自分たちと違う一番大きな点はなんでしょう。それは「英語力の高さ」です。日本では英会話の広告が町中にあふれるほどあり、「英語を話せるようになりたい」と思っている人がずいぶんいますね。が、悲しいことに日本語の構造と発音が英語からあまりにもかけ離れているために、実際に英語で何の支障もなく日常会話を出来る人はほとんどいないのが現実です。
 それではドイツ語はどうでしょう?ドイツ語は実は英語と非常に似ています。発音こそ違うものの、同じ単語はたくさんあります。年配の人はドイツ語しか話せない人も多いですが、若い人は学校で英語を習うので、日本人に比べるとずいぶん流暢な英語を話します。
 おかげでドイツ語ができなくても、何かわからないことがあればその辺の人を捕まえて英語で質問すれば、日常生活にはほぼ支障はありません。ただし、公共の交通機関の案内とか道路標識とかは全てドイツ語で書かれているので、ドイツ語読解能力は必要です。
 あまり英語を話す人がいない一方、道路標識も路線図も全てローマ字もしくは英語で書かれている日本とは逆の状況ですね。一体どちらが英語を話す外国人にとって住みやすいのか興味のあるところです。

それでは、また。(2007年9月30日受信)


第4便

4回:飲酒と喫煙

 こんにちは。今回のテーマはアジア以外の国に海外旅行をするとやたらと実年齢より若く見られる日本人にとって時に必要な知識、お酒の飲める年齢と、タバコを吸える年齢について、ドイツだけでなく、カナダについてもお話したいと思います。
 まず、誰もが知ってる日本の事情。お酒、タバコともに20歳からですね。ところが、ここドイツでは違います。タバコはつい先日(確か91日から法律が変更されたと思います)までは16歳からでしたが、現在は18歳から。日本のタバコの自動販売機では誰でもタバコが買えてしまうのが問題になっていますが、こちらの自動販売機はなんと運転免許証などのIDを自動販売機に入れると、誕生日から年齢を自動で読み取って、年齢に達していない人はタバコが買えません。これは初めて聞いたとき私はかなり驚きました。日本も同じようにすればいいのに。。。

そして次にお酒ですが、面白いことに、ドイツの法律ではビールとワインが、その他全てのお酒と分けて考えられています。どういうことかというと、ビールとワインだけは16歳から、ただしそれ以外のお酒が飲めるのは18歳になってから。ビールが世界的に有名なドイツなので、ビールが16歳からと言うのはわかります。が、ワインはどうなんでしょう?ワインのアルコール度数はビールの3倍ほどもあるのに、強さの問題じゃないんでしょうか。不思議です。

 では、次にカナダ(以前にもお話しましたが、私は去年はカナダに住んでいました)。カナダでは飲酒、喫煙ともに19歳からです。なんで19?中途半端ですよね。ええ、私もそう思いました。でも、そうなんです。カナダはなぜか19歳から。ちなみに同じ北米でもアメリカでは飲酒は21歳、喫煙は18歳からです。

 次に、お酒、タバコを買うとした場合の状況についても、国ごとにおおらかさ、というか態度がずいぶん違うなぁと思うことが多いので、少しだけ書いておきます。

 結論から言うと、日本とドイツは似ています。どう見ても年齢に達していないだろう、とわかる客には店員がレジで身分証名称を出すように言い、年齢に達していないと売ってくれません。ところが、カナダでは事情が違います。お酒、タバコを買う場合、日本やドイツのように明らかに若い客でなくても、つまり極端に言えば、白髪があろうが、どう若くみても60代の客でも、例外なく全員身分証の提示を求められます。そして言うまでもなく、この身分証明書は写真付で、きちんと本人と確認できるもの、つまりは現地の学生証、現地の運転免許証、パスポート等でないといけません。ここでわざわざ「現地の」と言っているのは、日本の免許証をもっていても相手に誕生日が読めないので全く無効です。これはもちろん、お酒を飲むことがメインのバーや、パブ、クラブなんかに行くときも入り口で常に年齢のチェックをされるということを意味します。アメリカでも同様です。昨年私のドイツ人の友人が、アメリカでパブに入ろうとして、たまたまドイツの免許証しか持っていなくて、アメリカ人のBouncer(クラブやパブの入り口で客の年齢を確認し、誰を店に入れるかを決める用心棒(?)のことをBouncerといいます)に、全く相手にされず入れなかったことがありました。ちなみにこの友人は実年齢も30過ぎでどう見ても21以下には見えません。飲みに行くんだから、酔っ払ったら大事なパスポートをどこにやるかわからない。ましてや日本より治安の悪い海外だし、ここはホテルの金庫に預けてでかけよう、なんて思っていると、入り口で門前払いになりますのでご注意を。。。(2007,10,15 受信)


第5便

5回:外国での「日本=米/寿司」のイメージ

こんにちは。いつもは日本人の目からみた外国の話をしていますが、今日は少し趣向を変えて、外国人(欧米)からみた日本についてお話します。
 これまでの私の経験から言うと、日本やアジアで暮らしたことのない外国人には「日本人=米ばっかり食べている(米しか食べない)」「日本人=寿司」というイメージが本当に強いようです。「日本にもパンあるの?」とか「寿司って毎日食べてるんでしょ?」とか実際聞かれると、一体どこから説明すればいいのだろうか、と頭を抱えたくなります。
 ここで彼らが言っている「米」と、日本人の私たちが考える「米」にも大きな違いがあるのですが(長くなるので割愛します)、「寿司」にはもっと大きな違いがあります。
 最近の海外での日本食ブームで寿司は欧米に旅行すればたいていどこでも食べれます。が、外国で「寿司」というとまず間違いなく「巻き寿司」のことです。一部チェーンの100円回転寿司などを除いて、日本では寿司=握り=高価、というイメージが定着していますね。ところが、私が去年住んでいたカナダのバンクーバーでは寿司を売っている店が本当に多く、巻き寿司のセットを昼食に買っているカナダ人もかなり多かったです。巻き寿司と言っても人気があるのはカリフォルニアロール(カニカマとアボガドとマヨネーズ)やら、BCロール(BCというのはバンクーバーのあるブリティッシュコロンビア州の略です:鮭の皮をまいたもの)で日本の伝統的な寿司とは全く違うのですが、値段はとっても手ごろです。ショッピングモールのフードコートなんかに行くと寿司を扱っている店には行列ができていることもしばしばあり、カナダ人からすると寿司というのは安いファーストフードのような感覚なんでしょう。カリフォルニアロールは日本の伝統的な寿司とは違うし、日本では寿司(握り)は高くてお祝い事のあるときなんかに食べる特別な料理なんだよ、と説明するととてもビックリした顔をされます。
 それではここドイツではどうでしょう。日本人の多いデュッセルドルフ、ベルリン、フランクフルトなんかでは事情も違ってくるでしょうが、私のいる港町ハンブルグでは、寿司を食べれる場所はバンクーバーに比べて圧倒的に少ないです。スーパーなんかに行くと、カナダで見かけたのと同じようなカリフォルニアロールをパックにしたものを売っていたりしますが、値段がバンクーバーの倍ほどもします。ドイツ人はお財布の紐が固いので、そんな値段では寿司は買いません。ですからドイツ人が持つ寿司のイメージは、高価と言う点だけでは日本人と共通しています。
 バンクーバーもハンブルグも同じ港町なのに、この値段の違いは一体なんでしょう?これはあくまで個人的な推測ですが、マーケティングの手法が異なるためではないでしょうか。バンクーバーのカナダには日本人が本当に多く、現地の日本人は和食が恋しくなれば和食を食べます。魚が入っているわけでもないカリフォルニアロールに高価な値がついているとなると、もちろん売り上げが落ちますね。が、ここハンブルグでは日本人がそこまでたくさんはいないので、寿司はまだまだ未知の「外国の食べ物」という位置づけで、高い値がついていても、「まぁ外国の食べ物だからな」と納得されているようです。
 もちろんカリフォルニアロール以外にも鮭や、マグロの握りがセットになってパックされている場合もありますし、生魚は保存がききません。もとから買う人が少ないから、売れる前に大量に処分されることになる原料のコストも売り単価に乗っけた結果、やむなく高価になっている気がします。実際こちらのスーパーではなんと冷凍の寿司(握り)が売っていて、こちらは保存がきくぶん値段もナマのものに比べると安く、私の周りでも買っているドイツ人がいます。一度冷凍した寿司なんて私には想像つきませんが、彼らは美味しいと言っています。
 なんだかどんどん脱線して、最後には海外における寿司の考察、のようになってしまいましたが(笑)、外国で暮らしていて、現地で友人ができた場合、「寿司を作ってくれ」と言われる機会がきっとあります。その時に困らないように、寿司を巻く竹製のスクリーン(100円均一で売ってますね)は持参されることをお勧めします。

(2007、11、28 受信)



第6便

クリスマス

 もうすぐクリスマスですので、少し長くなりますが今回はドイツのクリスマスについてお話したいと思います。始めに前提として、私が今回お話するのは、キリスト教の中でもプロテスタントが大部分のドイツ北部の話です。カトリックが大部分を占める南部ドイツではお祝いの方法や様式が異なりますのでご了承ください。

 12月に入ると街中にクリスマスの装飾が見られるようになります。ここハンブルグではダウンタウンの観光名所ALSTERという大きな池にも水中に大きなクリスマスツリーが立てられ、夜にはライトアップされて本当に綺麗です。この時期ドイツではあちこちでクリスマスマーケットが開かれ(写真参照)、ツリーに飾るオーナメントや、ろうそく、クリスマスカード、チョコレート、クッキー、果てはクリスマスに全く関係ない帽子やら日常雑貨などを扱う小さな露天までもが軒を連ね、買い物をする人々でごった返します。クリスマスマーケットに欠かせないもの、それはグリューワインと呼ばれる温かい赤ワイン。グリューワインを出すお店はマーケットのいたるところにありますが(写真参照)、123ユーロが相場のようです。そのままでも十分美味しいですが、寒い日には追加でアマレットやラムのショットを入れると、体の心から温まります(写真参照)。

           


 もちろんマーケットだけがクリスマスではありません。日本ではクリスマスは恋人と過ごすもの、というイメージがすっかり定着していますが、キリスト教の国ドイツではクリスマスは家族と過ごす祝日です。クリスマスはキリストの誕生日なので、彼の生誕の1ヶ月前、つまり12月はずっとお祝いが続きます。そう、クリスマスまでのカウントダウンが始まるのです。具体的には、スーパーなどで11月からアドヴェンツカレンダーという121日から24日までの期間限定のカレンダーを売っています。それぞれの家庭で手作りする場合も多いのですが、最も簡単に入手できる典型的なカレンダーは、5ミリから1センチ程の厚さの長方形のごくごく薄い箱です。 一見クリスマスの絵柄の着いたポスターのように見えますが、絵柄の中に隠れるようにして1から24の数字がランダムに配置されています。121日になると、この数字の中から1を探し、そこ開けると(数字の周りに切り取り線がついているので、そこをめくって開けます)、中から小さなチョコレートがでてきます。翌日は2、その翌日は3、と毎日1つずつチョコレートを食べていき、24日には全てのチョコレートを食べ終えて、クリスマスイヴを迎えます。これは特に小さな子供のいる家庭では毎年欠かせないイベントです。家庭の手作りカレンダーでは、チョコレートの代わりに、小さなプレゼントを24個買ってきて数字のついたポケットに入れる場合もあります。

 また、アドヴェンツカレンダー以外にも、人々はろうそくを灯して、クリスマスへのカウントダウンをします。毎年クリスマスから逆算して4つ手前の日曜日からお祝いの期間(アドヴェンツツァイトと言います)が始まります。今年はクリスマス(25日)が火曜日ですので、その前の日曜日が23日、これが4つ目の日曜日になりますので、逆算して122日がアドヴェンツの初日です。122()から8日(土)までの1週間、家庭や商店ではろうそくを1本灯します。ろうそくですので当然燃え尽きます。 そういう時は新しいものを出して、また1本だけ火をつけます。そして2週目の日曜日129日になると、もう1本ろうそくを追加して、今度は15日(土)まで2本に点灯します。もうおわかりですね。3週目は3本、4週目は4本のろうそくに火を灯し、クリスマス当日には毎年火のついたろうそくが4本あることになります。

 さらにドイツ特有のクリスマスの風習として、毎年126日のニコラウスという日があります。これは子供のいない家庭は関係ありませんが、子供がいる家庭では前日、125日の夜に、子供が自分の靴(スニーカーではなく、ブーツなどです)を1足、靴墨をつけてきちんと磨き、磨き終わった靴を子供部屋のドアの前に出して眠ります。すると親が靴の中に、チョコレート(サンタの包装紙に包まれたものが一般的です)とミカン(ドイツではこの日からミカンを食べ始める家庭が多いです。日本でもみかんは冬の果物ですね。)、小さなプレゼントを入れます。もちろん親がプレゼントを靴に入れているのは秘密です。「ニコラウスの前日に靴を磨いて子供部屋のドアの前に出しておくと、夜の間にニコラウス(キリスト教の聖人の1人で、サンタクロースとは別人です)がやってきて、プレクリスマスのプレゼントをくれる」と、子供は信じているのです。子供に靴磨きをさせるにはよいきっかけですね。笑

 それではクリスマスの過ごし方はどうでしょうか?小さな子供のいる一般的なドイツ人家庭のクリスマスイヴ(24日)の過ごし方を朝から見てみましょう。

 イヴの朝、子供たちをリビングから追い出し、大人だけでクリスマスツリーになるもみの木(本物です)をリビングに運び入れて飾り付けをし、プレゼントを木の下に置きます。正午に軽い昼食(ポテトサラダにゆでただけのソーセージ等)を家族全員でとった後(子供はまだツリーのあるリビングには出入り禁止)、午後3時ごろから教会へ行きます。教会では通常の礼拝とは異なり、この日だけ特別に聖書からキリストの生誕時の話を子供たちが劇で発表します。教会でのサービスが終わると家に帰り、お茶の時間です。ケーキやクッキーと一緒にコーヒー、紅茶を飲みます。お茶が終わるとようやく子供たちもリビングに招き入れられ、家族全員が見守る中、ツリーのキャンドルに火が灯されます(これは父親の仕事であることが多いです)。ツリーに灯りが入ると、今度は子供たちの番です。クリスマスの詩を詠んだり、聖書からクリスマスの物語を読んだり、大人と一緒にクリスマスの歌を歌います。これは子供が単に一方的にプレゼントをもらうのではなく、そのためにはなんらかの労働(この場合は詩を詠んだり、歌を歌ったりですが)をする必要がある、との考えに基づいています。(また余談ですが、プレゼントは「キリストの子供」とよばれる天使が家に運んできたもの、とされます。サンタクロースは聖書には登場しないからですが、信仰が深くない家庭では、サンタクロースがプレゼントを持ってきた、としています。)そして子供が十分に働いた後、そろそろいいかな、というその場の大人の判断で、みんなで自分宛のプレゼントを開けます。ひとしきり喜んで興奮した後は夕食。クリスマスの典型的な食事は七面鳥や、アヒルなどです。

 翌日。クリスマス当日の25日はイヴにくらべると静かな1日です。

 多くの家族は朝から教会へ行き、教会のあと家族みんなで豪華な昼食をして、あとは思い思いに過ごします。ドイツでは、会社もお店もクリスマスイヴはお昼まで、25日と26日は終日お休みなので、この時期はみんな家族と過ごします。日本のお正月のような感じですね。みなさん、よいクリスマスとお正月をお過ごしください。

それでは、また。(2007年12月18日受信)


第7便

7回:大晦日とお正月

こんにちは。今回のテーマは少し前になりますが、ドイツの大晦日とお正月です。実はドイツで年末年始を迎えたのは今年が初めてだったのですが、まずは率直な感想から。

「ドイツの大晦日の夜は騒音なんて言葉で簡単に表せないくらいうるさくて危ない!」

今までホームシックとは程遠い生活をしていた私ですが、この日ほど日本の厳かで穏やかな家族と過ごすお正月をうらやんだことはありません。。。

では、具体的に大晦日はドイツでは何をするのでしょうか。

大晦日は、ドイツでは「Silvester」と言います。これは、ドイツでは一般的ではありませんが、ラテン語から来るファーストネームです。大晦日がSilvesterと呼ばれている由来を調べたところ、1年は365日、毎日が「名前の日」、なんだそうで、わかりやすく日本語で例えると、11日は「ヒロシ」の日、12日は「タカシ」の日、13日は「リエ」の日、というように、毎日が誰かの名前の日、という風に決まっているそうです。そして1231日はSilvesterの日、というわけです。大昔、中世のヨーロッパでは、真冬の大晦日には日照時間も少なく、当時の暗い時代背景から人々は悪魔がひそむ、として暗闇を恐れました。そしてこうした恐ろしい悪魔を追い払うために、大きな物音をたてたのが、現在のドイツの大晦日の起源だとされています。また、昔の冬は食べ物も少なかったので、冬の間に人々は脂肪を蓄える必要がありました。そこで、ジャムを入れたパンケーキ(のようなものです)を冬の間に食べるようになったのですが、ここから現在は大晦日の深夜、年が明けるときにジャムの入ったドーナツ(ハンブルグではBerlinerと言いますが、地方によって呼び方は異なります)を食べるのが一般的になりました。日本で言うと年越しそばのようなものですね。

大晦日は多くの会社が午後だけお休みです。ドイツでは日本のお正月のように家族と過ごすのはクリスマスなのでクリスマス前後に大きな休暇がありますが、お正月は特に祝いません。元旦はかろうじて祝日ですが、翌日の12日からは会社もお店も通常通りの営業です。そして大晦日の夜は、前述の通り大きな物音をたてて新年を迎えるのが伝統です。では、どうやって大きな物音をたてるのでしょう?みなさんはテレビのニュースなどで、中国で人々が新年を祝うのに大量の爆竹を鳴らしているのを見たことがありますか?そう、ドイツの大晦日はその光景に限りなく近いです。と言うのも、爆竹にロケット花火、それに日本では夏にコンビニなどでも売っている打ち上げ花火なんかを大量に買い込んだ人々が大晦日の夜は民家の前だろうが、人通りの多い通りだろうがお構いなしに、あらゆるところで火をつけて、大騒ぎをするのです。普段は大変厳しいドイツの法律も、この日だけは例外で、日付が変わる深夜12時の前後数時間は大騒ぎをすることを認めています。

私もこの日、年が明ける瞬間の打ち上げ花火を見るために、午後10時ごろ家を出て港に向かいました。途中の道ではいたるところでワインやシャンパンのボトルを片手に、爆竹や、ねずみ花火に興じる人がたくさんいました。12時にはまだ時間があったので、港のすぐ横を走る大通りにかかる歩道橋で待つことにしましたが、この歩道橋の上にも、飲酒しながら花火をする人がいっぱいで、突然隣に立っている見知らぬ人が何の前触れもなく打ち上げ花火に点火したりするので気を抜けません。また、少し離れたところでは、大人数のグループがねずみ花火に火をつけて、橋の下を通る人々の間に投げています。お酒も入っているので、ひどい人はわざと人を狙ってロケット花火を発射したり、花火を投げつけたりするので、辺りはさながら戦争のようです。

12時になった瞬間にはすぐ横の港を通る船が一斉に汽笛を鳴らし、人々は各自持参したお酒で乾杯しましたが(私も家から持ってきた小さなスパークリングワインのボトルで乾杯しました)、少し前から突然出てきた霧とまわりの花火や爆竹からの煙で視界は全くきかず、残念ながら花火は見えませんでした。もちろん帰り道も花火や爆竹の標的にならないように注意が必要です。1時を過ぎ、人々が持参した花火や爆竹を使い果たす頃までひたすら橋の上で待機。もう安全だろうという頃にようやく帰路についたのですが、通りの上には、爆竹や花火のゴミ、酒のボトルなどが足の踏み場もないほどに散乱していました。これらのゴミは全て翌日から数日間にわたって少しずつ公共の清掃車が掃除します。私は2時前には家に着きましたが、この日はクラブやパブで元旦の朝までパーティーを楽しむ人も多いです。

そして一夜明けた元旦の朝。ラジオのニュースによると、大晦日の夜ハンブルグだけで警察の出動回数約1,000回、爆竹、花火等の火傷による重傷者4名。。。来年の年明けはどこか安全なところで静かに迎えたい、と思った瞬間でした。

それでは、また。(2008年1月14日受信)



第8便

8回 イースター(ドイツではOSTERN

こんにちは。

今回は、日本人にはなじみがないけれど、キリスト教ではもっとも大事な祝日とされているOSTERN(復活祭)について紹介します。まず、OSTERNとは何か。これは日本語では復活祭と訳されますが、キリストが十字架で磔になって死亡した3日後に生き返ったと聖書にある通り、キリストの復活を祝うものです。ドイツではこの日は祝日ですが、毎年日付が異なります。旧暦を現在の暦に当てはめているからですが、具体的には春分の日の翌日(321日)以降の最初の満月の後、最初の週末がOSTERNです。

ドイツではこの週末の金曜日はKARFREITAGという祝日、日曜日がOSTERSONNTAG、翌日の月曜日も祝日で、会社や学校は4連休になります。今年のOSTERN3月の21日〜24日の週末でした。KARFREITAGは聖書でキリストが磔になったとされている日なので、悲しみの日、とされ、ナイトクラブや、パブなんかはすべて閉まり、遊園地なども娯楽施設も閉まり、サッカーの試合もこの日は行われません。

翌日の土曜日の夜、川辺や海辺ではOSTERFEUERという焚き火を行います。友達と集まって56人で小規模の焚き火をする人もいれば、川辺でこの日のために雇われた公務員によって管理される直径3メートルほどもあるキャンプファイアーのような焚き火まで、いろいろです。みんなそれぞれ手にビールを持ち、火の回りで談笑します。煙でもうもうとしているところなんかは少し大晦日(SYLVESTER)と近い感じもしますが、ロケット花火がないので断然静かです。

そして翌日、OSTERSONNTAGOSTERNの本番、キリストが生き返ったとされるおめでたい祝日です。現在実行している家庭はほとんどありませんが、伝統的には、OSTERN14日前(但し、この期間の長さは宗派によって異なります)からキリスト教徒は肉を食べず、お酒も飲みませんでした。

そしてOSTERSONNTAGに再び、お肉とお酒が解禁されるのです。また、この日は早朝、日の出とともに教会では特別な礼拝が行われます。私は行った事がありませんが、聞くところによると真っ暗な教会の中で、ろうそくに明かりをともしていく、とても幻想的な礼拝のようです。カトリックでは、ローマ法王が世界中のカトリック教徒に向けて、この日の午前中に特別な礼拝の儀式を行い、その様子はテレビで中継されます。また、小さな子供のいる家庭では、OSTERSONNTAGの朝、両親が庭に卵の形をしたたくさんのチョコレートと子供へのプレゼントを隠し、子供が自分でチョコレートとプレゼントを探し当てる、というゲームが行われます。もちろん自分で見つけたものはもらえるので、ちょっとした宝探し気分で、子供にとってはOSTERNは楽しい祝日ですね。卵を探す、というのはOSTERNのシンボルが卵とウサギであることに由来しています。OSTERN1ヶ月ほど前から、スーパーではウサギと卵の形のチョコレートを大々的に売り出し、お店のショーウィンドウには卵とウサギが飾られ、家庭でもクリスマスツリーのように、家にある観葉植物や木に卵の殻にカラフルな絵を描いたものを飾りつけるところもあります。

それにしてもウサギは卵を産まないのに、どうして卵とウサギがシンボルなのでしょう。これには色々な説がありますが、もっとも一般的な説は、OSTERNは生命の復活を祝う祝日なので、多産と爆発的な繁殖力で有名なウサギと、新しい生命の象徴である卵がシンボルとなったというものです。

また、OSTERNのシンボルであるウサギは、一般的にペットとして飼われている家ウサギと違い、野ウサギなので、野外で身を隠さずに眠る習性があることから、敵が近づいてきたときにすぐに逃げられるように目を開けて眠る、と言われていて、キリストが救済を必要とするが来ればいつでも対応できるように、目をあけて眠った、とされていることから、ウサギがキリストを象徴する、という説もあります。主にデコレーションのために卵の殻に絵を描くという風習も、大昔、誰かが死ぬと棺の中に遺体と赤く塗った卵を入れて埋葬したことに由来するそうです。これは、赤く塗った卵を棺に入れると死者が生き返ると信じられていたためですが、現在は死者の復活を願うという本来の意味が失われ、卵に色をつけて絵を描くという風習だけが残っているようです。

それでは、また(2008年3月24日受信)。



第9便

9回:入籍と結婚式

こんにちは。一時帰国をしていたので更新の間がずいぶん開きました。私事ですが、少し前にハンブルグで入籍、結婚しましたので、今回は日本とはずいぶん異なるドイツの入籍と結婚式の様子をお伝えします。

まずは、入籍について。

日本では入籍は本人達が書類に記入、捺印をして役所に婚姻届を出して終わりですが、ドイツでは違います。こちらでは、婚姻届に先立ち、二人の戸籍や身分証明書などの必要書類を役所の戸籍課に提出します。その時点で入籍をする日時を予約します。そして当日は当事者二人と、それぞれの証人、親族が役所の戸籍課に集まり、全員がそのために使われる部屋に通されます。後で説明する結婚式とは異なり、入籍は公の儀式なので結婚式のように友人や、会社の関係者、近所の仲のいい人たち、といった比較的関係の薄い人たちは招待しないのが普通です。また、入籍は役所で行われるので、結婚式のようにウェディングドレスを着たりしません。たいていのカップルは少し華のあるスーツなどを着て、女性がブーケを持っています。

さて、部屋に通されると、大きな机の前に座った役所の担当者(この人は戸籍課の従業員、つまり公務員です)が、目の前に座った当事者二人に、まずは身元確認をして、はなむけの言葉や、入籍するというのはどういうことかという説明をした後に、当事者二人が誓いの言葉を述べ、婚姻届に署名し、証人達も「確かに二人が入籍したのを見届けました」とある書類に署名して、本人達が指輪を交換して、キスして終了。シャンパンとグラスを持参して、このあと部屋を出たところで乾杯する人たちもいますが、たいてい外には次のカップルが待っているので、そのまま役所を出ます。部屋に入ってから、終わるまで全部で約30分〜40分くらいかかります。またこの儀式の間に今後の苗字をどうするか、の確認も行われます。夫か妻の苗字に統一するのか、夫婦別姓にするのか、夫か妻の片方が両方の姓を持つダブルネームにするのか、を選べます。ダブルネームというのはちょっとわかりにくいので日本の名前で説明すると、たとえば鈴木さんと佐藤さんが結婚するとします。鈴木さんはそのまま自分の苗字を変えないのですが、佐藤さんは佐藤鈴木という苗字になります。不思議ですよね。

補足ですが、当然これら一連の儀式は全てドイツ語で行われます。従って、私達のように当事者二人のどちらかが外国人である場合、よっぽどドイツ語が流暢に話せる場合を除き、儀式の最初から最後までドイツで有効な資格を持つ通訳を雇って、同席してもらわなければなりません。同席した通訳も書類に署名します。これは、入籍という極めて重要な手続きの意味を本人がきちんと理解した上で署名することが必要である、というドイツの政府の考え方に基づきます。


では次に結婚式について。

入籍のときに指輪交換して、キスまでして、結婚式では何をするの?って思いませんか?私は最初夫から話を聞いたときとっても混乱しました。
結婚式はこちらの人はたいていクリスチャンなので、自分たちが通う教会のどちらかで、入籍の際の証人二人、親族に友人、知人などを招いて、神の前でもう一度今後の人生をともにすることを誓います。入籍とは違って、ウェディングドレスを着たり、結婚式はお披露目の意味もありますが、神への誓いと、牧師さんの祝福を受けることが主な目的です。指輪の交換を皆が見ているこの場でもう1度する新郎新婦もいますが、入籍の際に役所でいったんはめた指輪をはずしてまた交換するのは変だろうってことで、私たちは言葉での誓約にとどめました。

牧師さんの祝福を受けたり、親族からお祝いの言葉があったり、誓いの言葉を言ったり、賛美歌を歌ったりと、教会での結婚式は1時間以上かかります。この後、たいていは新郎新婦が手配したパーティー会場へみんなで移動し、そこで夜中までお祝いの宴は続きます。
入籍と挙式を同日にする人が大部分ですが、私たちのように1日違いであったり、中には入籍だけして結婚式はなしだったり、入籍から半年くらいしてから教会で挙式する人もいます。
では、入籍と結婚式の日付が異なる場合の結婚記念日とはいつになるのでしょう?

それは入籍した日です。ドイツではあくまで公の記録に残る日が結婚した日、ということになります。(2009年4月28日受信)


第10便

10回:住宅事情

こんにちは。今回はドイツの住宅事情、中でも特に賃貸マンションについてお話します。私が住むここハンブルクはドイツでベルリンに次いで2番目に大きい大都市ですが、ELBE河にある港はドイツで一番大きく、その広大なELBE河沿いにはドイツ中から大金持ちがやってきて大邸宅を構えています。そんな街なので家賃の相場はドイツの中でも相当高く、場所にもよりますが、首都ベルリンの方が同じ家賃で広い家に住めたりします。

ではこちらの人はどういう家に住んでいるのでしょう。まずは庭付き一戸建ての家。これは主に郊外の閑静な住宅地にあり、子供のいる家族が中心です。そして庭付きで隣と壁がつながっている家。これは日本ではあまり見かけませんが、こちらではごく一般的な様式です。2階建て、もしくは3階建ての家が2軒以上外壁を一緒にしてつながっていますが、入り口と庭も完全に独立しています。一戸建てを買うお金はないけど、マンションじゃなくて庭のある家がいいという家族が住んでいます。最後にマンション。日本と同様賃貸と分譲があります。ダウンタウンやその近く、都市部では庭のスペースがないので、断然マンションが多くなります。海外ドラマなどでよくみかけるルームシェアもこちらでは多いです。2人以上の人が共同で家やマンションを借り、家賃を折半して節約します。一人で1ルームのマンションを借りるより安いので、お金のない学生や、働きだしたばかりの社会人などを中心に人気です。

次に実際に賃貸のマンションを借りる手続きを見てみましょう。まずは物件探し。これはネットや新聞の住宅情報欄で探す人が大半です。日本のように不動産屋に直接出向いて、そこで案内してもらうことはこちらではありません。というのも、不動産屋に出向いても、不動産屋の抱えるほとんどの物件はネットや新聞に出してしまっているので、そちらを見て連絡してくる人と競わなければならないからです。たとえ直接出向いた不動産屋が案内した物件であっても、自分が優先的に入居できるわけではないので行くだけムダというわけです。ですからたいていの人は自分で物件を探し、目当てのものがみつかれば、早速広告主に連絡して訪問の予約を取り付けます。物件によっては、ネットや新聞上にオープンハウスの日程を書いているものもあり、その場合は特に連絡しなくても誰でもその時間に訪問して下見をすることができます。ただ、このようなケースは来る人の数が半端なく、50組くらいの人が部屋の外に順番待ちで延々と並んでいる、というようなこともザラです。ハンブルクには東京のように高層マンションがないので(3階建てくらいが普通です)、1つのマンションに住める人の数が限られていて倍率はかなり高いです。私達の場合は、今のマンションに決まるまで10件以上下見をしました。下見の場には管理している不動産屋も来ているので、気になることはこのときに質問します。日本と違ってびっくりするのは、下見の段階ではたまに前の入居者が住んでいて、理由は後述しますが、彼らが退去の前に部屋をきれいにしている最中、つまり、壁をぬっている途中だったり、バスルームのタイルを張り替えていたりする時があることです。工事現場さながらの場所に立って、きれいになったところを想像するのはなかなか難しいものがありますが、実際に物件を見て気に入れば、興味があることを不動産屋に告げて、職業や名前、連絡先、家族形態などを記入して不動産屋からの連絡を待ちます。不動産屋は入手したこれらの情報を元に、誰に部屋を貸したいかを決定します。そして、同じ物件に興味を示すたくさんのライバル達に首尾よく勝った場合のみ、入居の手続きに進みます。入居の時に必要となるのが、不動産屋への紹介手数料(共益費を除いた家賃の11.5か月分)、敷金(退出時に戻ってきます。共益費を除いた家賃の23か月分)です。不動産屋への紹介手数料はない場合もありますが、敷金は必ず発生するのでまとまったお金が必要です。また日本の場合は、退去する時に内装を自分できれいにすることはありませんが、こちらでは敷金を返してもらうために退去の際には壁ぬりや壁紙の交換などを自分でします。もちろん仕上がりが汚ければ不動産屋に拒まれますが、そんなケースはごくまれです。

そうしていざ入居となるわけですが、驚いてはいけません。ここから先は私の個人的な経験に基づきますが、部屋に一歩入って思わず絶句してしまいました。各部屋の天井には穴が開いていて電球をつるす配線が出ています。自分で好きな照明をつけろってことなのでしょうが、日本ではまず目にすることのない光景です。そして窓際にはカーテンレールがありません。管理人に質問したら、カーテンがいい人もブラインドがいい人もいて、こっちで勝手に決めるより自分で好きなようにしてもらおうと思って、あえてカーテンレールはつけていない、とのことでした。ということは、自分で壁に穴をあけて、カーテンレールを取り付けなければなりません。日本では自分の家にドリルがある人はほとんどいないと思いますが、こちらでは賃貸のマンションでも平気で自分の家にあるドリルで壁に穴を開けたり、釘を打ったり(どうせ出るときに壁をぬるんだからその時にふせいじゃえばいいのです)、けっこう大胆なアレンジをみんな平気でしています。我が家もそれにならって管理人の許可を取り、プロを雇って電気工事をして小さな物置のスペースにコンセントをつけたり、キッチンの壁にドリルで穴を開けて棚を付けたり、かなり色々と手を加えました。こうして書いていると、ほんとに何もない状態から自分達で手を加えなければならないようですが、不思議なことにキッチンには電気コンロとオーブンと冷蔵庫(ホテルのミニバーのような小さなものですが)と食器洗浄機が最初から付いています。キッチン有りの物件では、この4つは付いていることが多いです。

あと、最後になりましたが、日本のマンションとドイツのマンションの最大の違いは何か。それは地下室です。こちらでマンションを借りると、部屋の他にもれなく6畳ほどの専用の地下室がついてきます。これはもっぱら物置用で、コンクリートの打ちっぱなしであることが多く、普段使わないものをしまっておいたり、洗濯物を干すスペースにしたり、と自分で好きなように使えます。(2009,6,2 受信)

第11便

11回:犬のこと

こんにちは。今日はドイツでとっても人気のあるペット、犬についてお話します。ドイツの犬といえば世界的に有名なのはなんと言ってもシェパードです。シェパードの英語名がジャーマンシェパードであることからも、これは容易に想像がつきます。が、もちろんドイツ人がみんなシェパードを飼っているわけではありません。

日本では中型犬や小型犬が人気ですが、ここドイツでは大型犬を連れている人がとても多いです。思わずぎょっとするほど大きい犬を、リードもなしでそのまま散歩させている人がけっこういるので、犬が苦手な人は辛いかもしれません。

犬を飼うにあたって日本との一番の違いは、ドイツでは犬に税金がかかるということです。これは消費税のように手に入れる時に1度だけかかる税金ではなく、犬を飼っている間定期的に収めなければなりません。また、日本では一部の盲導犬や介護犬を除いて犬は電車やバスには乗れません。が、ドイツでは電車にもバスにも犬を連れて乗ってもいいのです。大型犬になると、大人1人分のスペースをゆうに取りますが、犬は無料でバスや電車、フェリーなどに乗れます。公共の交通機関だけでなく、ドイツは犬に優しい環境だと言うのは、犬を連れて入れる店がたくさんあることでもわかります。食料品を扱うスーパーマーケットや薬局などでは犬は外につないでおかなければなりませんが、ショッピングモールや、服屋、郵便局、銀行などには犬を連れて入れます。

びっくりしたのは、普通のカフェやレストランやパブなどにも犬を連れて入れることです。もちろんそういう犬はきちんとしつけがされていて、飼い主がテーブルで飲み食いしていても、食べ物をねだったりすることなく、他の客に吠えたり、店員に吠えたりせず、足元で静かにうずくまっています。私の実家では犬を買っているのですが、うちの母が先日こちらに来た際に、ドイツの犬のしつけの行き届きようにずいぶん感心していました。と言うのも、実家の犬は全くしつけがなってなく、人間が食事をしていると食卓に前足をついて、食べ物をねだるのです。こんなことをこちらのレストランでしようものなら、即退出しなければならなくなることでしょう。

ドイツ人は規則を守ることに重きをおくので、犬のしつけもきっちりしています。リードなしで犬を散歩させていても、通りかかる人や犬に吠えかかることはめったにありません。犬がそれだけ行儀がよいのに唯一残念なことは、飼い主のドイツ人は犬の散歩中に自分の犬がしたフンの処理をしないことです。そのため、ぼーっと歩いていると犬のフンを踏みそうになることがありますのでご注意を。。。





海外在住の卒業生からの便り


シンガポールで同時通訳の仕事をしている1期生 渡辺江美さんからの便り(終了:帰国しています)

第1便  第2便  第3便

第1便

第1期生の渡辺江美inシンガポールです。思いがけず始まった海外生活...日々興味深いことがたくさん起こるので、気が向いたときにお便りさせていただきます。

シンガポール赴任が決まる!

昨年夏に突然、夫のシンガポール赴任が決まりました。私はちょうど春に仕事を辞めて、通訳を目指して修業中の身でした。調べてみると、シンガポールは配偶者ビザでも所定の手続きを踏めば就労可能!9月に、通訳コースを修了して、10月に引っ越してきました。そして早4ヶ月...ぼちぼち慣れてきたところです。

久々の異文化

海外生活は小学生のとき以来。あの頃は、異文化を「異」と認識することもなく、お気楽なものでしたが、さすがに大人になってからの海外生活は、自分の中に日本人としての物差しが出来上がっているだけに、「異」だらけ!東南アジアの中では、先進的なイメージがあるシンガポールでも、実際に生活をしてみると、やっぱりアジア!淡路島ほどの小さな国に、中国系、インド系、マレー系の人々が混ざり合って住んでいるのですから、当然といえば当然ですね。常夏の気候も手伝ってか、全体にアジアンないい加減さが漂っていて、いちいち目くじらを立てていては身がもちません。でも不利益を被った時はしっかり主張しなければ泣き寝入りなので、この4ヶ月で文句を言うのは達者になったかもしれません!?トイレが壊れたり、メイドさんが行方不明になったり、小切手の入った郵便物がなくなったり、請求書が間違っていたり...日本では起こらないような「何でこんなことになるの??」と言いたくなる細かいトラブルは尽きません。意気込んで文句を言っても、「ネバマインラ〜」なんて言われて肩透かしを食らうことも...。万事うまくいったら儲けものだと思うようにしています(笑)。

日本人には住みやすい国

多少のカルチャーショックはあっても、日本人にとっては生活しやすい国だと思います。治安は、日本よりもいいぐらいですし、衛生面や医療も万全です。日本食や日本語の書籍も、少し高いものの、不自由なく手に入りますし、NHKの海外版放送も見ることができます。もちろんブロードバンドも普及しているので、リアルタイムで情報が入り、活字に飢えることもありません。多民族国家だけあり、各地の料理が勢ぞろいで、安いローカル料理から高級レストランにいたるまで、幅広いグルメライフを楽しめます。私の一押しはチキンライス!メイドさんを安く雇えるのも主婦にとってはうれしい話。流行のエステやマッサージなども日本よりお手ごろ価格で、私は足つぼマッサージにはまっています。映画も、日本より早く新しいものを安く観られます。「ハウルの動く城」の公開も始まりましたよ。

シングリッシュ

シングリッシュ(シンガポーリアンイングリッシュの短縮で、中国語の文法やマレー語の語尾が混ざった上に、独特のアクセントを持つ英語。おまけに超早口で話されます。)は、慣れるまで苦労しました。最初は、本当にチンプンカンプン。仮にもプロ通訳を名乗る人間がこれでは...と落ち込みましたが、それもだいぶ慣れました。シングリッシュと、それを話すシンガポール人気質の詳しいお話はまた今度...。

通訳デビュー

こちらに来てから無事に通訳デビューを果たしました。意外にいろんな仕事があり、新米通訳者としては、新しい仕事が入るたびに、専門用語と業界知識のつめこみが大変ですが、新しい分野に目を向けることは、本当に楽しいものです。シンガポールならではの仕事もあったりして、たくさん刺激を受けています。通訳のお話もまた別の機会に...。

それではまた。

2005227

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第2便

前回から早くも3ヶ月が過ぎてしまいました。本当はもっと頻繁に書こうと思っていたのですが、ありがたいことに通訳の仕事も増えてきて、忙しい毎日を送っておりました...というのは言い訳ですね(笑)。

シンガポールは常夏の国ですが、その中でも今、暑さのピークを迎えています。暑い日中は家の中に引きこもり、夕方になってからゴソゴソ動き出すという、シンガポーリアン的生活(?)を送っています。

 

シングリッシュ

 今日は、前回お話したシングリッシュについて。シングリッシュとは、シンガポーリアン・イングリッシュの略で、中国語の文法やマレー語の語尾などが混ざり、時制もいい加減で、かつ独特のアクセントを持つ英語のこと。シンガポーリアンはこれを超早口でまくしたてます。最初の頃はさっぱり分からず、途方にくれていましたが、慣れるとなかなか愛嬌のある憎めない言語です。

 

ネバマインラ〜

 よく知られているのは語尾に「ラー」がつくもの。Never mind laがついてネバマインラー。でも使い方がちょっとおかしいのです。ある日、大家さんが来るというので待っていたところ、一向に現れない!夜になって電話で「約束の時間に来ないから外出したよ!(ちょっと怒り気味のつもり)」と伝えると、「ネバマインラ〜」。その前に言うことがあるでしょ!と思いつつ、これも異文化だから仕方ない?と私も諦めモード。

 

キャン

 他によく使われるのはキャン(can)Can can!と2回重ねると「OK」を意味する実はとても便利な言葉。例えば、タクシー乗り場で運転手さんに‘Can?’(乗ってもいい?)‘Can can!(いいよ)、お店で試着室を指差しながら‘Can?’(試着してもいい?)‘Can can!’(どうぞ)など。老若男女を問わず、愛用されている言葉です。

 

Speak GOOD English キャンペーン

シンガポール政府は、シングリッシュは国際ビジネスなどの弊害になるとして、正しい英語を話そうという「Speak GOOD English」キャンペーンなるものを展開しています。何年か前から始まったようですが、効果のほどはいかに...!?シンガポール人の中には、シングリッシュこそシンガポール人のアイデンティティだと主張する人もいて、この運動には賛否両論あるとか。

 

多様な英語

ところで先日、とある国際会議の同時通訳をしました。国際会議だけあって、参加者の顔ぶれも多彩で、中国、韓国、インド、インドネシア、オーストラリア、ニュージーランド、アメリカ、イギリス、フランス...それぞれに特徴のある英語が飛び交っていました。こういう場面になると、ついつい○○英語は分かりにくい...などと言ってしまいがちですが、その点、感心するのは、シンガポール人!彼らは、どんな英語でも聞きとれるようです。小さい頃から、多文化共生の環境で育ったせいもあるのでしょうが、えらいなぁ〜と思います。世界共通語が英語というなら、いろんな癖があって当然。それを全部受け入れられる彼らは、実はとっても寛容で、真の意味で国際化しているのかも!?と思ったりします。

 

それではまた。

20056月16日

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第3便

今回は通訳の仕事について...といっても私はまだ通訳歴半年ちょっとの新米通訳者なので、まずはこれまでの道のりや、通訳の仕事内容について書いてみたいと思います。

 

なぜ通訳者に?

 これはよく聞かれる質問です。よくあるのは「英語力を活かしたいと思って」とか「通訳の仕事に憧れて」などでしょうが、私の場合は、それよりも「通訳の勉強が楽しくて仕方がなかったから」です。たまたま、何か自己啓発につながることをしたいと思って通訳学校の門を叩きました。この時は実は通訳学校でなくてもよかったんです(笑)。ただ、職場で通訳をする機会もあったので、全く未知の分野よりはとっつきやすいと思って選んだ程度です。英語の勉強だけならすぐに飽きてしまったと思いますが、通訳の勉強は奥が深く、すっかりその魅力にとりつかれてしまいました。授業で扱うテーマが毎回変わるので(政治・経済から社会、科学、環境など)、その内容にあわせて日本語・英語で背景知識を身につけなければなりません。その予習を通じて、仕事とはまた違った世界が広がっていくことが本当に新鮮で楽しくて、毎週の授業が楽しみで仕方がないという、先生にも笑われるような、とても珍しい生徒でした。何気なく通い始めた通訳学校ですから、学費も高いことですし、最初は1学期間しか通うつもりがありませんでした。それが途中から、通訳を自分の職業にできたらいいなと思うようになったのですから、不思議なものです。

 

通訳の種類

 一口に通訳といっても、いくつか種類があります。例えば、観光の通訳兼ガイドをする通訳ガイド(これは国家試験もあります)、産業視察などにアテンドする視察通訳、ビジネス関係の通訳をする商談通訳、セミナーやシンポジウムなどを通訳する会議通訳、テレビのニュースなどを通訳する放送通訳などです。また逐次通訳、ウィスパリング通訳(小さな声で同時通訳をする)、同時通訳(通常ブースなどに入って通訳する)など、通訳の方法も様々です。さらに働く形態も、フリーで活動する通訳(毎回クライアントが変わる)と、社内通訳として企業に入る人がいます。

 

シンガポールの通訳事情

 私は、通訳学校のコースを修了後、すぐにシンガポールに来てしまったため、日本の通訳事情についてはよくわかりませんが、シンガポールでは通訳者の絶対数が慢性的に不足しているようです。一方で、シンガポールはアジアビジネスの本部機能が集中しているので、東南アジア地域の役員や社員、お得意様などを集めた企業の会議や研修が開かれることも多く、最近はコスト削減の一環として通訳者を当地で手配する傾向にあるようです。そんな訳で、私のような新米通訳者でも、エージェントからいろんなお仕事をいただくことになります。日本では、通訳者のランク付けが比較的はっきりしていて、高度な仕事はベテラン通訳者に、それほど難しくない仕事は初心者に...という形になるかと思いますが、こちらでは一人が何でもこなすという感じです。私が今までに担当した仕事も、少し英語ができればOKというものから、国際会議の同時通訳まで、本当に幅広いです。難しい仕事の前は予習が大変ですが、せっかくいただいたチャンスなので、一つ一つの仕事を大切に取り組んでいます。

 

通訳に求められるものは?

もちろん的確な通訳力(これは語学力プラス通訳技術)は必須ですが、同時に通訳というのはサービス業であることを忘れてはならないといつも思っています。私はフリー通訳者なので、毎回クライアントが変わります。初めて出会う方の通訳をさせていただくわけですが、できるだけお客様のニーズを把握するように努めています。その日の会議の内容によって、時間がないのでとにかくスピードが必要なもの(ひたすら早く訳す)、微妙な駆け引きや財務分析を伴う商談なので特に正確性が求められるもの(数字やニュアンスには特に気をつけて訳す)、大事なお客様との食事会なので雰囲気が大切なもの(雰囲気を邪魔しないような話し方とタイミングを心がける)など様々です。でもだからこそ、この仕事はおもしろい!と感じています。

 

それではまた。

2005年8月2日