小川忠さん講演会「政策としての国際文化交流」報告
異文化研究交流センターでは、秋の連続講演会の第1回として、10月19日に講演会「政策としての国際文化交流」(講師:国際交流基金・小川忠さん)を開催しました。学生・教員など約50名の参加がありました。当日の様子と参加した学部3回生の森田さんの報告を掲載します。
参加者の感想
「国際文化交流政策とその可能性」
森田望美(地域文化論講座)
普段生活していて「国際文化交流政策」という言葉を聞く機会はあまりないが、それは、政府や地方公共団体などが行う公共政策の一部であり、国際文化交流を政策目的達成のための手段と位置づけて講じられている様々な施策や計画のことである。ここで言及されている国際文化交流とは、ヒト・モノ・カネの国際異動に伴い自然と起こる文化的な現象ではなく、あくまでも意図的に実施される事業や活動を指している。
国際文化交流政策は政策分野によって、文化外交(パブリック・ディプロマシー)、文化芸術の振興、コンテンツ産業(いわゆるポップカルチャー)、観光の振興などに分類される。なかでも近年、グローバルに見られる市民社会の台頭などを背景に重要性を増してきているのが文化外交と言われるもので、外務省や国際交流基金などが主体となり、日本イメージの向上や日本理解の増進、相互理解の増進といったことを目的とした政策である。
文化外交(パブリック・ディプロマシー)の狭義の定義は、「自国のプレゼンスを高め、イメージを向上させ、自国についての理解を深めるよう、海外の個人及び組織と関係を構築し、対話を持ち、情報を発信し、交流するなどの形で関わる活動」である。つまり、通常の外交が政府間で行われる交渉あるいは政策であるとするならば、文化外交とは、中長期的な目標に向けて政府と個人との間で行われる活動なのである。そのため狭い利己的な考えを主張するようなものは受け入れられず、国際的に共有されうるものでなければ効果を発揮し得ない。
また、文化外交においてもっとも重視されるべきものは対話である。政府が一方的に自国文化のアピールをすれば、それは単なる自国文化の切り売り・押し付けにしかならない。相手の主張を聞き対話することで初めて文化外交が成立するのである。
日本にとって文化外交は今後ますます重要になってくると思われる。民主党政権は、東アジア共同体の設立に意欲を示しているが、中国・韓国における反日感情や歴史問題の存在がその疎外物の1つとなるのは間違いないであろう。中国・韓国における日本のプレゼンスは非常に高いものの、日本のイメージは極めて低いと言える。今こそ、日本の文化外交によってこれらの国々と対話し、真の相互理解を目指すことが求められているのではないだろうか。【了】