澤口謙一さん講演会「日本と中東との相互理解に貢献するビジネス・モデルの展望」報告

 異文化研究交流センターでは、秋の連続講演会の第2回として、11月13日に講演会「日本と中東との相互理解に貢献するビジネス・モデルの展望」(講師:中東協力センター・澤口謙一さん)を開催しました。国際文化学部・研究科の学部生、院生、教員を中心に、他研究科の院生を含めて約20名の参加がありました。当日の様子と参加した学部1回生の池内さんの報告を掲載します。

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参加者の感想

ビジネスが持つ日本と中東の未来への可能性

池内梨紗

 今まで、「中東」と聞いて浮かぶのは、石油や砂漠のある風景だった。日本からは距離的にも、身近さからもまさに遠い国々という印象で、知っていることはテレビや新聞等、メディアからの情報が大半だった。日本と中東が石油の輸入以外でどのように関係しているか、中東の文化と人々の暮らし等に興味を持ち、今回の講演を聴講させて頂き、関心を深めた。

 まず、やはり日本と中東との関係を考える上で大きな要素の1つとなるのは石油資源である。世界の石油の可採埋蔵量には限りがあるが、原油は100年で究極可採資源量の3分の1をわずか100年で使い果たしたという事実にとても驚いた。また、可採年数が、原油では残り38年弱、天然ガスでは50年強であり、その数字によって資源の有限性をより強く実感させられた。石油資源の可採年数を延ばすために重要となるのが、非在来型石油資源の開発である。開発によって、石油資源の可採年数を現在の1.5倍にまで引き上げることが可能になる。しかし、開発には、追加的な技術を必要とするために、コストが高く、油価が高くないと開発の動機付けが難しいという問題がある。他にも方法があるが、世界的金融危機に伴う開発投資の縮小が懸念される。さらに、油田は世界各地にあるが、減少傾向にある油田や、反対に今後も産油能力を期待できる油田など、地域差が生じている。

 世界の油田の中で、中東は今後も安定した産油能力が期待されている。そして、日本は石油輸入量を約90%も中東に依存している。エネルギーを確保し、産油国とより関係を拡大強化するために、日本の産業力や技術力を活用する必要がある。それによって、双方向で必要とされる存在を目指すことができる。より良い相互依存の関係を築き、相互理解を促進することに、ビジネスがどのような役割を果たすのか具体的な事例が挙げられ、大変興味を持った。中東進出企業のビジネス・モデルには6つのパターンがある。中でも、貿易や第3国での共同事業、人材育成支援が今まで知らなかった日本と中東との関係を示してくれた。貿易では、回転寿司や100円ショップ、自動車修理チェーン店という日本での日常生活に深く根ざしたものが中東でも事業展開されているということ。共同事業では石油産業のみならず、非石油分野でも、日本と中東の企業が第3国という異なる環境で協力し合う機会が数多くある。そして、人材育成支援での協力もある。中東に法人を設立し、現地の人を採用したり、日本の自動車会社が自動車の整備技術を教える学校をサウジアラビアに設立したりしている。ビジネスを通し、現地の人々と直接関わり、共同作業を行って得る、新たなことに挑戦する機会は、利益による発展だけでなく、相互理解にもつながるだろう。

 そして、中東北アフリカ22カ国の現状とそれに対しての、日本に期待される役割についての現実に触れることができた。現在、中東諸国では人口が年平均3%台で増加している。増加する人口の雇用の受け皿とするために、石油依存からの脱却、産業多角化政策が急がれている。日本による産業協力がこの点で求められている。例えば、共同事業形成支援を行うタスクフォースの設置、イラクの戦後産業面での復興支援などである。また、大学間交流によって、教員や留学生の相互交流や、共同研究の機会を増やしたり、職業教育研修機関を設立したりしている。中東はこれからも人口が増加していく傾向にあるので、より一層、人材育成支援は活発になるだろう。これらの協力に加え、人と人とが直接関わる、草の根外交を行っていく必要がある。政治、経済、社会、文化、学術など、分野の幅を広げることで、交流に携わる人の数を増やすことができる。相互交流によって、密接に関係し合い、信頼関係を築き、中東各国の国造りのパートナーとなる道が開ける。

 ビジネスは雇用を生み出すので永続的に展開できるという良さがある。そして、ノウハウを相手に供与することによって、単独ではない、新たな可能性を広げることができる。ビジネスの永続性を生かし、幅広い多彩な人と人とのつながりを築き、未来に続く良いパートナーとなることができるだろう。そして、遠い存在であったお互いを身近に感じられ、相手についてもっと知りたいという好奇心につながる。ビジネスは、金銭面での安定性をもたらすだけでなく、相互理解への重要なきっかけの一つになる大きな可能性を持っている。この可能性を生かすために創意工夫と、努力を惜しまないことが必要とされる。

 今回、講演の中で、中東諸国で撮影された多くの写真が紹介されていた。中東の人々の日常風景や料理など、まだまだ知らない中東の生活について知ることができた。数多くある写真の中で、私にとって最も印象に残った1枚の写真がある。それは、イランの最高峰ダマーヴァンド山が写った写真である。その景色はとても美しく、ニュースでは見ることのない、イランの景色であった。今まで、中東についてどれだけ知らなかったのか、気づくことができ、知ることの素晴らしさを学んだ。一部分で印象を作るのではなく、全体への興味を持ち、視野を広げることの大切さを改めて実感した。

 また、私たちが中東の国々についてあまり知らず、遠い国々という印象を持っているということは、中東の人々も日本について同じような印象を持っているだろう。現在、お互いに知る機会がまだ少ない。しかし、それは、これから新たな発見が数多くされるということである。そのために、中東と日本とで交流する機会を、増やし続けることが必要である。日本と中東、それぞれの良い点を見つけ出し、協力していくことで、エネルギー面だけでなく、多くの分野で共に発展していけるだろう。どの分野で協力できるかを共に考え、相互理解を深め、実践できるように導いていくことが今後の私たちの役目だと考える。【了】