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第3回 国際文化学のフロンティア
「済州と琉球の神話比較試論」

講演者:許 南春 氏(大韓民国:国立済州大学校国文学科教授) 
使用言語:韓国語(日本語への通訳がつきます) 
通訳:柳 圭相 氏(関西学院大学朝鮮語常勤講師) 
日時:2011年11月4日(金)18時~20時
場所:学術交流ルーム(E410/ 国際文化学部E棟4階)
入場:無料(申し込み不要・学生、院生も歓迎します。

チラシ
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概要

 沖縄の伝承に見える巨人「あまんちゅー」を、折口信夫はまれびと、技術や作物など様々な恵みを与えて帰る来訪神、ニライカナイから来る天恵だと指摘した。この神は文字を与えてくれた文化英雄でもあり、大陸渡来人との連関や熊本の巨人伝承などとの連関が論じられてもいる。しかしこの伝承は、天地分離に関わる起源神話として注目すべきであ
る。
 沖縄の古代神話は『おもろそうし』に凝縮されている。済州島と沖縄のクッ(巫俗儀
礼)は、文化的始原性を維持している点で重要ある。今後の神話研究は、普遍主義を装った伝播論と系統論から脱する必要がある。国家主義から脱し、少数民族の独自性を認める方向へ進むべきである。
 神話を考えるときには、古代性と中世性を区分する必要がある。尚巴志は神話を操作
し、支配者の権威を創り出した。そのような中世性を取り除いたとき、『おもろそうし』の中に古代の英雄叙事詩が見えてくる。

 

主催・問合せ:異文化研究交流センター(IReC)


報告 

 15世紀、琉球王国は東アジア地域を結ぶ重要な国家として存在していた。日本との交流や中国との朝貢関係は言うに及ばず、朝鮮半島(李氏朝鮮)とも頻繁に交流を図っていた。『朝鮮王朝実録』によると、琉球と朝鮮の交流が437 件も記録されている。また1479 年には、与那国島に漂着した済州島の金非衣一行が琉球王国に立ち寄ったという記録も残されている。こうした朝鮮との交流は、文化面においても見られる。すなわち、琉球と朝鮮半島には、同じ内容を有する伝説が数多く残されているという。報告者である許南春氏は、自身の出身である済州島を具体例に挙げて、琉球と朝鮮の神話を比較する事を試みている。
 琉球と済州島の関係を考える上で、「クッ」と呼ばれる巫俗儀礼は看過できない。許氏はクッについて「文化的始原性をそのまま維持しながら、異なる地域においてはなくなってしまったものを立派に受け継いでいる」と指摘した。すなわち、琉球と済州島にクッが伝わっているという事は、両島には文化的始原性が受け継がれている事を意味していることになる。またその文化的始原性は、同一のものである可能性も考えられる。
 琉球と済州島に同一の文化的始原性が存在していた可能性の裏付けとして、許氏は『おもろそうし』に収録されている歌を提示した。『おもろそうし』とは、琉球に伝わる歌「おもろ」を集めたものである。許氏は『おもろそうし』巻12 に見られる「一 伊祖の戦思ひ月の数 遊び立ち 十百度 若てだ 栄せ〜」の歌には、農民の親愛や酒と遊びを通じた天下泰平を賛美する気持ちが歌われている事を指摘した。天下泰平を賛美するという事は、すなわち為政者・支配者を賛美する事と同義になる。歌でもって為政者・支配者を賛美するという思想は、朝鮮の「龍飛御天歌」にも見られるという。琉球と朝鮮(済州島)との 文化的な繋がりが十分に理解出来る分一例であると言えよう。
 琉球と済州島の神話比較は始まったばかりであり、まだまだやるべき事は多く残されている。許氏のさらなる研究成果を心待ちにしたい。

(協力研究員 鬼頭尚義) 

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