2010年度協力研究員研究テーマ
王念家 Nianjia WANG
研究テーマ:「中国における児童福祉事業の展開」
研究概要:
著しい経済成長を遂げた中国は社会福祉の充実をこれから、重要な課題として急がなければならない。社会福祉の分野に児童福祉に注目したい。現行している狭義の児童福祉(中央政府の指導の下で、民政部が保護者のいない、身寄りのない、生活できない、すなわち「三無」対象の孤児・遺棄児童・障害児・貧困児童・ストリート・チルドレンなどを救済・保護するために提供している児童養護施設あるいは特定サービス)の概念をいかに打破して、全般的な児童福祉の充実を実現するかは中国にとって将来的な課題の一つである。中国でも今後、地域社会の共同体的機能を高めることができれば、地域密着型の児童福祉事業を実現することも十分に可能である。全般的な児童福祉の実現の必要性と地域社会の共同体的機能に着目する視点を持ちながら、中国の児童福祉に関する研究および日本との比較を研究課題として進めたい。
主要研究業績
- 「中国における児童福祉の発展―児童福利院と里親制度を中心に」『国際文化学』(18)、2008年3月、1-18頁
- 「中国の児童福祉事業における政府の役割とNGO」『国際文化学』(22)、2010年3月、57-69頁
鬼頭尚義 Naoyoshi KITO
研究テーマ:「歌人伝説の形成と展開」
研究概要:
日本各地には、様々な伝説が残されている。英雄に関する伝説、巨木・巨石伝説、または地名由来伝説など枚挙に暇がない。こうした伝説の中でも、特に目を引かれるのが、都からやってきた歌人に関する伝説―いわゆる歌人伝説である。修士課程から博士課程の5年間は、平安中期を生きた歌人である藤原実方に注目して、実方伝説の形成背景とその意味について研究を進めてきた。その概要を簡単に述べておく。実方伝説の形成には、在地の人々―中でも俳諧師や権力者といった、一定水準以上の知識を持った人々―の関与が確認できた。実方伝説に見られる俳諧師や権力者の関与は、図らずも小野小町や西行、和泉式部といった歌人伝説にも見られる構図の一部でもあった。今後は、実方と比較されることの多い在原業平や、実方と親交が深かったと言われている清少納言ら、関西と縁の深い歌人に焦点を当てて、伝説の形成背景と意味について考察を進めていき、実方や小町と同じような構図が当てはまるのかを探っていく予定である。最終的には、旅する歌人伝説のデータベースを構築し、旅する歌人伝説が様々な地域に残されている背景やその意味を理解する一助にしたいと考えている。本研究は、日本文化の基層部分を理解する上でも、欠かす事は出来ないのではないだろうか。
主要研究業績
- 「実方説話と寺社縁起-更雀寺を例として」『仏教文学』(32)、2008年3月、64-75頁
- 「歌枕を巡る実方―出羽国大沼に残る伝承を例としてー」『説話・伝承学』(17)、2009年3月、78-93頁
倉田誠 Makoto KURATA
研究テーマ:「淡路瓦産地における産業体系の変化と地域社会の再編 」
研究概要:
博士論文では、オセアニアのサモア社会を対象として、保健医療・福祉政策の長期的な変化のもとで地域社会における病気への解釈や対処が変貌してゆく過程を公文書や現地でのフィールドワークを通して明らかにしました。また、2009年度から参加した「ワークライフバランスと安心して働ける社会をめざした実証的研究」(基盤研究(C)、研究課題番号20604002)や本研究科における南あわじ市でのフィールドワーク実習では、同じく地域社会における住民福祉や住民生活の変貌に焦点を合わせ、日本の代表的な地場産業地域である淡路瓦産地における産業と地域社会、あるいは、そこでの仕事と生活の関係性を調査するようになりました。近代以降、地場産業の変動とともに生きてきた淡路瓦産地住民の生活史は、産地住民による自身の地域社会に対する展望のみならず、現在の日本の地方社会における地域社会のあり方やそこでの生活設計に対して重要な示唆を含んでいると思います。本研究センターでは、センターのプロジェクトに近い後者の方を主な課題として貢献していく予定です。
主要研究業績
- 「淡路瓦産地における『伝統』と革新ー新たな『つながり』を求めた試み」、倉田誠・岡田浩樹編 『平成21年度 南あわじフィールドワーク報告書』(神戸大学大学院国際文化学研究科 大学院教育改革支援プログラム報告書)、2010年、109-131頁
- 「グローバル化する精神科医療とサモアの精神疾患 マファウファウの病気をめぐって」、須藤健一 編『グローカリゼーションとオセアニアの人類学』風響社、2010年、201-220頁
徐小潔 Xiaojie XU
研究テーマ :「新聞からみる日本社会の多文化化―神戸を中心に」
研究概要:
私の専門は20世紀初頭の日中関係史です。博士論文においては、日本の対外認識を当時の新聞、外交文書などを通じて明らかにしました。その後、日本社会における多文化共生問題に注目し、在日外国人に焦点を当てながら、現代日本社会における対外認識の変化を考察するようになりました。本センターでは、日本社会における多文化化の社会背景と意識変化を明らかにするため、神戸市長田区の在日外国人を事例に、1945年終戦からの新聞、統計資料、そしてインタビューを通じて調査していく予定です。
主要研究業績
- 「日露戦後における日本の「被害者意識」―「米清同盟」説と新聞報道」『鶴山論叢』(5)、2005年3月、37-53頁
- 「学校における多文化共生」『母語教育の在り方に関する最終調査研究報告書』2008年3月、CD-ROM版
高岡智子 Tomoko TAKAOKA
研究テーマ:「東ドイツとハリウッド映画音楽の比較研究―文化政策とメディア史的観点から―」
研究概要:
本研究は、これまで学問的に考察される機会が少なかった映画音楽に焦点を当て、文化政策とメディア史の観点から東ドイツとハリウッドの映画音楽を比較する。資本主義と社会主義という異なる社会体制のもとで、映画音楽作曲家たちは現実にいかに対峙したのか、また音楽は社会のなかでいかに機能してきたのか。東ドイツの映画音楽については、社会主義国家のなかの映画音楽の全貌を明らかにすることを目指し、同時に文化政策的観点から映画音楽の機能について検討する。この研究と並行して、シートミュージック(sheet music)やジュークボックス(juke box)といったメディアの発展という文脈から、1950年代から60年代のハリウッド映画音楽を読み解きたい。
主要研究業績
- 「東ドイツの文化政策と亡命ユダヤ人作曲家―ワイマール文化から社会主義リアリズムへ―」『社会文化学会』(12)、2010年3月、91-112頁
- 「コルンゴルトのオペラに見られる『メロドラマ』手法―初期ハリウッド映画音楽の萌芽をめぐって―」、神戸大学国際文化学会、『国際文化学』(13)、2005年9月、36-60頁
張暁旻 Shiaomin CAHNG:
研究テーマ:「台湾における買売春研究」
研究概要:
博士論文では、帝国日本による台湾植民地支配政策の一環として導入された台湾公娼制の確立過程を具体的に跡づけ、植民地支配下の台湾における買売春管理体制の構築過程を実証的に明らかにした。今後、いままでの研究成果に基づき、植民地台湾における各地裁判所による判例史料(「日治法院档案資料庫」)を活用しながら、植民地期の買売春管理体制の具体像を解明していきたい。また、植民地台湾の買売春管理体制は、帝国日本の他の植民地・支配地域に実施された買売春管理とどう関係しているのか、清朝時代の台湾における買売春管理および戦後台湾の買売春管理との間にどのような連続・断絶が存在しているのかといった問題にも取り組んでいきたい。
主要研究業績
- 「植民地台湾における公娼制の確立過程(1896年-1906年)-『貸座敷・娼妓取締規則』を中心に」『現代台湾研究』(34)、2008年9月、1-25頁
- 「植民地台湾における公娼制導入過程の実証的解明―1896年の台北県を事例として」『国際文化学』(21)、2009年9月、1-17頁
沼田里衣 Rii NUMATA
研究テーマ:「音楽療法、コミュニティアートにおける創造的音楽活動について」
研究概要:
筆者は、これまで音楽療法、コミュニティ音楽療法、コミュニティアート、アートマネジメントなどの領域で、福祉やコミュニティの創成などの現代的ニーズに芸術の様々な可能性が試されている状況に身を置き、音楽の生成、パフォーマンスや享受の過程でどのようなイデオロギーが働き、価値観の交換が行われているのかなど、自ら実践しながら観察・研究してきた。今後もこのようなこれまでの音楽療法やコミュニティにおける創造的音楽活動の研究・実践をさらに追求し、新しいアートを創出するというアート側の欲求と社会的要求がせめぎ合う場面に生ずる課題について、研究を進めて行く予定である。
主要研究業績
- 「音楽療法における即興演奏に関する研究ーセラピストとクライエントの音楽的対話の過程とその意味ー」『日本音楽療法学会誌』5(2)、2005年、188-197頁
- "EinScream!:Possibilities of New Musical Ideas to Form a Community", Voices: A World Forum for Music Therapy Vol.9(1),2009. http://www.voices.no/mainissues/mi40009000304.php
野村恒彦 Tsunehiko NOMURA
研究テーマ:「19世紀英国における科学(特に数学)と自然神学」
研究概要:
チャールズ・バベッジは19世紀の英国において活躍した数学者・科学者である。彼の業績の中で特に著名なものとしては、「階差エンジン」、「解析エンジン」の設計及製作があるが、その業績の範囲は数学を始めとして自然神学、経営学、機械技術等多岐にわたっている。彼が生きた19世紀英国においては、当時刊行された「ブリッジウォーター論集」に見るように、特に科学と宗教の関わり合いが課題となった時期であり、数学の分野においては大陸の解析学導入が批判にさらされた時期でもあった。そこには英国で独自に発展した自然神学が、大きな影響を与えている。これらのことを踏まえ、19世紀英国の科学者(特に数学者)の思考を、バベッジの業績を中心にして、数学と自然神学という異なった文化の関連を通じて追求していきたい。
主要研究業績
- 「チャールズ・バベッジ『第9ブリッジウォーター論集』の数学的意義」『科学史研究』46(244)、2007年、220-230頁
- 「チャールズ・バベッジと解析協会(Analytical Society)」『数理解析研究所講究録』(1513)、 2006年、36-45頁
秦美香子 Mikako HATA
研究テーマ:「ジェンダーの見地からの漫画研究」
研究概要:
ジェンダー論の視点から、「少女文化」について研究しています。「少女」は「女性」に含まれますが、しばしば、二元化されたジェンダーとしての「女」に整合しないものとして語られることもあります。「少女」についてのそのような語りに対する分析を通して、ジェンダーが、明確に規定されたものというよりも、複雑に構築されるものであることを論じていくことが、研究テーマです。博士論文では、とくに日本の少女漫画を分析しました。今後は、海外と日本の「少女」観の比較を行う予定です。海外に日本の「少女文化」が紹介されるとき、「少女」の意味がどう変化していくかということについて分析していきます。
主要研究業績:
- 「女性向けマンガに描かれる三者での性的結びつき」『女性学年報』(26)、2005年11月、60-78頁
- 「女性向けマンガ雑誌におけるジェンダーとセクシュアリティ」『マンガ研究』(8)、2006年4月、24-45頁
ヴィヴィアン・ブッシンゲル-カバリ Vivian Bussinguer-Khavari
研究テーマ:「在日外国人児童の言語学習状況」
研究概要:
第二言語習得の中でも次のような分野について研究しています。母語保持、言語喪失、リテラシーの獲得、継承語教育、移民の子どもの言語学習に対する親の態度などです。具体的には在日外国人児童・生徒の言語学習問題について研究しています。博士研究では非集住地区に居住するブラジル人児童の日本語習得およびポルトガル語維持の状況について研究しました。
主要研究業績:
- ブッシンゲル・ヴィヴィアン ・ 田中順子「マイノリティー児童のバイリテラシー測定の試み−非集住地区に居住するブラジル人児童を対象に−」『母語・継承語・バイリンガル教育(MHB)研究』(6)、印刷中
松井真之介 Shinnosuke MATSUI
研究テーマ:「フランスのアルメニア人ディアスポラのアクチュアリティに関する研究」
研究概要:
フランスのアルメニア系住民はフランスの旧移民として90年近くの歴史を持ち、第二次世界大戦後「統合の模範生」と言われる一方で、今でもアイデンティティの主張を行っている。3世代で同化したといわれる他のフランスの旧移民の中で、アルメニア系住民のこのようなアイデンティティの主張は特異な地位を占めている。私はそれがどのような形で主張され、それがフランス社会からはどのように見られているかということに興味を持ち、現在はアルメニア人ジェノサイド認知活動とアルメニア学校の運営の実態を主軸に調査研究している。それと同時に近年では、それらがフランスの他のマイノリティや地域主義に、さらにはEU(特にトルコのEU加盟問題)にどのように影響を与えているかについての調査研究もはじめている。
主要研究業績:
- 「フランスにおけるアルメニア学校の建設と運営」『フランス教育学会紀要』(21)、2009年、79-93頁
- 「忘れ去られたジェノサイドの認知―オスマン帝国によるアルメニア人ジェノサイドに関する三つの国際的認知をめぐって」『国際文化学』(14)、2006年、15-29頁。