Contes

-Contes d'une Grand-mère(第1集1873年刊、第2集1876年刊)

  晩年のサンドは孫娘たちのために童話を書いて出版した。日本語訳のおもなものは次のとおり。
『ばら色の雲』:「ばら色の雲」「ピクトルデュの館」「ものをいうかしの木」収録、岩波少年文庫、1954年刊
『ばら色の雲』:「ばら色の雲」「かえるの女王」(コアックス女王) 収録、講談社こどもの世界文学、1973年刊
『母のおもかげ』(ピクトルデュの館):偕成社、1990年刊
『コアックス女王』:青山社、1992年刊
『フランス幻想文学傑作選3』(白水社、1983年刊)に「巨人のオルガン」が収録されている。
『ちいさな愛の物語』(小椋順子訳=解説よしだみどり・画、藤原書店2005年刊 ジョルジュ・サンド セレクション第8巻)   サンドの晩年の童話集Contes d'une grand-mereに含まれる13作品の中から次の10作を選んで訳出したものである。「ピクトルデュの城」、「女王コアックス」、「バラ色の雲」、 「勇気の翼」、「巨岩イエウス」、「ものを言う樫の木」、「犬と神聖な花」、「花のささやき」、「埃の妖精」、「牡蠣の精」。原作は、イギリスのファンタ ジー『不思議の国のアリス』が実在の少女アリスの求めに応じて創作した物語であるのと同様、サンドが二人の孫娘にせがまれるままお話をして聞かせ、のちに 上下二巻の本として出版された。
  「大切なことは、妖精がこの世にいるのか、いないのかを知ることです」これは「ピクトルデュのお城」で、「不思議なことが好きな年頃」の孫娘オーロー ルに宛てた献辞の一節である。子供の心をひきつけるファクター「珍しさ」、「不可思議さ」(その本質は驚異の感情)がどの作品にも随所にあふれている。作 者の故郷ベリー地方の自然や、幼年時代の記憶、また晩年の思想を色濃く反映しており、単なる子供向けのお話として看過すべきではない。サンドは、いきいき とした等身大の子供像を描く事のできた稀有な作家であった。『星の王子さま』を除くとファンタジーに乏しいフランスの児童文学の中に、このような空想に満 ちた美しい物語があったのだ。子供の本に欠かせない素敵な挿絵も添えられている。題名の「ちいさな」という形容詞は「子供のための」という意味と、『愛の 妖精』(原題「ラ・プチット・ファデット」La Petite Fadette)の「プチット」(小さな)からの連想であろう。(この項目の解説は平井知香子氏による)
『薔薇と嵐の王子』(ニコル・クラヴルー画、田中真理子訳)   Contes d'une grand-mereの中の「花のささやき」を絵本化した作品。晩年のサンドが孫のオロール(訳ではアウローラ、イタリア語からの訳のせいか)に自分の子 供の頃のお話をしているというシチュエーションになっている。あらすじ:「ある夕暮れ、わたしは花壇の隅の花から見えない地面に寝そべり、すぐそばで話し ている花の言葉に聞き耳を立てたの。」それは微風が語る薔薇と嵐の王子(微風自身)の話だった。西風は最初、嵐の王の長男として破壊を繰り返していた。あ る日、地上に咲く一本の薔薇の花に出会って、その匂いに魅せられる。破壊行動をやめた王子は薔薇の花を抱いて空に飛び立ち天空の宮殿に戻る。しおれ始めた 薔薇の命を助けるため、王子は父に懇願する。父は情けというものを知った息子に怒り、王子の手から薔薇をもぎとると、その花弁ははらはらと空中に散って いった。父の怒りにふれた王子は翼を失って地に落とされる。森の中で彼は薔薇が再び生き返ったことを知る。「どうしたことだ?死んだとばかり思って涙にく れていたのに。なぜ生き返ることができたのだ?」「それは、生命の精があらゆる生き物に力を与えてくれるからよ。」微風となった王子は今後地球上の友とし て、人間や植物の間で自由に暮らすことになる。「嵐の子を温かいこころで打ち負かした美しい薔薇の花よ、バンザイ!花の友だちになったやさしい微風さん も、バンザイ」野薔薇たちの「この話を家庭教師の先生にしたら、あなたは病気だから下剤をお飲みなさいっておっしゃったの。でも、おばあさまはわたしをか ばってこういってくださった。」「薔薇の花が話すのをお聞きになったことがないとは、先生もお気の毒ですこと。花の言葉をきくことは、小さな子どもの特権 です。それを病気と間違ったりなさらぬよう、くれぐれもお気をつけくださいましね。」   画:ニコル・クラヴルー--1940年、フランス、ロアール県サンテチィエンヌ生まれ。本書をはじめ、ルイス・キャロル、アンデルセンの挿画等60作品 以上にのぼる。訳:田中真理子--イタリヤ語通訳、翻訳者、作家。   絵本の表紙は、エンジがかった赤系統の枠の中に二本の巨大な野薔薇の花が立ち、その花の下につばの広い白い帽子の女の子がいる。一度見たら忘れられな いなんともユニークな光景である。ニコル・クラヴルーの絵の圧倒的な存在感がサンドの童話を現代に生き生きと蘇らせた。サンドの『薔薇と嵐の王子』(花の ささやき)は天と地を舞台とし、「バラと王子」が登場している点で、同じバラの花が登場するサン・テグジュペリの『星の王子さま』の先行作品であることは もっと知られてよいのではないだろうか。(文責:平井知香子)

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