-Consuelo(1842-43年刊)『歌姫コンシュエロ』(藤原書店、2008年刊)
この小説と続編『ルドルシュタット伯爵夫人』をサンドの代表作と考える研究者は多いが、彼女の田園小説とは違い、毀誉褒貶の激しい作品である。18世紀ヨーロッパを舞台に、天才歌手コンシュエロの愛と冒険を描き、音楽家や政治家など当時の実在の人物と架空の主役たちをからませ、また、オカルト的趣向のもとに15世紀のフス戦争の時代と18世紀のボヘミアを結びつけたゴシックロマンスの要素をも備えた音楽小説。あらすじは次のようなものである。18世紀中葉のヴェネチアで大作曲家ポルポラに見出された少女コンシュエロは、オペラ界にデビューするが、テノール歌手アンゾレトとの恋に破れてイタリアを去る。師ポルポラの養女となった彼女はボヘミアのルドルシュタット伯爵邸に招かれて、伯爵の息子アルベールの婚約者アメリーの音楽教師となる。アルベールはコンシュエロに恋するようになるが、彼女はボヘミアを去ってウィーンに向かい、そこでポルポラと再会する。マリア・テレジア女帝の支配するウィーンになじめないふたりは、フリードリヒ大王のいるベルリンに行くことにする。その途上、アルベールが重病であることを知ったコンシュエロはボヘミアに引き返す。彼女を待っていたアルベールは、コンシュエロと結婚式をあげた直後に息をひきとる。こうしてルドルシュタット伯爵夫人となった彼女は再びベルリンをめざして出発するのであった。このあと物語は『ルドルシュタット伯爵夫人』へと続く。
この小説を構成するふたつの大きな要素は音楽と宗教であろう。このふたつは主人公コンシュエロの中でわかちがたく結びついており、交互に小説の前面に出てくることになる。ヴェネチアやウィーンにおけるエピソードでは音楽が主役を演じ、ボヘミアのエピソードでは宗教のほうが前面に出ている。音楽と宗教は主人公の名によって象徴される魂の慰め(Consueloはスペイン語で「慰め」を意味する)にたどりつくためのふたつの道として用いられている。