「Jeanne d'Arc et "Le Peuple" de Michelet」(仏語論文)『論集』50号、1992年、神戸大学教養部、pp.19-30
ミシュレの著作におけるジャンヌ・ダルク像生成のプロセスを概観したあと、彼の『民衆』(1861年刊)に現れる「民衆」および「祖国」の概念とジャンヌ像との関係を検討する。
『民衆』においてミシュレは1840年代のフランス社会の危機を分析して、その遠因のひとつはフランス人たちが熱狂的な心と博愛の精神を
失ってしまったことにあると考える。そして彼は民衆の活動的な本能の中にある豊かなものを再認識しなくてはならないと言う。彼によれば、年老いて硬直状態
に陥っているブルジョワジーは民衆と交わることによってのみ若さを取り戻すことができるのである。ブルジョワジーと民衆が協力すれば社会を調和のとれた生
産的なものにすることができるというのがミシュレの主張である。彼はまた、フランス人たちが初めて自らのアイデンティティを持ったのはジャンヌ・ダルクに
よってであると言う。彼女は「天才」であったと同時に15世紀フランス民衆精神の化身であり、「民衆」「女」「子ども」という虐げられた人々の夢と願望と
理想を完璧に体現していたのである。