『ノアンのショパンとサンド』シルヴィ・ドレーグ=モワン、小坂裕子訳(音楽之友社、1992年刊)
サンドとショパンの初めての出会い(1836)に始まり、二人が7回の夏を過ごした(1839〜1846)ノアンでの日々が描かれている。「ショパン の愛人サンド」とはよく用いられる表現であるが、実際の二人の関係、生活がいかなるものであったかを知るに、この著作は適している。パリの喧騒を離れ、サ ンドが丹精を込めて作り上げた、小コロニーとでも呼ぶべきノアンの館で過ごされた日々は、ショパンとサンド双方にとって充実した創作活動の時であった。 ジョルジュ・サンドがその主たる作品群(社会主義的小説群から田園小説群初期)を執筆したのがこの時期である。作家にとってノアンが重要な役割を果たして いるのはもちろんのこと、ショパンにとっても、ノアンとそれを取り巻く環境が欠くことのできないものであったことを、この本を通して私たちは理解すること ができる。作家・女性としてのサンド、音楽家・男性としてのショパンという関係に、母親としてのサンドという要素がどのような影響を与えたか、という考察 も興味深い。著者はフランスのコレージュで教鞭をとりながら、サンドの研究をしている。(文責 高岡尚子)