『ジョルジュ・サンド評伝』長塚隆二(読売新聞社、1977年刊)
ジョルジュ・サンドの伝記に類する書は、カレーニン夫人、A.モロワを筆頭に、F. マレ、
J.シャロン、J.バリーや近年翻訳されたフォンタナ、ブシャルドーなど数多く挙げられるが、日本人論者によって書かれた評伝としては、現存する唯一の学
術書である。サンドの正確な誕生日をめぐる疑問を解くべく区役所や教会の住民登録を調べあげた著者の熱意は、サンドの作品と生涯に関する緻密で明確な記述
となって全編を覆っている。L.ヴァンサン, E. トマ、
P.サロモン、パイユロン, 時としてはカレーニン夫人の見解にも異議をはさみつつ、著者は書簡にあたり『わが生涯の歴史』を参照することによってあるが
ままのサンド像に肉迫し、その再構築を試みている。珠玉のサンド書簡集全26巻を編纂した朋友、G.リューバンの助言も役立っていると思われる。P.サロ
モンのようにモロワにしたがいサンドの生涯を大きく四期に分類し(J.ゴルミエは、これにニュアンスを加えたが)、作家の生涯と思想、作品を分析してい
る。劇作も含め百編をはるかに超える作品のほとんどについて言及がなされているのは驚異的だ。巻末のジョルジュ・サンド家系図、作品および作家の略年譜
(といえども詳細な年表である)もまた、研究者にとって非常に有り難い資料である。サンド研究者はもとより、サンドの全体像を知りたい読者にも、是非とも
座右に置いておきたい気持ちにさせる評伝だろう。(文責 西尾治子)