-「宗教的コミュニケーションに関する一考察ーサンドの『コンスエロ』におけるコミュニオンをめぐって」『国際文化学研究』10号、1998年、神戸大学国際文化学部、pp.43-59
ピエール・ルルーはボヘミアのフス派キリスト教徒、とりわけターボル派の運動の中に、強大な隣国に迫害されるボヘミアの人々の独立と絶対的な平等の希 求を認めた。当時サンドはルルーの「福音」をひろめるために働いていたが、その成果が『コンスエロ』である。彼女はこの小説の中でフス戦争とフス信徒たち の教義、とくに彼らの「両形色による聖体拝領」(注)に関する問題を取り上げている。サンドによれば、宗教的熱情と結びついた平等の希求と愛国心によって ボヘミアの人々は新しい社会を築くことができたのであり、その運動を象徴するのが彼らのコミュニオンであった。しかしながら、この新社会は神聖ローマ帝国 とカトリック教会によって押しつぶされる運命にあった。『コンスエロ』執筆当時のサンドにとって宗教的真理、哲学的真理、政治的理想は同じものであった。 宗教的であると同時に非常に政治的な意味合いの強いフス信徒たちのコミュニオンは彼女にとって非常に興味深いテーマだったのである。 (注):カトリックのミサ典礼ではキリストの聖体拝領(コミュニオン)のパンとぶどう酒のうち、ミサを行う司祭はその両方を口にするが、信者のほうはパン のみを受けることになっている。これに関して、キリストの聖体拝領にはパンとぶどう酒両方を信者も受けるべきである(両形色による聖体拝領)と主張する人 々がいた。この意見は少数派であったが、ボヘミアのフス派はこちらに与したのである。