-「ジョルジュ・サンドにおけるprogrès continuの思想の研究ーSpiridionを中心として」『フランス語フランス文学研究』49号、1986年、日本フランス語フランス文学会、pp.20-29
サンドがピエール・ルルーの影響のもとにいかなる宗教思想を持つようになったかをキーワードprogrès continuを通して検討する。ルルーは人間の歴史を人類の前進あるいは発達の表現であるとみなした。「進歩」というのはより良い未来にむかっての必然 的な過程であると同時に、意識的な前進の努力であるとも考えていた。ルルーはこのたえまない進歩という考え方を彼独自の転生説と結びつけている。サンドは1836年頃からルルーの思想に傾倒し、39年に宗教小説『スピリディオン』を発表した。この小説の3人の修道士たちは多くの試 行錯誤を繰り返したあとにキリスト教を否定してしまい、最終的にたどりついたのがprogrès continuの思想であったという設定である。サンド自身も晩年にいたるまでこの信仰を持ち続け、その痕跡はさまざまな作品の中に見ることができるので あるが、『スピリディオン』こそはルルーに心酔した彼女のユマニタリスム的傾向の小説の第1作であり、progrès continuの思想を忠実に小説化したものである。