私は超自然現象とか心霊スポットとかを全く信じないほうですが、それでも時々不思議な気分になる場所があります。通勤途中にある坂道で、片側には神戸の町並みが海に向かってのびている眺めの素晴らしいところです。朝早くこの坂を上る時や、あるいはちょうどたそがれ時にそこを下ると、何だか時間を超越しているような、夢の中にいるような気になってしまうことがあるのです。以前読んだ小説に「昔の誰かが見た悪夢の中の出来事のようだ」という表現がありました。私の場合それとはかなり違いますが、この坂道をひとりで歩いていると、昔の誰かがここを歩く私のことを夢みたことがあったに違いないとか、未来の誰かが今の私を見ているような気がして、懐かしいような切ないような思いが湧いてきます。人間の生まれ変わりというのはあるのかもしれないと、ふと考えたりします。ここ以外の場所でふだん私がそんな気分になることはないので、この坂道には何かそういう思いを誘発するものがあるのかもしれません。ここからの眺めをたとえ写真に撮っても、単なるきれいな景色以外の何もうつらないと思いますが。