神がかり

 WBCの決勝戦で最後の決定打を決めたイチローは「最後の打席では神が降りた」と言っていますが、「神がかり」になったということでしょうか。自分がまるで自分ではなくなるような感じがして普段では思いもかけないような力を発揮してしまう、という経験は私の場合2回ほど思い浮かべることができます。1回目は中学校の弁論大会の時でした。よく覚えていないのですが、しゃべり始めると何かがついたような気がして夢中になりました。後で人に聞くとたいへん感動的な話をしたそうで、非常にほめてもらいました。2回目は故郷のある祭で踊った時のこと。大人数で歌に合わせて踊ったのですが、長時間やってくたくたになってしまい、もうだめだと思い始めた頃、最後の最後になってなぜか皆一種のトランス状態になりました。ものすごくうまく踊ったようです。(自分では見ていないのでわかりませんが。)これは集団的神がかり状態だったのでしょうね。こういう状態を自分の思うままに作り出せたら無敵になるはずと、受験生時代にいろいろ試してみましたが、だめでした。やろうと思ってもだめなのですね。まさに「神頼み」するしかないわけです。
 神がかりではありませんが、それでも1回だけ特別な体験をしたことがあります。20代半ばの頃、ある試験を受けました。それは比較的単純な試験で、かなりの量の年号や固有名詞を丸暗記しておけばいいというものでした。その前日、夜遅くまでがんばったのですが、丸暗記はけっこうたいへんでなかなかうまくいかず、そのまま途中で寝てしまいました。ところが、翌朝起きて机に向かうと、なんと昨晩あれほど苦労したことが全部頭に入っているのです! もちろん試験問題にもすらすら答えることができました。その時私は「もしかして自分は天才ではないか」と思った(笑)のですが、そういう経験はそれ1度だけです。その時覚えたはずのことは、今何一つ思い出すことができません。記憶力という点では、毎週顔を合わせる学生さんたちの顔と名前さえちゃんと覚えられずに顰蹙をかっています。受験勉強をしていた時期にはあれこれたくさんの方法を試してみましたが、やはり地道にこつこつと努力する以外に実力をつける方法はないというのが私の出した結論です。

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