携帯電話の使い方

 10年ほど前までフランス語クラスで時々見せたヴィデオのひとつが、ソフィー・マルソー主演のラブ・ストーリー『スチューデント』(1988年制作)でした。フランスの大学生がどれほど勉強しているかがよくわかるきびしい試験風景、いかにもフランス的な(?)恋愛模様など、日本の学生にとっても非常におもしろくかつアクチュアルな興味をかきたてられると思ったからです。ところが、もはやこのヴィデオをみせても今の学生にはおそらくピンとこないのではないでしょうか。というのも、この映画における重要な小道具は「電話」だったのです。思うように会えない恋人たちは電話で話そうとするのですが、相手が仕事中だったり、夜中だったり、電話機がなかったりと、なかなか相手につながらないもどかしさがこの映画のおもしろさのひとつでした。今や誰でも携帯電話を持っていて、通話やメールで時間や相手の都合に関係なくメッセージを送れるようになり、コミュニケーションを取り巻く状況が全くかわってしまいました。ほんの20年ほどのあいだに男女の恋の育み方も変化したはずです。
 たとえば、2006年の映画『パリ、ジュテーム』。大学生の男の子が、自分の目前で石につまづいてけがをしたイスラム教徒の美少女に駆け寄ります。そして、彼女のほどけたスカーフを頭に巻き付ける手伝いをしてやります。髪の毛がきちんとスカーフに隠れているかを気にする少女に、彼は携帯電話で即座に相手の顔写真をとって鏡代わりに差し出します。もちろん、そのあとふたりは親しくなるのですが、私は携帯電話にこのような使い方があるとは考えたこともありませんでした。恋の小道具は常に進化するものなのですね。

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