-「ジョルジュ・サンドと芸術家たちーベートーヴェンとショパン」『近代』101号、2009年、神戸大学近代発行会、pp.1-18
ベートーヴェンとショパンの音楽とサンド作品との関係について、日本語に翻訳されることの少ないサンドのテクストをできるだけたくさん引用しながら検討している。サンドはフランツ・リストの影響によってベートーヴェンについての理解を深め、また芸術家の社会的使命や新しい理想社会における芸術家の役割といった課題に取り組むようになった。その後知り合ったショパンとの関係が深まるに連れ、彼女は少女時代から親しんでいたモーツァルトの音楽の方に、もっと惹き付けられていった。ショパンとサンドの親密な関係は10年たらずであったが、彼の影響はずっと長く残った。天才音楽家の、天才ゆえの降伏と不幸をつぶさに観察したサンドは作品中で音楽の持つ力あるいは魔力と、それと対峙するさまざまなタイプの音楽家像を創出し、彼らの中に読者は多かれ少なかれショパンのイメージやその片鱗を見い出すことができるのである。