完全な幸福

 スタンダールの『恋愛論』の最初のほうに次のような言葉があります。
 「魂はすべて単調なものに、完全な幸福にさえ飽きる。」
 だからこそ、実際の恋愛や人生にいわゆる「ハッピーエンド」というのはありえず、永遠を追い求める者たちにとっては、ある場合は「死」が救いとなったり、「愛」と「死」が緊密に結びつくことになるのだろうと思います。美しい恋物語に釣り合う結末をつけるためには、主人公の死まで描くか「その後ふたりはいつまでも幸せに暮らしました」という決まり文句で終わるしかないのですね。実際の人間はスタンダールの言うように「幸福にさえ飽きる」ものですから、次々と新しい刺激や挑戦を求めるわけです。「地獄」(毎日が悲惨で辛い試練ばかりが起きる)よりも「天国」や「極楽」(終わりのない幸福?)のほうが想像しにくいのは、たぶん我々の魂の根本的な構造と関係があるのではないかと思います。

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