人にはどれだけの土地がいるか

 11月も終わり近くなってやっと住まいの掃除をする気になりました。私は家事、特に掃除が大嫌いで、できるだけやりたくないのですが、時々(頻度は公表したくない)必要に迫られて掃除機をかけます。1LDKのマンションを掃除しながら思い浮かべるのは、トルストイの寓話『人にはどれだけの土地がいるか』です。子供のころに読んだのですが、その後ずっと頭のすみに残っています。自分が1日のうちに歩いただけの土地を与えると言われた農夫がものすごく頑張って広い土地を踏破するが、その疲労のせいで死んでしまい、結局彼に必要なのは自分の墓穴の大きさだけの土地だった、というような話だったと思います。そんなに広くもない私の賃貸マンションですが、それでも掃除をする時には、自分一人にこんなにスペースが必要だろうかとか、洋服掛けを見て、自分のからだひとつのためにこんなにたくさん服が必要なのだろうかと毎回自問し、そのたびにこのトルストイの寓話を思い出しています。
 学生時代とそのあとしばらくの間、時々、ほとんど衝動的に何もかも放り出して新しいことをやってみたくなったものでした。そのせいもあるのですが、以前はかなり頻繁に引っ越しをしています。引っ越しはそれまでにたまったいろいろなもの(人間関係も)をエイヤッと捨ててしまう良い機会で、新しい環境の中で自分の別の可能性や能力が引き出せるような気がしたものです。
 うーん、新しい所に引っ越したい。でも、引っ越しのめんどくささや経済的なことを考えると、仕事をやめるまでは今の所にいるほうがどう計算してもベターです。やっぱり現在の居場所にしがみつく人間になってしまいました。

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