-「ジョルジュ・サンドとフランツ・リスト − 2通の『旅人の手紙』をめぐって」『近代』102号、2009年、神戸大学近代発行会、pp.1-13
1835年9月サンドは『旅人の手紙 ー 第5信 ー ラヴァターと無人の家について』を発表する。これは『両世界評論』誌に1834年5月から連載中の公開書簡形式のエッセイで、のちに単行本にまとめられたさいにこの手紙は第7信とされ、題名は「ラヴァターと無人の家についてフランツ・リストへ」と変えられた。サンド作品中の音楽家像に関する研究の一環をなす本稿では、このフランツ・リストあての公開書簡をとりあげた。最初に、この手紙に現れる音楽観と音楽家像を分析したあと、そこに描かれているリストのイメージを検討する。次に、一見リストや音楽と全く無関係なラヴァター(チューリヒの思想家で人相学者)や無人の家がどのようにそれらと結びつけられているかを考察する。そのあとサンドの公開書簡に対するリストの返信『旅人の手紙 ー ジョルジュ・サンド氏へ』をとりあげて、これら2通の手紙の共通点と相違点に注目し、最終的にはフランス・ロマン主義最盛期1830年代の精神風土の一端を明らかにしている。