知らないほうが

 昔の友人が作家になりました。フランス人の女性で学生時代に親しくしていた人です。現在、結婚して子どもがあり、仕事をしながらすでに小説を3つ発表しています。彼女の4作目はとても情熱的な恋愛小説らしいのですが、私は本を手に取るのをためらっています。というのは、今度の作品は女主人公の一人称で書かれているらしいからです。私は作者がとても良い人であることを知っているのですが、彼女は運命の恋に命をかける情熱的なヒロインとはイメージがまったく違います。もちろん作者とヒロインは別人であることはわかっているのですが、現代社会を舞台にした一人称小説だとどうしても重ねてしまいそうになるのです。

 小説の読者が作者をまったく知らなければ、おそらくすんなりと物語の世界に入っていけるのでしょう。でも、現実の作者に関する知識が物語への没入をさまたげてしまう、そんな場合もあるのですね。あこがれのスターや英雄は遠くから眺めているほうがいい場合が多いようです。現実生活の苦さを味わってしまった元「夢見る乙女」の感想と言うべきでしょうか・・・。

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