優しい関係

 先日、必要があってサガンの『優しい関係』を読み直しました。ティーンエイジャーの頃に大好きだった小説で、何度も読み返した愛読書でした。ハリウッドを舞台に、知的で魅力的な中年女性ドロシーを熱愛するなぞの美青年が、ドロシーの心を傷つける(あるいは、傷つけた)人たちを、完全犯罪で片っ端から殺していく話です。彼の他にもドロシーにほれ込んでいる魅力的な男性が登場し、最終的には3人そろって立派なハッピーエンドという、ある意味とんでもない内容なのですが、小粋でおしゃれな雰囲気がとても好きでした。

 この本をむさぼり読んだ頃の私は、人間の欲望や愛情の真実の姿がそこに極端な形で描かれているように思ったものでした。執筆当時、作者サガンはヒロインドロシーの年齢よりも若かったのです。今回、自分が作者やドロシーよりも年をとってからこの本を読み返してみると、何にあれほど感激したのか正直言ってよくわかりません。胸に迫るものがなくて、いかにも作り物じみたところ(作者はもちろんそれを承知で書いているのですが)にちょっとしらけてしまいます。要するに、「リアリティ」(話の筋ではなく、登場人物の心の動きについてのリアリティ)が希薄すぎるのです。人間同士の関係というのはもっとどろどろしていて、みっともないもので、それでも人は誰かとかかわりたくてしょうがないから、世の中のいろいろな事件が起こるのではないかしら。

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