近況: 2010年11月:一覧

美しい秋の日

 昨日と今日は大学院前期課程の入学試験のため、大学に来ています。試験日にはもったいないほどの(?)の良いお天気で、まさに秋まっさかりというところです。気分転換にキャンパスを歩いてみると、紅葉があちこちに見られ、工学部キャンパスでは、なんとひまわりの花も見かけました。これは確か夏の花ではないかと思うのですが、秋にも咲くんですね。学生さんがほとんどいないので、普段よりはずいぶん静かです。でも、グラウンドではスポーツ大会をやっているらしく遠くに歓声が聞こえます。馬場の脇では馬術部所属(?)の老犬がいつものように居眠りをしていました。こういう何気ない日常ののどかさをいつもは忘れているのですが、今日はなんだか胸にしみるところがありました。というのは、昨日ちょっと必要があってカンボジアの歴史を調べたのです。その際に、ポルポト派による大虐殺に関する記事を読んでしまいました。100万人を超すとも言われる人々がたった5年ほどのあいだに殺されたのは、ほんの30年ほど前のことなのです。
 歴史を少し学べば、戦争・飢饉・疫病などの悲惨な記述はいくらでもあります。旅行などで、その舞台となった所に立つこともあります。でも、それはたいてい「昔」の話。今自分が生きている時代とは別の時代の話だと思うとそれほどショックは受けないのですが、20世紀後半、自分がすでに物心ついたあとの出来事というのは本当にどうしていいかわからなくなります。そんな悲惨なことが起こっているのをよく知らなかったという言い訳が通用するのだろうか、と。自分がのんきに生きていたとき、苦しみもがき理不尽に殺されている人たちがいたと考えるのは恐ろしいことです。自分に、あるいは自分たちに何ができるのかと問われてもたいした答えは出ないのですが、少なくとも「真実を知ろうとすること」「何があったのかを忘れないようにすること」、この努力だけはしなければいけないと考えています。おだやかで美しい秋の日本で、異国の悲劇を想像するのはとても難しいことではあるのですが。

タイムカプセル?

 古い書類を整理していて、意外なものが出てきました。今から20数年前、神戸大学教養部(国際文化学部の前身)に赴任した時に教養部広報誌に書いた自己紹介文です。あまりに懐かしいので、以下にその一部を引用します。

 「思い出の中で、神戸の町と自分の専門分野であるフランスを奇妙な形で結びつけているのは、だいぶ前に流行した『そして神戸』という歌謡曲です。当時の私は高校生で、深夜放送のポップミュージック、読書(まんがを含む)、そして海外文通が趣味でした。フランス北部の小さな炭鉱町に住むリディという少女と文通していて、こちらの生活のことをいろいろ書いたり、自分の好きな写真やまんがを雑誌から切り抜いて送ったりしていたのですが、ある時、彼女が日本の音楽、それも今はやっているのを聞きたいと書いてきたのです。さあ、困った。私はテレビの歌番組は見ないし、ラジオで聞くのもアメリカやイギリスのポップミュージックばかり。いったい何のレコードを買おうかと思案しながらラジオをつけたとき、たまたまかかっていたのが『そして神戸』だったのです。そのいかにも日本的な(?)歌詞とメロディーを聞いて、こういうのでもフランス人にわかるかしらと思いながらレコードを送りました。すると、リディからおりかえし礼状がきて、「あなたのレコードをうちの父が気にいって何度も聞いています」。そんなわけで、フランス人の中年のおじさんと『そして神戸』のイメージが結びついてしまい、カラオケなどでこの曲がかかると、つい歌い手を見てしまうのです。」

 『そして神戸』はクールファイブの1972年のヒット曲ですが、学生のみなさんはご存じですか?

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