近況: 2012年2月:一覧

競争原理

 今日は多くの国立大学の入学試験日です。それで、なんだか自分の受験の日を思い出してしまいます。当時はセンター入試などはまだない時代で、国立大学は1期校と2期校の二つのグループにわかれており、難関大学は、いわゆる「足切り」のための1次試験と2次試験をおこなっていました。

 東京の大学を受験する私は、1週間ほどの予定で大学近くの旅館(普段は修学旅行用の宿)に泊まりました。最初の2日だけ母がいっしょにいてくれたのですが、あとはひとりです。同じ宿に鹿児島の名門高校からの受験生たちが集団で来ていました。受験生とはいっても友達同士、まるで修学旅行のように楽しげでした。自分の部屋で、たったひとりで黙々と受験勉強をする以外やることがない私には、それがとてもうらやましかったものです。

 1次試験が終わってまもなく結果の発表があり、それに合格した人だけが数日後の2次試験を受けます。同じ宿に泊っていた鹿児島の高校生のうち何人かはその時点で東京を去ることになったようでした。旅館の玄関で、偶然私は仲間たちに見送られながら泣いている学生を見てしまいました。帰る本人はもちろん悲しいけれど、見送る仲間もとてもつらそうでした。私にとってそれは、「競争原理」の非情さをはじめて直接目にした、衝撃的な場面でした。あの時泣いていた女の子たちはその後どうしたでしょうか。他の大学に受かって、笑顔で春を迎えたのでしょうか・・・。遠い昔の思い出です。

交響曲的効果

 12人で一緒に作っている本が苦戦しています。全員の原稿はとっくにできているのですが、出版社の人の目から見ると、章ごとにばらばらで一貫性が足りないようで、書き直し部分が多く、なかなか先に進めません。「論文集」のようなものなら、他の人の書いた部分の内容や文体をあまり気にせずに自分のペースが貫けるのですが、共著本としてひとつのまとまりを持ち、かつ多くの読者に読んでもらえるものを作るのはたいへんなことだとしみじみ思います。自分が今まで読んだ本を振り返ってみても、著者が複数の場合で非常によくできた本は少なく、内容が章によって玉石混交状態のものになりがちでした。しかし、一人の著者では持てない広がりや深さを複数の人間が交響曲的に構築することも可能ではないかと期待しています。ここしばらくが正念場で、ぜひとも良い本を出したいものです。

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