マイクロステートの言語文化政策と「多元性」の比較研究
――オセアニア、カリブにおけるグローバル化、「地域」文化、ポストコロニアリズム―― |
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プロジェクトの内訳 |
研究部プロジェクト |
代表者 |
柴田佳子 (国際文化学研究科 異文化コミュニケーション系 所属) |
分担者 |
須藤健一 (国際文化学研究科 地域文化系 所属)
吉岡政徳 (国際文化学研究科 異文化コミュニケーション系 所属)
林 博司 (国際文化学研究科 言語情報コミュニケーション系 所属)
林 良子 (国際文化学研究科 言語情報コミュニケーション系 所属)
坂井一成 (国際文化学研究科 異文化コミュニケーション系 所属)
小笠原博毅 (国際文化学研究科 現代文化システム系 所属)
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経費の出所 |
異文化研究交流センタープロジェクト経費 |
概要 |
プロジェクトの目的
急速なグローバル化の進行はマイクロステートの住民の言語文化にも多大な影響を与えている。本研究はオセアニアとカリブ諸社会の言語文化政策の特徴を明らかにし、グローバル化の影響を受けて変容しつつあるローカルな場での日常的実践の「多元性」に焦点を当て、そこで見られる共通性ないし類似性や差異、課題について比較検討する。両地域では、国民国家の形成過程で公用語とピジン語やクレオール語との関係が一方で多様に規定されつつも、ナショナル・アイデンティティの形成と変容に伴い、民衆言語自体も、またこれらの関係性も変化してきた。一国/社会内での多言語使用状況、またそれが生み出している文化の複数性のあり方の詳細を明らかにしつつ、島嶼社会や国民国家の小規模性や隔絶性を補強し超越しうる「地域」としてのつながりを想像/創造するコミュニケーション媒体の多元性も視野に入れて追究する。その際に(元)植民地宗主国でもあり、内部に言語文化の複数性、
多元性を内包する一大地域ブロックであるヨーロッパを第三の比較の視座として活用し、エスニシティ、ナショナル・アイデンティティ、地域的アイデンティティの動態との関連について解明する。
プロジェクトの必要性
本研究プロジェクトは、前年度実施した研究プロジェクト「マイクロステートの文化政策と日常的実践に関する国際共同研究と海外拠点ネットワーク構築:オセアニアとカリブ海におけるグローバル化、ポストコロニアリズム、ローカル化の比較」を引き継ぎ、言語文化の側面に特化することで全体の研究の企図を補完するものである。
前年度大きく取り上げた観光開発と言語文化は深く関係し合っている。観光現象において言語環境と実践の多様性そのものが、またパフォーミングアーツを含め言語文化そのものが有力な文化資源としても提示され、売買の対象ともなってきた。ホストが独自な文化の「真正性」を強調するなど本質主義的にその重要性が語られ、ゲストもそれを期待している。言語文化はまさに両者が共犯的に交雑して創出する観光文化の現場の前線に立っている。ピジン語やクレオール語の理解は、対象とする観光文化の「賞味」と深く関係し、観光ガイド的語彙集などを簡易編纂して販売している例もある。ゲストとの接触や交流によるホストの言語的変化、新たな混成言語の発生もある。既存の言語に独自の意図的変化を施しながら異化し、新たな意味や解釈を付加している例もある。
また公用語と民族語、ピジン語やクレオール語との関係は、ナショナル・アイデンティティのみならず、国民国家を超越する地域を想定する際にも絡む。昨今のグローバル化の影響で国際通用語の習得習熟の必要性も高まっている。コミュニケーション・メディアの多様化、近代化も影響し、一部では国外とのより緊密なネットワークが国内の離れた地方コミュニティとの距離を逆に拡げており、言語文化環境の変化の把握なしには住民の帰属意識や広域地域の理解も不可能である。地域ブロックを意識した移動による生活文化の変容もさることながら、IT環境の整備は新たなトランスナショナルな公共圏さえ創出し、急速な変化に伴う住民の価値や意識の変化や多様化にも注目する必要がある。
この種の変化に見られる主体側の流用の作法や戦術、価値観、また流通範囲の限界や交錯について、ヨーロッパの事例もふまえて両地域の比較をすることは社会言語学的にも言語人類学的にも、またマクロな国際関係を考察する上でも重要であるが、先行研究にはほとんど見られない。このような比較研究は当該社会を熟知している研究者がそろうことによってはじめて可能となり、本プロジェクトの構成員が実施する意義は大きい。
本研究の独自性はその他にも、第三の比較の視座としてヨーロッパの言語文化政策と実践の事例を参照することにもある。言語文化が深く植民地に与えてきた諸影響は多々指摘されてきたが、それらが現在いかなる局面を迎えているかを考察する必要がある。これらもふまえることにより、オセアニアとカリブにおけるヨーロッパの植民地主義、ポストコロニアリズムの功罪を検討することにもつながる。さらに、国民国家を超越する地域主義についても、当該地域のみを対象にすることから袋小路に陥る危険性を取り除くため、比較の視座から得られる知見を総合しつつ、「地域」概念、生活実践の場としての地域、異言語圏をつなぐ地域芸術祭などを具体的に取り上げ、多角的に課題を扱うことで独自の貢献が期待できる。
プロジェクトの活動計画
本研究プロジェクトでは、現在のところセミナー2回と国内シンポジウムを予定している。これらの実施にあたり、メール会議も含め、共同研究構成員が知的情報や意見交換を常時活発にし、また各セミナーでの議論を活性化することで知的貢献を担う。セミナーのコメンテーター、シンポジウムでのコメンテーターもプロジェクト構成員が分担する。
各研究者の分担
各研究者が専門とする分野をもとに以下の分担内容を設定している。
柴田佳子 |
研究総括およびカリブ地域の言語文化政策と多元性、クレオール言語文化、広域カリブ地域、文化の表象 |
須藤健一 |
オセアニア(ミクロネシア、ポリネシア)の言語文化政策と多元性、移動民の言語戦略 |
吉岡政徳 |
オセアニア(メラネシア、ポリネシア)の言語文化政策と多元性、ピジン言語文化と広域地域 |
林 博司 |
ヨーロッパ(フランス、ルーマニアなど)の言語文化政策と多元的言語文化環境 |
林 良子 |
ヨーロッパ(ドイツ、イタリアなど)の言語文化政策と多元的言語使用環境 |
坂井一成 |
EUの地域主義と言語文化政策 |
小笠原弘毅 |
イギリスとEUの地域主義、住民の言語文化戦略 |
既公表の関連する業績
柴田佳子編 『オセアニア、カリブにおける観光開発と文化』(全195頁、2007年3月)
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活動状況 (シンポジウム、報告書等) |
● 2008年3月発行 |
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2008年3月発行
編: 柴田佳子
A4版 128ページ
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研究報告書
ピジンとクレオールの世界
―オセアニアとカリブの言語・文化―
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● 2008年2月4日 |
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マイクロステート研究プロジェクト シンポジウム
「ピジンとクレオールの世界
:オセアニアとカリブの言語・文化」
<日時> 2008年2月4日(月) 13:00-18:00 <場所> 国際文化学研究科 E棟4階 大会議室
<講師・講演タイトル>
豊田由貴夫 (立教大学 観光学部 教授)
「パプアニューギニアにおけるメラネシア・ピジンの変容」
白川千尋 (国立民族学博物館 先端人類科学研究部 准教授)
「ヴァヌアツ・トンゴア島民における言語使用の様相」
荒井芳廣 (大妻女子大学 人間関係学部 教授)
「初心者のためのクレオール語教科書を読む―1970年代に配置と出会った者の視点から」
鈴木慎一郎 (信州大学 全学教育機構 基幹教育センター 准教授)
「ジャマイカのクレオール英語と文化的(非)真正性」
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● 2007年12月7日 |
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マイクロステート研究プロジェクト 第2回セミナー
「学校で話してはいけない国語?」
~ヴァヌアツの国語・ビスラマ語をめぐる文化的諸相~
<日時> 2007年12月7日(金) 17:00-19:00 <場所> 国際文化学研究科 F-101教室
<講演> 「学校で話してはいけない国語?
:ヴァヌアツの国語・ビスラマ語をめぐる文化的諸相」
<講師> 福井栄二郎 (日本学術振興会特別研究員/国立民族学博物館)
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● 2007年10月13日 |
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マイクトステート研究プロジェクト 第1回セミナー
「躍動するカリビアン・クレオールの世界を覗こう!」
<日時> 2007年10月13日(土) 15:30-17:30 <場所> 国際文化学研究科 F-102教室
<講演>「旅する言葉: カリブ海地域のクレオール語とその文化」
<講師> 石塚道子 (お茶の水女子大学)
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関連リンク |
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連絡先 |
柴田佳子研究室 |
住所 |
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〒657-8501
神戸市灘区鶴甲1-2-1 神戸大学国際文化学研究科 (A 413号室) |
TEL/FAX |
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078-803-7481 |
E-mail |
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yoshibat*kobe-u.ac.jp (迷惑メール対策のため@を*に変えております。*を半角の@に変えてお送りください。) |
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