中東・日本間の知的交流型研究を通じて
現代中東の国際関係と政治変動を理解するためのプロジェクト

――湾岸諸国を中心に――
(略称:中東政治研究プロジェクト)
プロジェクトの内訳
研究部プロジェクト
代表者
中村覚
分担者
吉岡政徳、坂井一成、阪野智一、岡田浩樹、吉川元(法学研究科)、真下裕之(人文学研究科)
経費の出所
外部資金 (国際交流基金など)
概要
(1)研究の目的
 21世紀のグローバル政治の環境を激変させた九一一事件の後、中東・イスラーム世界は、文明の衝突論をめぐる議論の中で最もその本質と動向について関心を集める文明圏となっている。近年の石油価格の高騰により湾岸諸国の経済が活況を呈してヒトとマネーを惹きつける一方で、大量破壊兵器やテロの拡散の危険が最も高い地域であるとの見解が広まるにつれて、世界各国の中東政策は、難しい舵取りに追い込まれる状況に陥っている。中東・イスラーム世界の知的活動に関しては、イスラーム復興がこれまで注目されてきたが、実はリベラル思想の浸透などもあって価値観の多様化が進展しており、現地の人々自身が、今後のアイデンティティの方向性を模索している。国際社会や日本では、中東・イスラーム世界について、政治・経済・社会など現在進行中の変動についての理解だけではなく、文化、アイデンティティ、歴史、生活様式などを包含する、いわば文明的な観点に基づく評価の確立が求められている。中東情勢に関しても、もはや傍観者としての立場ではなく、政策や交流の観点を取り入れた、新しい研究手法や研究上のパースペクティブの開拓が求められる状況である。
(2) 2005年度の活動テーマと方法
 2005年度は、サウジアラビアにおける新しい思想的営みの手法と展開を明らかにするため、サウジアラビア人研究者を招聘し、2つのセミナーを開催する。
1. サウジアラビアの東洋観と西洋観
2. サウジアラビア人作家による小説に関する文学批評を通じてサウジの思想状況を考察する。

 中東・イスラームの思想に関する検討は、政治思想やイスラーム思想などが紹介されてきたが、穏健派やリベラル的な傾向の思想に関しては、十分に焦点があてられていない。中東・イスラーム世界の穏健派や「リベラル思想」は、欧米のリベラル思想とは異なる独自の展開過程を示しているが、同地域でのプラクティカルな政治経済改革の担い手となる可能性を鑑みると、その内容と広がりに関する研究調査の必要性が高まっている。また、中東・イスラーム世界との国際関係や交流の深化が進む現状では、社会の各階層における知的リーダーが、日本を含む異文化社会に対してどのような見解をもつのか、理解する必要が求められている。

 中東・イスラーム世界の中でも、GCC(湾岸協力会議)諸国に関する地域研究は、立ち遅れている。特にサウジアラビアは、イスラーム思想、エネルギーや金融、さらに安全保障問題上で国際的に焦点となる国であるが、世界の中でも最もフィールド調査が困難な地域として知られる。そこで当プロジェクトのネットワークを活用し、交流型研究の裾野を拡大することを目指すこととする。
(3) 意義と今後の展開
 グローバリゼーションの深化の一局面として、日本人の中東・イスラーム世界との経済交流や文化接触の局面が拡大している。輸出入を合計した日本の対外貿易の金額でGCC諸国は、韓国を凌駕し、米国、中国に次いで、三位となっている。現在では、日本人がいかに中東・イスラーム世界を理解するかだけではなく、日本人は、日本に関して中東にどのように理解を深めてもらうかという双方向的な知的交流のスタイルを模索する視点が求められている。異文化間で政治経済上の接触や関係が拡大する局面は、思想上の相互理解を伴わなければ、日常的には各種のトラブルや社会問題、最悪の場合には文明の衝突や戦争に至る危険を伴うからである。日本において中東・イスラーム世界との交流型研究は、意外にもまだ裾野が広くないことを鑑みて、本プロジェクトは、中東世界との交流型研究活動のスタイルを確立することを目標とする。

 新年度以降は、次のプロジェクトとして、中東の国際関係に関する研究への移行を計画している。また大学間協定による研究・教育交流拡大の可能性について検討し、院生の研究・教育上に効果が発揮されるスキームの設置を視野に入れる。
活動状況 (シンポジウム、報告書等)

● 2006年11月21日

当プロジェクト共催
講演&談話
"Orientalism, Occidentalism and Japan"

<日時> 2006年11月21日(火) 17:15-19:00
<場所> 神戸大学国際文化学部 E408号室
<講師> マーゼン・ムタッバガーニー博士
(キングサウード大学教育学部助教授、
  キングファイサル研究センター)



● 2006年11月2日
センター主催 特別講演会
「わが国の対ルワンダODA」

<日時> 2006年11月15日(水) 15:10-17:00
<場所> 国際文化学部 大会議室
<講演> 「わが国の対ルワンダODA」
<講師> 辰巳石夫氏 (JICAルワンダ駐在事務局長)
<概要>
 一時帰国中の辰巳所長に、ルワンダの歴史を踏まえて、ルワンダJICAでの援助活動の実態や問題等、国際援助の最先端の現況をお話していただきました。
     
連絡先
中村覚研究室
住所 〒657-8501
神戸市灘区鶴甲1-2-1    神戸大学国際文化学研究科 (E 405号室)
TEL/FAX 078-803-7401
E-mail satnaka*kobe-u.ac.jp
(迷惑メール対策のため@を*に変えております。*を半角の@に変えてお送りください。)