阪神間モダニズムと近代芸術受容の再評価研究
――深江文化村が西洋文化受容に果たした役割について――
プロジェクトの内訳
地域連携部アートマネージメント部門プロジェクト
代表者
楯岡求美
分担者
寺内直子、藤野一夫、岩本和子、吉田典子、水田恭平
経費の出所
異文化研究交流センタープロジェクト経費
概要
(1) プロジェクトの目的
 本プロジェクトの目的は、17年度プロジェクト「対象から昭和初期における来日芸術家の活動」(分担者:寺内・楯岡)において概要が明らかになった深江文化村の文化史的意義についてさらに具体的に研究をすすめ、さらには洋楽だけではなく、建築、舞台芸術、文学、食文化などの広範囲の文化ジャンルに来日外国人が与えた影響を総合的に評価する研究の糸口を探ることである。具体的には 1. 文献資料の収集の継続により、関係者が個別に所有する資料を総合的に分析し、当時の状況を具体的に明らかにする、 2. 地域における異文化受容の再評価につながるような活動として、来日芸術家の作品や彼らの関わった当時の演奏会などの活動を復元するような企画について検討し、具体化を図ることが考えられるだろう。また、彼らに神戸女学院(現・神戸女学院大学)、宝塚音楽学校、大阪音楽学校(現・大阪音楽大学)において師事した富裕層の子弟の活動についても、研究を進めることを通して、文化受容の背景を広く掘り起こし、阪神地区を日本の近代に位置づけなおすことも期待される。
(2) プロジェクトの必要性
 従来はモダニズム期の日本におけるヨーロッパ文化受容は東京を中心とした官製の受容が注目されてきたが、近年、神戸・芦屋のコスモポリタン的文化状況において主体的に受容しつつ、独自の芸術様式を模索したアーティストたちの活動が再評価されるようになった。17年度の研究において、阪神間で活動した来日外国人芸術家は

1. 活動拠点の政治的、社会的状況に応じて、満州、上海、日本(関西、東京)およびアメリカにまたがる移動と活動を展開していたこと

2. 開港都市神戸のコスモポリタンな雰囲気と、商業都市大阪の裕福な商人層の財力が、こうした亡命文化人を受け入れる下地を形成していたこと

などが明らかになった。しかし、ここの活動について活動の実態はまだ十分に解明されていないか、ある程度資料調査が進んでいる芸術家について、彼らが所属していた大学などの機関ごとの資料が分散しており、全体像の把握には程遠いのが現状である。

 来日者たちは社会状況の変化に応じて西欧から日本へ、またロシアから満州を経由して日本に滞在し、アメリカに渡っており、彼らがいわばヨーロッパ的な芸術概念・手法および教育システムがアジアを経由してグローバル化することを媒介したと考えることができる。彼らの活動に触発されて国外に活動の場を見出した日本人も多く、異文化が伝播するケーススタディとして重要である。本研究を通して

1. 阪神間における来日外国人を通した西洋文化受容の実態や日本人芸術家による技術修得とその応用の功績を明らかにすることによって、東京に一元化されない日本の西洋近代文化の受容実態の再評価を行う

2. ロシア-満州-上海-日本(阪神)-アメリカという芸術技法の越境の系譜を明らかにする

などの成果が期待される。特に後者は植民地活動と文化受容の見直しというアクチュアルな問題にもつながっていくだろう。
連絡先
楯岡求美研究室
住所 〒657-8501
神戸市灘区鶴甲1-2-1    神戸大学国際文化学研究科 (E 407号室)
TEL/FAX 078-803-7441
E-mail kumi3*kobe-u.ac.jp
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