プロジェクト詳細

多言語・多民族共存と文化的多様性の維持に関する国際的・歴史的比較研究
プロジェクトの内訳
2008年度 研究部プロジェクト
代表者
石川達夫 (地域文化論講座)
分担者
三浦伸夫 (異文化コミュニケーション論講座)
岩本和子 (現代文化論講座)
坂井一成 (異文化コミュニケーション論講座)
中村覚 (異文化コミュニケーション論講座)
寺尾智史 (地域文化論講座)
経費の出所
異文化研究交流センター プロジェクト経費
概要
(1) プロジェクトの目的
 資本、企業、人間、物、文化がグローバルに移動・越境し、多国籍的ないし無国籍的な活動と文化接触が増大する今日、一方では英語のような大言語の寡占化と文化的画一化が進み、マイノリティや地域の言語・文化が衰退して言語・文化の消滅が世界的な問題となり、他方では自分たちの独自性を排他的に主張する排外主義的なナショナリズムの勃興も世界的な問題となっている。
 そのような今日の状況を踏まえて、本研究は、一つには旧ハプスブルク帝国のような多民族国家が辿った歴史を今日的観点から再検討することにより、もう一つにはヨーロッパや中東など多民族・多文化が共存する地域における今日の状況を分析・検討することにより、歴史を踏まえつつ今日のアクチュアルな状況を見つめて、特に多言語・多民族共存と文化的多様性の維持がいかなる条件と手段によって可能かを考究することを目的とする。
(2) プロジェクトの必要性
 冷戦終結後、強力なイデオロギーの縛りが解けた結果、旧ソ連・東欧に見られたように、過去の歴史のしがらみや経済格差を背景として、それまで水面下に潜んでいた宗教や文化などの対立が浮上し、かつての共産主義のイデオロギーに代わって排外主義的なナショナリズムが力を持つようになり、それを規制するものがないまま深刻な問題が生じてきた。また、グローバリゼーションの進展などと共に、多国籍というよりも無国籍に近づいてきた資本や企業などの活動が活発化し、経済的・社会的上昇を求める移民・移住者も増大するなど、様々なレベルでの越境が進展してきたが、それもまた、経済格差の拡大、文化摩擦、排外主義的なナショナリズムの伸長などの問題を引き起こしてきた。言語の多様性はそれだけで行政や経済などの効率化・合理化の阻害要因となりかねず、また民族と文化の多様性は個人から集団までの様々なレベルにおける軋轢を引きおこしかねない。しかしながら、効率化・合理化や画一化を過度に追求することは経済格差を拡大させ、それが文化や宗教の対立をさらに深めさせることにもなる。実際に世界の各地で、テロという最も先鋭な形から、異民族や外国人に対する差別・攻撃まで、様々な軋轢が起きている。共産主義・社会主義の衰退および資本主義的グローバリゼーションの進展と新たなナショナリズムの台頭は表裏一体をなす現象であり、マイノリティや地域の言語・文化の衰退とナショナリズム的な自己主張も表裏一体をなす現象であろう。
 このような今日の状況のもとで、実は多言語・多民族共存と文化的多様性をこそ常態としてきた人類の過去の歴史を再検討し、また今日の世界の様々な地域で多言語・多民族共存と文化的多様性がいかなる問題を引き起こし、その解決のためにいかなる方策が採られているかを検討することにより、いかにして人々と民族が平和的に共存し、人類の言語と文化の多様性を維持することができるかを明らかにすることが必要である。
(3) プロジェクトの活動計画
 本研究は、一つには旧ハプスブルク帝国のような多民族国家が辿った歴史を今日的観点から再検討し、もう一つにはヨーロッパや中東など多民族・多文化が共存する地域の今日の状況を分析・検討し、それらを比較することによって、特に多言語・多民族共存と文化的多様性の維持がいかなる条件と手段によって可能かについて、具体的な諸事例に基づいた一般的な知見を導きだそうとする。そのために、まず各メンバーが以下の研究活動を進める。
1.  多言語・多民族共存と文化的多様性の維持のために、歴史的に多民族国家や多民族共存地域がいかなる方策を講じてきたのか、または講じてこなかったのか、そしてそれがいかなる結果を引きおこしたのかを、複数の地域を比較しつつ再検討する。

2.  多民族・多文化が共存する地域のアクチュアルな状況と問題を、複数の地域を比較しつつ明らかにし、多言語・多民族共存と文化的多様性の維持のために何が必要かについて、個別的な事例からより一般的な知見を導き出す。
さらに、1. , 2. について、外部から研究者を招いて研究会・講演会・シンポジウムなどを開催する。

そして、最終的なまとめとして、各研究員の研究成果と、研究会・講演会・シンポジウムなどの成果を、研究報告書として公刊し、同時に異文化研究交流センターのホームページ上で公開する。本プロジェクト自体は単年度だが、次年度以降も活動を継続・発展させていきたい。
(4) 既公表の関連する業績
石川達夫 『多様性の擁護、あるいは小民族の存在論──チェコ民族再生運動とは何か?』 (神戸大学大学院国際文化学研究科サバティカル・三菱財団人文科学研究助成研究成果報告書、2008年)、全316ページ。

坂井一成 『ヨーロッパの民族対立と共生』 (芦書房、2008年)、全301ページ。

岩本和子 『周縁の文学――ベルギーのフランス語文学にみるナショナリズムの変遷』 (松籟社、2007年)、全408+viiページ。

三浦伸夫 「文明史のなかの交流言語――国際語パラダイムから民際語パラダイムへ」『比較文明』 (比較文明学会、査読付)15号、2000年、101-115ページ。

寺尾智史 「言語観の日欧比較文明論――"言語外言語"視座から見た"言語内言語"の可能性」『比較文明』 (比較文明学会、査読付き)23号、2007年、205-222ページ。
活動状況 (シンポジウム、報告書等)
● 2009年5月7日 研究報告書『 多言語・多民族共存と文化的多様性の維持に関する 国際的・歴史的比較研究』を公開しました。
● 2009年3月2日

当研究プロジェクト主催 セミナー
『言語多様性の消滅と保存』

<日時> 2009年3月2日(火) 17:00-
<場所> 神戸大学国際文化学部・大学院国際文化学研究科
    E棟4F 学術交流ルーム

<講師と演題>
  三谷惠子 (京都大学大学院人間・環境学研究科教授)
「ドイツ語圏の中のスラヴ少数言語
──ラウジッツのソルブ語とブルゲンラントのクロアチア語」
  寺尾智史 (神戸大学大学院国際文化学研究科助教)
「スペイン・ポルトガルにおける少数言語保全
――言語多様性保全のジレンマとその超克」

※ 講師略歴 ※
三谷惠子 (みたに・けいこ)
東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。文学博士(東京大学)および人文学博士(ザグレブ大学)。著作に『ソルブ語辞典』(大学書林)、「地域研究と言語学」『講座スラブ・ユーラシア学』第1巻(講談社)など。

寺尾智史 (てらお・さとし)
神戸大学大学院総合人間科学研究科博士前期課程修了。第5回日本修士論文賞受賞。著作に「弱小の少数言語・アラゴン語が問いかけるもの」『社会言語学』8号、『言語保全を過疎とたたかう力に――欧州最新言語・ミランダ語の成立史から』(仮題、三重大学出版会より刊行予定)など。


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● 2008年11月25日

当研究プロジェクト主催 第2回講演会
『グローバリズムと多民族・多文化社会
―中国の現実、世界の課題―』

<日時> 2008年11月25日(火) 17:00-19:00
<場所> 神戸大学国際文化学部・大学院国際文化学研究科
    E棟4F 大会議室
<演題>
講演1   シヨニマ 「チベット社会:歴史と現状」
講演2   郝時遠 「中国の民族自治政策とモンゴル族」
講演3   楊聖敏 「中国のイスラーム民族の歴史と現状」

※ 講師略歴 ※
シヨニマ (Xirao Nima) チベット族。中国中央民族大学副学長、チベット学研究所長。専攻はチベット歴史・文化研究。主な著作に『西藏歴史地位辯』、『近代藏事研究』、『西藏古代法典選編』、『蒙藏委員会档案中の西藏事務』など。
郝時遠 (Hao Shiyuan) モンゴル族。中国民族学会長、中国社会科学院人類学民族学研究所長、学部委員兼法・政・社会学部委員長。専攻は中国の民族問題と民族政策研究。主な著作に『中国の民族と民族問題』、『中国民族関係史綱要』、『現代世界民族問題と民族政策』,『新バールコ右旗の蒙古族』など。
楊聖敏 (Yang Shengmin) 回族。中国民族学会副会長、中央民族大学人類学と社会学院長。専攻は西域民族歴史文化研究、新疆と中央アジア民族問題研究。主な著作に『回紇史』、『資治通鑑突厥回紇史料校注』、『黄河流域の服飾文化』(編)など。


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● 2008年10月3日

当研究プロジェクト主催 第1回講演会
内藤正典氏講演会
『ヨーロッパにおける多文化共生

―イスラーム教徒移民の社会統合―』

<日時> 2008年10月3日(金) 17:00-
<場所> 神戸大学国際文化学部・大学院国際文化学研究科
    E棟4F 大会議室
<講師> 内藤正典氏 (一橋大学大学院 社会学研究科教授)

※ 講師 内藤正典氏 略歴 ※

1956年東京都に生まれる。
1979年東京大学教養学部教養学科卒業(科学史・科学哲学分科)。
1982年東京大学大学院理学系研究科地理学専門課程中退。博士(社会学)。
専攻はイスラーム地域研究。現在、一橋大学大学院社会学研究科教授。
主著に
『イスラーム戦争の時代―暴力の連鎖をどう解くか』(日本放送出版協会)、
『ヨーロッパとイスラーム ―共生は可能か』(岩波書店)、
『なぜ、イスラームと衝突するのか ―この戦争をしてはならなかった』(明石書店)、
『アッラーのヨーロッパ ―移民とイスラム復興 中東イスラム世界』(東京大学出版会)
など多数。


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