多文化共生型の新たな市民社会像の構築
――ラテンアメリカからの日系人を中心とするニューカマーの移住者たちと地域社会――
プロジェクトの内訳
地域連携部多文化共生部門プロジェクト
代表者
細谷広美 (国際文化学研究科 教授)
分担者
合田 濤 (国際文化学研究科 教授)
柴田佳子 (国際文化学研究科 教授)
岡田浩樹 (国際文化学研究科 教授)
安岡正晴 (国際文化学研究科 准教授)
坂井一成 (国際文化学研究科 准教授)
中村 覚 (国際文化学研究科 准教授)
経費の出所
神戸大学教育研究活性化支援経費(教育)
概要
(1) 何をどこまで明らかにしようとするのか,また実現しようとするのか
本プロジェクトは
1. 学部及び大学院の学生に、通常の授業枠では教えることが難しいフィールドワークの基礎的方法を、実習を通じて教育する。これにより、卒業論文、修士論文、博士学位論文等を作成する際に、フィールドワークの方法論を応用することが可能となることを目指す。また、ミクロ(地域社会)とマクロ(国際社会)をつなぐ想像力、判断力、行動力をもつ学生を育成する教育を目指す。

2. グローバル化が進み、国際的に大規模な移住がおこっている一方、少子高齢化が進むなかで外国人労働者の導入が検討されている日本社会において、移住者たちを包含した多文化共生型の新たな市民社会像を構築するための基礎資料となる調査研究をおこなう。

このために、
3. 入管法の改正により90年代から急増しているラテンアメリカからの日系人の移住者たちを中心に、神戸周辺のニューカマーの移住者たちと地域社会の関係の実態を、フィールドワークを通じて明らかにする。
(2) 独創的な点
1. 単なる労働力としてではなく、生活者としての移住者たちの実態を、インタビュー調査、参与観察等をするフィールドワークを通じて明らかにする。

2. アジアからの移民に比して言語的障壁や文化的相違が大きく、対応が遅れているニューカマーのラテンアメリカの日系人の移住者を主たる対象とする。

3. 移住者たちは往々にして国別に分類されるが、現実には各国内の人種的相違、民族的相違、経済的格差も大きい。それ故、海外で現地調査を実施してきている教員が集まる国際文化学部、研究科という特性を生かして、移民のプッシュ要因をもつ国々の社会、文化的背景や多様性を視野に入れて検討していく。
(3) 意義など
 これまで指導してきた学部、大学院の学生の多くが国内、米国、ラテンアメリカ各地でのフィールドワークをもとに論文作成をしてきているが、フィールドワークの手法は机上ではなく、実施経験を通じて教育する必要がある。しかし、通常の授業の枠でおこなうことは難しくかつ機材等が必要である。このため、プロジェクトというかたちをとることより、円滑かつ効果的に体験・参加型の教育をおこなうことが可能になる。さらに、神戸という国際都市の特質を生かし、グローバル化や国際社会のあり方を身近な例を通して学んでもらう。これにより、大学、学生、地域社会の連携をはかる。ちなみに神戸はブラジルへの移民が出航した地であり、歴史的にラテンアメリカの日系人との関わりが深い。
(4) 計画・方法
 これまで授業のなかで、グローバル化が進行する過程でおこっている大規模な国際移住について、ナショナリティや市民権を含めたシティズンシップの再考という観点から学習する一方、フィールドワークの方法について学習してきた。これをさらに発展させ、実際の事例にあたっての立案、情報収集能力、分析力を進展させる。フィールドワークの準備段階として移住者の歴史的背景や現状について文献研究及び資料収集をする。これと並行して研究者、NGO関係者、エスニック・ビジネス従事者、自らの経験をもとに表現活動をしている移住者等を講師として招き講義をしてもらう。フィールドワークにおいては、大枠は教員が提示するが、具体的には学生たちにテーマを設定してもらい、テーマごとにグループに分かれて調査をおこなう。その際、卒業生、修了生、在日外国人の日本語学習をボランティアとして支援してきている大学院生、神戸大学への留学生等に、通訳・翻訳及びTAとして参加してもらう。特にラテンアメリカからの移住者は他の民族集団と異なり、コミュニティを形成していず、その多くがスペイン語、ポルトガル語を話しているという言語的障壁もあり、従来調査研究が難しい側面があった。このため、ラテンアメリカ地域での調査研究経験が豊富な教員の指導のもと、ラテンアメリカからの移住者が集まる教会における活動や祭り、NGO等の活動への学生による協力を通じて、地域社会への参加型のフィールドワークをおこなっていく。また、国際文化学部では全学に先駆けスペイン語教育を実施してきており、習得した言語を実際に使うことで学生の外国語学習のモチベーションを高める。
(5) 期待される具体的な効果・今後の展開
A. 期待される具体的な効果

1. 学部生は卒業論文の作成にフィールドワークの手法を役立てることができる。大学院生は論文作成に役立てることができる。また、海外で調査研究をする前段階として、日本でフィールドワークの方法を身につけることができる。
2. 少子高齢化が進む日本社会において、外国人労働者の受け入れが検討されているが、ニューカマーであっても定住化が進み、家族があり、教育や高齢化という課題を日本人同様に抱える移住者たちへの制度的かつ実質的な対応はこれまで十分なされてきていない。それ故、フィールド調査を通じて実態を明らかにし、移住者を包括した多文化共生型の新たな市民社会像を構築する基礎資料と展望を提示する。特に急増したラテンアメリカからの移住者に関しては、アジアからの移住者に比して従来調査や対応が遅れている。調査結果は報告書を作成し、自治体、NGO、関係機関等に配布して役立ててもらう。

B. 今後の展開

 フィールドワークは学生の自主性、集団での目標達成、社会的責任感、倫理観、問題解決能力を育成することにつながり、単なる知識の修得にとどまらない長期的視野にたった教育効果が期待される。さらに多文化的環境での協同作業の経験は、国際的場で活躍する人材の育成へとつながる。また、本調査研究はラテンアメリカ研究者が集まる神戸大学であるからこそ可能なプロジェクトであり、大学の地域社会との連携と貢献が大きく期待できる分野である。
活動状況 (シンポジウム、報告書等)
● 2008年3月発行


2008年3月発行
編: 細谷広美
A4版 246ページ

「多文化共生型の新たな市民社会像の構築
―ラテンアメリカからの日系人を中心とするニューカマーの移住者たちと地域社会―」

調査研究報告書

<目次>
はじめに 細谷広美 (3)
1. 行政とNPO (9)
1-1 各機関訪問 (10月10日) (10)
1-1-a 兵庫県庁 (11)
1-1-b 旧神戸移住センター (24)
1-1-c 関西ブラジル人コミュニティ (28)
1-1-d 子ども多文化共生センター (42)
1-2 兵庫県外国人県民インフォメーションセンター (51)
1-3 特定非営利活動法人「多言語センターFACIL」 代表 吉冨志津代氏講演 (61)
1-4 「外国人集住都市会議みのかも2007」 (81)
2. 移住者たちによる祭り(「奇跡の主」 Señor de los Milagros) (99)
はじめに 細谷広美 (100)
2-1 神戸市東灘区住吉教会における「奇跡の主」 (102)
2-1-1 ミサ (103)
2-1-2 聖行列(Procesión) (103)
2-1-3 フィエスタ(Fiesta) (104)
2-2 参加者へのインタビュー (105)
感想 (113)
コラム「アンデスの神戸」 細谷広美 (120)
3. 個別フィールドワーク報告 (121)
3-1「兵庫県の外国人児童生徒の教育をめぐる現状」 (123)
3-2 「兵庫県下に在住するペルー出身の家族と教育 ―親の視点、子の視点―」 (135)
3-3 「神戸大学での日系ブラジル人留学生の留学生活 ―日系としてのイメージと将来の展望―」 (158)
3-4 「兵庫県および大阪府の南米系の人々によるエスニック・ビジネス」 (178)
3-5 「デカセギの経済活動と定住化 ―在日ブラジル人の送金、貯蓄行動を通じて―」 (193)
4. アメリカの事例 (214)
「サンフランシスコ市の行政機関と多言語サービス ―英語公用語かと言語使用―」 (214)
プロジェクトを終えた感想 (227)
プロジェクト概要 (238)

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● 2007年11月28日

当教育プロジェクト主催 講演会
多言語センターFACIL理事長 吉冨志津代氏 講演会

<概要>
 阪神・淡路大震災を契機として、地域に住む外国人へ情報提供を行う多言語放送(8言語)「FMわぃわぃ」を立ち上げ、その後もスペイン語の月間生活情報誌の発行、相談窓口の開設、日本に在住するラテンアメリカの子どもたちの日本語教育、母語教育等、様々な活動をおこない、多文化共生社会の実現に実践の場から取り組んできている吉冨志津代氏をお招きして、講演をしていただきました。

<日時> 2007年11月21日(水) 16:45-
<場所> 神戸大学国際文化学部・大学院国際文化学研究科 A棟3F
   異文化研究交流センター(IReC)
<講師> 吉冨志津代 (多言語センター FACIL 理事長)

※ 講師プロフィール ※
 外国語大学卒業後、在神戸アルゼンチン総領事館など中南米の領事館秘書を経て、スペイン語講師やスペイン語での日本語講師に。1993年、スペインのベンポスタ子ども共和国との交流をする「グルーポ・ロスムチャチョス」を発足。また、1990年の入管法改正以来、急激に増えた日系中南米人の支援活動の中で、スペイン語による関西生活ガイドブックの監修。1995年の震災後は、外国人救援ネット設立やコミュニティ放送局「FMわぃわぃ」の発足に参加。同局の多言語番組プロデューサーに就任。その市民活動の延長で、主に多言語環境の促進や青少年育成のための活動を切り口に外国人自助組織の自立支援活動に従事。おもな役職は、NPO法人多言語センターFACIL代表、ワールドキッズコミュニティ代表、NPO法人たかとりコミュニティセンター常務理事、財)兵庫県国際交流協会 運営委員、財)兵庫県人権啓発協会 人権問題研究アドバイザー、兵庫県生涯学習審議会審議委員など。財)阪神・淡路大震災記念協会推進委員(2000年~2005年)、国立民族学博物館共同研究員(2003年~2005年)、神戸大学大学院国際協力研究科修士課程修了(国際学)、京都大学大学院人間・環境研究科博士課程後期在籍。
主な論文などは以下。
・「在日日系南米人の母語教育-草の根活動の現場から公的支援を考える-」マイノリィティスタディーズ1「日系南米人の子どもの母語学習」(KOBR外国人支援ネットワーク編)2001年
・「在日スペイン語系南米出身者の日本語使用」事典 日本の多言語社会』真田信治、庄司博史 編、2005年
・「新渡日外国人による自助組織の形成プロセスー兵庫県の事例からー」『多文化関係学』第3号、2006年
・「多文化が活かされる地域社会-神戸の事例から-」『「多文化パワー」社会―多文化共生を超えて―』明石書店、2007年
・「コミュニティビジネスを起業する~地域のマイノリティとの協働のかたち~」『現代地域メディア論--市民がつくるコミュニティの新しいかたち--』日本評論社、(2007年12月)


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● 2007年10月23日
フアン・カスティーリョ氏講演会
講演の模様


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フアン・カスティーリョ氏は、神戸住吉教会で毎年開催されるセニョール・デ・ミラグロス(奇跡の主)の祭りの創設者です。

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● 2007年7月20日

当教育プロジェクト主催 講演会
「多文化共生社会の課題とニューカマーたち
 ―日本におけるラテンアメリカ系住民の歴史と現状―」


<概要>
 日本におけるラテンアメリカ系住民は、1990年の入管法改正とともに急増しました。ブラジル、ペルーを中心にラテンアメリカから来日した日系人の人々は、そのほとんどがポルトガル語、スペイン語を母語としています。当初は一時的滞在者である「デカセギ」としてみなされてきましたが、入管法改正からすでに17年を経て、滞在の長期化が進む人々、あるいは日本での定住を望む人々もでてきています。今回はペルーの日系人の歴史と文化について研究をするとともに、日本におけるラテンアメリカ系住民の児童生徒の教育問題について、早期の段階から長年にわたって調査研究をしてきていらっしゃる山脇千賀子先生をお招きして講演をしていただきました。

<日時> 2007年7月20日(金) 17:00-19:00
<場所> 神戸大学国際文化学部・大学院国際文化学研究科
   E408教室 (E棟4階)
<講演> 「多文化共生社会の課題とニューカマーたち
 ―日本におけるラテンアメリカ系住民の歴史と現状」
<講師> 山脇千賀子 (文教大学国際学部准教授)

※ 講師の著書 ※
 Estrategis de vida de los inmigrantes asiaticos en el Perú, Instituto de Estudios Peruanos & The Japan Center for Area Studies,.2002.
 『ペルーを知るための62章』 明石書店、2003年、
 『外国人の子どもと日本の教育 ―不就学児童と多文化共生社会の課題』 東京大学出版会、2005年 等
関連リンク
多言語センター FACIL 当教育プロジェクトの講演会の講師、吉冨志津代氏が理事長を務める、翻訳・通訳、多言語企画のNPO事業体。