萩野道義さんのフィードバック

2008年度全学キャリア科目「職業と学び―キャリアデザインを考える」第8回 11月20日「もの造りへの夢―技術者の志」

         コミュニケーションシートを読み終えて

                                    講師 萩 野 道 義

 皆さん、私の講義を熱心に聴いてくれてありがとう。
コミュニケーションシートを読むと、殆どの方が私の講義を熱心に聴いて、賛同するかどうかは別として、充分に理解されたことを実感できる内容でした。このことは、講義をする私にとって大変素晴らしいことで、大きな喜びをいただきました。

 私は、このようなキャリアデベロップメントの講義では相互理解が一番重要だと思っていますので、できるだけ理解しやすくまとめることに私自身それなりに努力しました。その結果が実ったということを実感でき、大きな喜びとなったわけです。「難しい課題でも本質まで考えればシンプル」と私は申し上げましたが、それが実行できたという喜びです。もちろん、大学の講義では非常に理解しにくく、難しい講義もありますが、それは講義を受ける皆さん方に考えることを合わせて要求する場合だと思います。考えることが重要な場合も多いからです。

 さて、コミュニケーションシートを読みますと、これからの進路をまだ決めていない、あるいは漠然としか考えていない方が多いので、この点についての私のアドバイスを書いておきます。そのあと、若干ありました質問について私の考えを書いておきます。
 進路を決める、あるいは目標を定めるというのは一生を決めることに繋がりますから大変重要であり、簡単に決められないのは当然ですが、殆どの皆さんが一回生ですのでまだ充分時間があります。しかし、時間はあるようですが、時間が過ぎるのは早いので、今から充分考えておくことが重要です。
 進路を決める場合に大切なのは、自分は何をやりたいか、何が得意かだと思います。考えのスタートはこれだと思います。好きなことが一番自分の能力を発揮することができます。好きこそ物の上手なれ、です。皆さん方は誰にでも好きなこと、やりたいことがあるはずです。このことから目標を定めるのが一番良いのですが、どうでしょうか。この目標が定まれば進むべき企業、官公庁、などを決めることになりますが、自分の目標を実現するのに一番あっている所を選ぶことが重要です。進むべき会社を決めるのは目標を達成する手段であって、目標ではありません。
しかし、自分のやりたいことができる会社を選ぶ、これは大変難しいことですね。自分のやりたいこと、目標を実行することが、会社の方針にあっていなければやれるはずもありませんからね。
 だから、進みたいと思う会社とその会社を取り巻く世の中を充分調べる必要があるのです。インターネットが発達していますからその会社のホームページを見るなど、調べる手段はいくらでもありますが、その会社にいる先輩に聞くことも、生の声が聞けるのでよい方法かも知れません。この調べる努力が重要ですね。

 自分の目標を達成できそうな会社が複数社ある場合は、それらの会社を重点的に調べることになります。対象が絞られていればより深く調べられるので、早くこの段階まで到達されるのが良いと思います。
どうしても会社が見つけられない場合、自分で会社を起こすという選択肢もありますが、これは適切な能力がなければ成功が難しいのは皆さんもよくご存知だと思います。私の友人にもよく知っている成功例が数件ありますが、私自身に経験がありませんので適切にアドバイスができません。ただ一つ言えることは、能力だけでなく極めて強い運が必要です。運も実力の内かも知れませんが。
 いずれの道に進むにしても、充分な調査研究が肝要だと思います。

 次に質問にお答えしておきます。

1) 芸術はもの造りではないのか。
 もの造りは人々を豊かにするものを造りだすという私の定義からすると間違いなくもの造りだと思います。しかし、芸術をもの造りというと世の中の常識から考えて、芸術家に申し訳ないように思います。もの造りの域を超えているからです。同様に定義からするとお米も農業ももの造りですが、世の中の常識ではもの造りではないでしょうね。もちろん建築物はもの造りに含まれると思います。

2) 工学部出身者が企業のトップになれないのか。
 そんなことは全くありません。特に製造業では工学部出身者のトップが多数いらっしゃいますよ。理系であれ、文系であれ経営センスがあるかないかです。逆にホンダは以前ある時期、営業トップの専務が工学部出身でした。

3) 理系と文系で経営の仕方に変わりがあるか。
 基本的に違いはありませんが、技術屋出身のほうがその会社の商品がわかる場合が多いので、製造業では技術屋がトップのほうがいいかも知れません。アメリカの自動車メーカー、ビッグ3の経営トップが技術屋でないので、どうしてもヒット商品が生まれにくく、今の状況になっている一つの原因と思います。センスの問題ですが。

4) 会社の一部分になって自分のやりたいことができないのは嫌だ。これはわがままか。
一言でいえばわがままですが、短期間ならともかく、一生やりたくないことをやるのもつらいですね。その会社の中に自分のやりたいことをやる部門があるなら、そこへの移動を希望するしかないですね。それまでの我慢です。どの部門にもやりたいことがないなら、あなたの会社選択のミスですね。あなたの責任です。

5) アーチェリーを通して何か役に立つことはあったか。
 アーチェリーに限らず部活は人間関係を勉強する意味で重要だったと思います。それを具体的に書くには紙面が足らないので割愛します。

6) なぜ産業革命があったイギリスより、日本は技術水準が高いのか
 イギリスはもはや国として、もの造りをやる意欲と必要を感じなくなったことが大きな原因です。資産、資源が豊富にあればもの造りをやろうとしなくなるようです。いずれアメリカもそうなると思います。日本はもの造りしか生きる道が現在はないから努力する、その結果だと思います。

7) 大型車と小型車どちらが故障しやすいのか
部品点数が多い大型車のほうが故障しやすいと思えますが、実際はその分、品質確保に手間ひまをかけているのでそんなことはありません。今売られている車には不具合が内在しておりませんが、人間のすることに絶対はありませんので、保障期間を設定しています。それでも万が一の場合、お客様に迷惑をかけることになりますが、リコールをやらせてもらうことになります。

 以上で質問に対する私の考えを書かせてもらいました。

 最後になりますが、大学生の時代は一生に一度の貴重な時間です。専門の勉強は当然として、色々なことをやって知識と経験を増やすことが肝要です。ぜひ有意義な時間をたくさん送ってください。それをジャンピングボードにして自分のために、日本を、世界を支える人になってください。期待しております。
(2008年12月13日)