研究員
2012年度協力研究員研究テーマ
植朗子 UE Akiko
研究テーマ:「グリム兄弟『ドイツ伝説集』におけるモティーフ研究」
研究概要:
19世紀初頭に発表されたグリム兄弟の『ドイツ伝説集』Deutsche Sagenを中心に、ヨーロッパ文化の深層に隠されている「異教的・異端的なもの」をドイツ語圏の伝説研究の観点から解明することをテーマとしている。ゲルマン民族の移動期から宗教改革までのドイツ語圏の伝説を含む『ドイツ伝説集』に見られるモティーフについて、兄であるヤーコプ・グリムの『ドイツ神話学』Deutsche Mythologieやノヴァーリス、ハイネなどの作品との比較によって具体例を示し明らかにする。『ドイツ伝説集』はドイツ民俗学や思想研究、あるいは『グリム童話集』の補助資料としての研究がわずかにあるだけで、未だ系統的な研究がなされていないのが現状である。『ドイツ伝説集』を文学的な視点から研究することによって、グリム研究に新たな手法を提案するとともに、ドイツ語圏の精神史の解明に寄与したい。
研究課題:「ロマン主義における信仰対象の変容と『ドイツ伝説集』の精神史的特性の解明」
主要研究業績
- 「グリム『ドイツ伝説集』のホッラさんFrau Holla-モティーフの四大要素と配列-」
『国際文化学』21、2009年9月、pp. 125-138. - 「グリム『ドイツ伝説集』のコスモロジー」『国際文化学』22、2010年3月、pp. 13-26.
- 「グリム兄弟『ドイツ伝説集』の土地伝説集における配列」『ドイツ文学論攷』53号、2011年12月25日、阪神ドイツ文学会編、p31~54
鬼頭尚義 KITO Naoyoshi
研究テーマ:「歌人伝説の形成と展開」
研究概要:
日本各地には、様々な伝説が残されている。英雄に関する伝説、巨木・巨石伝説、または地名由来伝説など枚挙に暇がない。こうした伝説の中でも、特に目を引かれるのが、都からやってきた歌人に関する伝説―いわゆる歌人伝説である。修士課程から博士課程の5年間は、平安中期を生きた歌人である藤原実方に注目して、実方伝説の形成背景とその意味について研究を進めてきた。その概要を簡単に述べておく。実方伝説の形成には、在地の人々―中でも俳諧師や権力者といった、一定水準以上の知識を持った人々―の関与が確認できた。実方伝説に見られる俳諧師や権力者の関与は、図らずも小野小町や西行、和泉式部といった歌人伝説にも見られる構図の一部でもあった。今後は、実方と比較されることの多い在原業平や、実方と親交が深かったと言われている清少納言ら、関西と縁の深い歌人に焦点を当てて、伝説の形成背景と意味について考察を進めていき、実方や小町と同じような構図が当てはまるのかを探っていく予定である。最終的には、旅する歌人伝説のデータベースを構築し、旅する歌人伝説が様々な地域に残されている背景やその意味を理解する一助にしたいと考えている。本研究は、日本文化の基層部分を理解する上でも、欠かす事は出来ないのではないだろうか。
主要研究業績
- 「実方説話と寺社縁起-更雀寺を例として」『仏教文学』32、2008年3月、pp. 64-75.
- 「歌枕を巡る実方―出羽国大沼に残る伝承を例としてー」『説話・伝承学』17、2009年3月、pp. 78-93.
シーリン Kered Shilin
研究テーマ:「清代モンゴルにおける書記および書記の養成に関する研究」
研究概要:
二千年以上の長きにわたって整備された中国の文書行政システムは、17世紀に清朝支配下に入ったモンゴルへも導入された。モンゴルでのこの整然たる文書行政を支えていたのは、「ビチェーチ」と呼ばれるモンゴル人書記であった。これらの書記や彼らを育成した書記養成制度はモンゴル史上で極めて重要な役割を果たした。これまでの研究においては、まず、清代外モンゴルの書記養成制度の全体像を解明し、次に、清末のモンゴル人書記の
世界を詳細に描き出し、さらに書記出身者たちの近代モンゴル社会における活躍を再現し、彼らの社会的貢献を究明した。最後に、清代外モンゴルの書記養成制度が近代モンゴルの学校教育に与えた影響についても検討し、清代モンゴルの書記および書記養成制度の歴史的存在意義を実証することに力を注いだ。
今後は、同じくモンゴル民族の居住地である内モンゴルの書記や書記の養成実態を明らかにしながら、同一民族によって形成される同じ「モンゴル世界」でありつつも、少なからぬ政治や社会状況の差異が存在する内外両モンゴルで、書記および書記養成制度がどのような「共通点」と「相違点」をもち、それぞれの歴史的意義はいかなるものであったのかについて検証していきたい。
主要研究業績
高岡智子 TAKAOKA Tomoko
研究テーマ:「東ドイツとハリウッド映画音楽の比較研究―文化政策とメディア史的観点から―」
研究概要:
本研究は、これまで学問的に考察される機会が少なかった映画音楽に焦点を当て、文化政策とメディア史の観点から東ドイツとハリウッドの映画音楽を比較する。資本主義と社会主義という異なる社会体制のもとで、映画音楽作曲家たちは現実にいかに対峙したのか、また音楽は社会のなかでいかに機能してきたのか。東ドイツの映画音楽については、社会主義国家のなかの映画音楽の全貌を明らかにすることを目指し、同時に文化政策的観点から映画音楽の機能について検討する。この研究と並行して、シートミュージック(sheet music)やジュークボックス(juke box)といったメディアの発展という文脈から、1950年代から60年代のハリウッド映画音楽を読み解きたい。
主要研究業績
- 「『国民音楽』としての東ドイツロック―文化政策が生み出したポピュラー音楽―」『演劇映像学』2、2011年3月、pp.21-40.
- 「東ドイツの文化政策と亡命ユダヤ人作曲家―ワイマール文化から社会主義リアリズムへ―」『社会文化学会』12、2010年3月、pp. 91-112.
- 「コルンゴルトのオペラに見られる『メロドラマ』手法―初期ハリウッド映画音楽の萌芽をめぐって―」『国際文化学』13、2005年9月、pp. 36-60.
寺尾智史 TERAO Satoshi
研究テーマ:「『リキッド化する社会』における言語多様性保全 」
研究概要:
社会の液状化がグローバルに進行する中で、話者の移動を無視した「言語分布域」ありきの少数言語保全政策は曲がり角を迎えている。流動する現代の人間活動の中で、ことばの多様性を担保する方法論が存在しえるのか、国民国家における国家言語形成の焼き直しである「地域・少数言語政策」を採ってきたヨーロッパの経験を批判的に検討することを糸口として考察を深めたい。
具体的には、調査・議論の対象を主に南欧・中南米とし、言語政策が一定の成果を収めているように見えるカタルーニャ語(スペイン)、グアラニー語(パラグアイ)、ケチュア語(ボリビア、エクアドル)など(いわゆる「地域言語」)の例と、話者数の減少に歯止めがかからないミランダ語(ポルトガル)やアヨレオ語(ボリビアおよびパラグアイ)など(「弱小少数言語」)の例とを対比的に検証する。なお、後者の範疇として「南米における琉球語」など、移民が話す少数言語も射程とする。前者(カタルーニャ語など)については、「滅ぼされる前にダイグロッシア(二言語併用社会)の主従関係を打破すること」を目標として掲げる「言語正常化」の名のもと、「地域言語」としての姿が確立されつつある。しかし、テリトリアリティに呪縛されている負の側面も同時に示す必要があろう。後者(ミランダ語など)については、①言語保全運動の発生前後において、これらの言語への「非母語話者による他者認識」が、その後の運動の成り行きをどのように規定しているか、②大都会・先進国へとシフトする母語話者の生活圏の離散と、過疎の進行によって空洞化する「言語分布域」の現状、ならびにその現実に対応しようとする(数少ない)言語政策上の取組みについて、とりわけ注視する。
主要研究業績
- 「地方都市における多言語表示―美濃加茂市における南米出身者向け表示を事例として」『神戸大学留学生センター紀要』15,2009年3月,pp.25-49.
- 「南部アフリカ・アンゴラにおける多言語政策試行―ポルトガル語とバンツー諸語の間で」『国際文化学研究』(神戸大学大学院国際文化学研究科)32,2009年7月,pp.33-66.
- "Mirandese as an Endangered Language"『国際文化学研究』(神戸大学大学院国際文化学研究科)35,2010年12月,pp.101-126.
沼田里衣 NUMATA Rii
研究テーマ:「音楽療法、コミュニティアートにおける創造的音楽活動について」
研究概要:
筆者は、これまで音楽療法、コミュニティ音楽療法、コミュニティアート、アートマネジメントなどの領域で、福祉やコミュニティの創成などの現代的ニーズに芸術の様々な可能性が試されている状況に身を置き、音楽の生成、パフォーマンスや享受の過程でどのようなイデオロギーが働き、価値観の交換が行われているのかなど、自ら実践しながら観察・研究してきた。今後もこのようなこれまでの音楽療法やコミュニティにおける創造的音楽活動の研究・実践をさらに追求し、新しいアートを創出するというアート側の欲求と社会的要求がせめぎ合う場面に生ずる課題について、研究を進めて行く予定である。
主要研究業績
- 「音楽療法における即興演奏に関する研究ーセラピストとクライエントの音楽的対話の過程とその意味ー」『日本音楽療法学会誌』5(2)、2005年、pp. 188-197.
- "EinScream!:Possibilities of New Musical Ideas to Form a Community", Voices: A World Forum for Music Therapy Vol.9(1),2009. http://www.voices.no/mainissues/mi40009000304.php
野村恒彦 NOMURA Tsunehiko
研究テーマ:「19世紀英国科学者の大陸旅行(グランドツアー)」
研究概要:
グランドツアーとは18世紀から始まる英国貴族子弟による大陸旅行のことである。そこでは、大陸文化を直接体験することによりより広い教養を見つけようとする姿勢 があった。一方19世紀において英国と大陸科学者の交流については緊密な連携が構築されようしていたものと考えることができ、科学者によるグランドツアーも実際に行 われていた。チャールズ・バベッジもその例外ではなく、大陸科学者との交流を深めるべく3回の大陸旅行を行い大きな影響を受けている。これらのことを踏まえて、英 国科学者を中心に国際間ネットワークの構築についての実像を明らかにし、英国と大陸科学者との知識交流についての具体的な経過を明確にしていきたい。
主要研究業績
- 「チャールズ・バベッジ『第9ブリッジウォーター論集』の数学的意義」『科学史研究』46(244)、2007年、pp. 220-230.
- 「チャールズ・バベッジと解析協会(Analytical Society)」『数理解析研究所講究録』1513、2006年、pp. 36-45.
劉澤軍 LIU Ze Jun
研究テーマ:「文の結束性に関する日中対照研究―主題の省略の視点から―」
研究概要:
日本語では、文と文のつながりに関して、省略、代用、指示等の手段により、文の結束性が形成していると言われてきている。一方、中国語では、どのような手段を用い、文の結束性が形成されているのかは、研究が少ないため、未だに不明な状態である。本研究では、主に主題の省略の視点から文の結束性に関して、日本語と中国語はどのような共通点と相違点をもっているのかについて考察する。これらの考察を研究課題としながら、両言語の対照研究を行うことにより、日本語と中国語における文の結束性についての特徴を明らかにすることが目的である。
主要研究業績
- 《关于日语主题的省略和非省略》「日本語における主題の省略と非省略」『日語学習与研究』《日語学習与研究》編輯委員会、2008年5月、pp. 28-32.
- 《有关日语口语中的主题省略-以日语口语语料库分析为中心》「日本語話し言葉における主題の省略―日本語話し言葉コーパス(CSJ)を中心に」《汉字文化圈近代语言文化交流研究》李運博主編 中国・南開大学出版社, 2010年6月、pp. 231-248.
- 「視点の観点からみる日本語の主題の省略―中国人日本語学習者と日本人母語話者との比較を中心に」『国際文化学』23・24、2011年4月、pp.115-129.