21世紀初期のバイオアートに宿る超人間中心主義
              ──人新世における新たな生と死の表象──

 
 
講師:高橋洋介(角川武蔵野ミュージアム・キュレーター)
 
日時:2022年1月9日(日)10:00-12:00(Zoom にてオンライン開催)
 
【講演主旨】
「気候変動」が喫緊の課題として世界中で共有され、環境に負荷をかけない消費がファッションのようにもてはやされるようになった今、他種の生物と協働したり自然物を用いたりする作品は、近代社会における人間中心主義を批判するものとして「政治的な正しさ」を強く帯び始めている。60年代以降、「エコロジー」と呼ばれてきた思想は、「SDGs」という国際的な政策や「環境正義」という社会的公平性を追求する運動へ姿を変え、人々の意識と行動を変革し、格差や地域や文化を超えて共同体を束ねる新たな「大きな物語」になった。
 このような状況と呼応するように、人類が地球の生態系や気候に大きな影響を及ぼすようになった「人新世」という時代の問題を「生きた素材」(バイオメディア)によって提起する芸術家の一群が2010年前後から世界各地で注目され、徐々に頭角を現しつつある。
 本講演ではこのような状況を踏まえて、美術史における古典的な「生と死」と、新たな作家たちが表現する新たな「生と死」の表象を対比し、その概念がいかに変化しつつあるのかについて、同時代の社会状況と合わせて読み解くことを試みる。それによって21世紀に励起する美学の新たな問題群を提示し、私たちがそれらといかに向き合うかを議論する。
 
【講師プロフィール】
1985年東京出身。角川武蔵野ミュージアム・キュレーター。
金沢21世紀美術館キュレーター(2014ー2021年)を経て2021年より現職。
「近代的な人間観が滅びた後の芸術」を主題に、主に1990年代以降のテクノロジーと芸術の関係を研究。専門はポストヒューマン美学および超人間中心主義の芸術。
金沢21世紀美術館での主な展覧会に「de-sport:芸術によるスポーツの解体と再構築」(2020)、「DeathLAB: 死を民主化せよ」(2018-2019)、「死なない命」(2017-2018)、「Ghost in the Cell: 細胞の中の幽霊」(2015-2016/オーストリアのアルスエレクトロニカへ巡回)など。他館での企画に、「未来と芸術」(森美術館、2019)、「国立科学博物館の相対性理論」(国立科学博物館、2018)、「2018年のフランケンシュタイン:バイオアートにみる芸術と科学と社会のいま」(GYRE、2018)など。
 
 
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主催:「近現代美術における死生観の研究――『ヴァニタス』表象を中心に」
    基盤研究(B)20H01206 研究代表者:香川檀(武蔵大学)
共催:神戸大学国際文化学研究科研究推進センター(Promis)

問い合わせ先:keikoishida@people.kobe-u.ac.jp (石田圭子:神戸大学)