シェンゲン圏の拡大とEU公共圏の社会文化的再構築の諸課題

 

代表者

    • 坂井 一成

分担者

    • 藤野 一夫
    • 青島 陽子
    • 近藤 正基
    • 齋藤 剛
    • Vladimir Kreck(日欧連携教育府)
    • 小林 瑠音(博士課程後期課程)
    • 佐藤 良輔(博士課程後期課程)

概要

EU(欧州連合)には、人の移動の自由を保証する「シェンゲン圏」が設けられているが、2004年以降に13の東欧諸国が新たにEUに加盟するな かで、この圏域の境界が大きく外に広がってきた。シェンゲン圏の中と外の境界が変化した結果、そこに様々な政治的・文化的軋轢が生じてきている。例えば ポーランドは、ドイツとの間で国境線をめぐる歴史的な摩擦があったが、シェンゲン加盟後にはむしろそのドイツとの境界線は摩擦から融和象徴へと変化した。 ウクライナは、ポーランドが加盟する前は同国との間でビザ相互免除など人的・経済的交流が盛んであったが、ポーランドのシェンゲン入り後はシェンゲンの内 に入るのか(=EU加盟)、それともロシアの政治的圧力を受けて外に止まるのかという揺らぎの中で、国家の分裂危機を抱えてしまった。アラブの春によって 発生した大量の移民・難民は、地中海というシェンゲン圏の外縁をまたいで一気にその中に流入し、シェンゲン加盟国フランスやイタリアの移民管理政策を揺る がした。またシェンゲンの中でも、カタルーニャは2014年11月にスペインからの独立を問う住民投票の実施を目指して動いており、仮に独立達成となった 場合シェンゲンの中に止まるのか否かは不透明なままである。
一口にEU拡大といっても、その境界をめぐる問題は複雑である。とりわけ、EUとユーロ圏とシェンゲン圏の相互の境界線のずれから生じる諸課題 は、国際公共圏の構築を目指す世界史的な実験過程に難問を突きつけている。シェンゲン圏の外に向けても中においても、境界をまたいだ協力の可否、さらに境 界の変動に伴う政治的・文化的摩擦という課題を現出させている。
本プロジェクトでは、シェンゲン圏という人の移動のコントロールに関わる境界線の変化の中で、いかなる摩擦が生じ、その解決のためにいかなる方策 が打たれているのかを、その政治的枠組を踏まえながら、社会文化的視点を軸に考察する。具体的には、シェンゲン内でのEU各国の文化政策や社会政策、対外 的な文化外交・文化交流を通じて検証を進める。EUという広域圏や国境を挟んだ越境的な地域アイデンティティ形成に向けた政策などを通じ、相互理解・多文 化共生を可能にする緩やかな国際公共圏が構築される過程と、逆に国民国家という既存の共同体が機能不全を起こして内的な分離の発生する原因の解明を目的とする。