シティズンシップ概念の地域的展開と理論的展開に関する共同研究
――死者のエージェンシーとレジリエンスを手掛かりとして――
代表者
- 梅屋潔(神戸大学国際文化学研究科・教授)
分担者
- 窪田幸子(神戸大学国際文化学研究科・教授)
- 岡田浩樹(神戸大学国際文化学研究科・教授)
- 齋藤剛(神戸大学国際文化学研究科・教授)
- 中村覚(神戸大学国際文化学研究科・教授)
- 伊藤友美(神戸大学国際文化学研究科・教授)
- 貞好康志(神戸大学国際文化学研究科・教授)
- 石森大知(神戸大学国際文化学研究科・准教授)
協力者
- フランシス・B・ニャムンジョ(ケープタウン大学)
- 波佐間逸博(長崎大学)
- ルンギシレ・ンテベザ(ケープタウン大学)
- エドワード・キルミラ(ステレンボッシュ高等研究院)
プロジェクトの目的
もとより3年計画(希望)で申請してきたこのプロジェクトの目的は、西洋由来ではあるが柔軟な内容を含む分析概念として近年展開してきた「シティズンシップ」という概念の地域的展開に関する資料を蓄積し、グローバル化によって対応してきた地域による読み替え、流用、再解釈に関する実態を把握することにある。特に今年からは、より問題を絞り込むために、「死者のエージェンシー」と「レジリエンス」をキーワードに研究を進めたい。梅屋の研究協力者F・B・ニャムンジョは、移民する動機を理解するには、情緒的側面への理解が不可欠であるとの提唱をしている(2013)。この方向性を引き継いで、シティズンシップ研究にも墓や位牌など死者を表象する象徴の存在や「死者のエージェンシー」、さらには「レジリエンス」といった概念を含めて考えるべきだとする議論が展開した。つまり、例えば移民を例にとったときに、死んだ後の弔いの可能性が保証されていれば移住しやすいこともあるし、動機としては移住の希望があっても、自らの代々の墓や位牌が特定の場所にあるためにそこを離れたくないといった事情も容易に想定されうるからである。別な側面で見れば、このことは特定の土地への執着につながり、コミュニティの解体と逆方向の「レジリエンス」に見えるだろう。このように、生きている実際の狭義の形式的シティズン以外にも考慮に含めるべき要因が認められること、シティズンシップ理解にはコミュニティの「レジリエンス」の側面を含めるべきであるとの前提から、情緒的なもの、死者の存在、「レジリエンス」以外にも地域的なファクターを地域研究的に蓄積することで、従来では視野に入らなかったシティズンシップ概念の展開を目指す。さらに、情緒的側面の切込みに「レジリエンス」をキーワードにして考えることが提案された。また、本研究科で進められてきた「移民」の動機や動因についての民族誌的貢献および蓄積された資料を分析するための理論的な骨格を構築するうえで貢献することも構想されている。また、いくつかの関心を共有する桜井徹教授の牽引するGlobal Welfare Projectとの協働も視野に入れて計画されている。
Hazama,I., Kiyoshi Umeya and Francis Nyamnjoh(eds.) (2019)Citizenship in Motion: South African and Japanese Scholars in Conversation. Bamenda: Langaa RPCIG.