先端社会論

グローバル文化専攻・現代文化システム系 先端社会論コース

最終更新日 2021年8月14日

コースの紹介

  現代社会では、人間・自然・社会の相互関係が大きく揺らぎ、ますます複雑化してきています。「先端社会論」コースは、この現代杜会の先端的な問題群を、人文・社会科学を交差する学際的アプローチによって、領域横断的に検討することを課題としています。例えば、男女の性差を社会的に構成されたものととらえるジェンダー論の視点から、家族や個人や国家をめぐる考え方の変化を分析すること。人間の生死をめぐる規範の揺らぎを理解すること。貧困、移住、人権侵害、体制転換などのグローバルな課題の公正な解決法を構想すること。メディア・テクノロジーの革新が促進する消費社会の情報化と多文化社会が要請する新たな社会観や人間観を模索すること。「先端社会論」コースは、こうした錯綜する諸問題を理論的に解きほぐし、それらに現実的に対処していくためのトレーニングの場です。

 
進路実績

(前期課程) 兵庫県庁、富士通BSC、(株)三菱倉庫、(株)コベルコシステムなど

(後期課程) 花園大学文学部創造表現学科准教授、京大グローバルCOE研究員など

在籍学生数

(前期課程) 8名

(後期課程) 5名

論文テーマ例

(前期課程)
・日米印三国におけるインフォームド・コンセントの比較・検討
・The Politics of‘ Koizumi Theatre’: On the Reconstruction of Japanese Nation-State at the Neo-Liberal Moment
・代理出産の「資格」
・日本における外国人技能実習制度の現在――中国人技能実習生の調査を踏まえて
・Representation of Romanies in Tony Gatlif’s films
・ニュー・クィア・シネマが抱える消費と可視性のジレンマ
・Can “Street Dance” Speak(by Dancing)?:A Study of the Policing of
Street Dance Scenes in Taiwan
What is “Gayness?”:From Narratives in Britain and Japan
・宝塚歌劇はなぜ女性観客を集めるのかー日本と中国における『ベルサイユのばら』の観劇レポート分析を中心に
・東方で生まれた二人のシャーロック・ホームズー『半七捕物帳』と『霍桑探案』の比較研究

(後期課程)
・Occupation and Sexuality:GHQ’s Policy-Making on Prostitution
・関係性としてのフェミニズム――イメージ、個人、方法論の相互作用から
・道徳的個人主義の展開と「心」の変化
・「つくられる共同体」の社会学的研究

所属教員の紹介

青山 薫 教授 ジェンダー社会文化論特殊講義ほか
専門は社会学、ジェンダーとセクシュアリティ。 グローバル化、多文化主義、社会的排除と包摂、親密権、表象の問題などに関心を持ち、移住、ケア/性労働、同性婚、性同一性「障害」など、公私にわたる変化を引き起こす事象について、理論・方法論・実証研究を結びつけて追求しています。

小笠原 博毅 教授 メディア社会文化論特殊講義ほか
専門は社会学、カルチュラル・スタディーズ。とくにメディアとスポーツをフィールドとして多文化資本主義と人種差別の文化との関係を、実証的、理論的、かつ思想史的に検証し考察しています。

工藤 晴子 講師 文化規範形成論特殊講義(2022年開講)ほか
国際社会学を専門とし、ひとの国際移動とジェンダーやセクシュアリティの関わりについて特に難民・強制移住におけるセクシュアリティの規範という視点から研究しています。また難民支援現場での実務経験から、支援の暴力性や支援者/被支援者の権力関係という問題にも関心を持ち取り組んでいます。

桜井 徹 教授 現代法規範論特殊講義ほか
専門は法哲学、「グローバル・ジャスティス」。つまり、移民・難民問題、経済格差、 テロ、人権侵害といったグローバルな課題を前に、国境という境界線がいかなる意味をもつのかというテーマを研究していますが、最近は特に、国際移住が増加する中で、普遍的な人権の保護とナショナリズムの再興との間の衝突をいかに調整するかという問題に取り組んでいます。

西澤 晃彦 教授 現代社会理論特殊講義ほか
専門は社会学、都市社会学、社会問題論。社会的排除と貧困を主たるテーマとして、自己アイデンティティの構築・社会的世界の形成・都市空間の構成と社会的排除の関連について研究を行なってきました。

 

所属学生からのメッセージ

フィリップ・ヒューズさん(博士後期課程3年)

イギリス,リバプール・ジョン・ムーア大学経営学部卒業。
研究テーマ: Gayness and Identity

★メッセージ

  神戸大学国際文化学研究科に入学したきっかけは、現代における社会問題とその背景にある事情を学ぶことも、現在の日本と私の出身地であるイギリスなど他国との関係を歴史的にさかのぼって学ぶこともでき、広い学際的視野で研究ができると考えたからです。実際に、研究科には、研究に励むことができる環境が整っており、追求したいことが追求できる自由さがあります。自分自身の研究テーマは、世界でも日本企業でも課題となっている性的少数者(LGBT)への社会の対応についてですが、とくに私が所属する先端社会論コースは、このような先進的課題を研究するのに最適のコースだと思います。
 研究科全体が、多様性を尊重することを重要視しており、異なる国、文化、常識が常に身近にある環境となっています。その中で生活することは、自分自身にとって大変貴重な経験になります。また、大学院で研究を行う上で、毎週必ず何らかの演習や講義が行われ、指導教員のアドバイスを受けることができるようになっています。その中で研究することは、学問的人間的に成長し続けることであると感じています。

 

神田 南さん

(博士前期課程2年)

都留文科大学文学部卒業
研究テーマ:「越境して行われる人身取引と性産業従事者を取り巻く女性運動」

★メッセージ

 私が本研究科へ進学したきっかけは、学部の頃の研究をより深めたいと思ったことです。当時のテーマはインドとネパールの間で展開される性的搾取を目的とした人身取引でした。
 低開発地域からトランスナショナルに行われる人身取引の問題は、グローバル化、ジェンダー間の不平等、貧困、移民の増加などの様々な要因が複雑に絡み合っています。その中でもインドでは多くの女性や子どもが近隣諸国から人身取引を目的に連行されています。この問題の解決を困難にしているのは、国境を越えた連携が不十分であること、女性の身体や性は売られてはいけないという家父長的な性規範が、巻き込まれた女性たちの存在を地下化して当事者の声を届きにくくする状況があることだと考えられます。このような問題関心から、私はインドの女性運動に着目し、それはいかに当事者たちの声を代弁しているのかを検討する試みをしています。
 このテーマを研究するにあたり、先端社会論コースでは、ジェンダー論の視点で移民や性労働といった事象を分析する講義などがあり、自身の研究領域の専門的に学ぶことができると感じています。また本コースはその名の通り現代社会における諸問題に関して、それぞれの分野を専門にされている教授方から幅広くに学ぶことができます。それぞれの講義や演習で教授からのアドバイスを受けたり院生同士
で議論を活発に行う中で、研究を進めるうえでのヒントを得ています。
 また他のコースの講義や演習を受講することも可能ですので、自身とは違う領域を専門とする教授や院生と議論を交わすことができます。こうして違った関心や視点を持つ方々との関わりの中で、自身の研究に関する新たな課題を発見することができました。
 このように先端社会論コースでは自身の研究を学際的な視点から見つめること、現代社会における問題に関して自分の研究関心を通して考えることができる力を身につけられる環境であると感じています。

 
修了学生からのメッセージ

張 嘉慧さん(博士前期課程修了)

★メッセージ
  私は、学部時代の卒業論文の課題をさらに研究したいと思い、神戸大学国際文化学研究科に入学しました。博士前期課程で取り組んだ研究テーマは「宝塚歌劇はなぜ女性観客を集めるのか―日本と中国における『ベルサイユのばら』の観劇レポート分析を中心に」です。具体的には、日中のSNS における宝塚歌劇の観劇レポートを比較考察し、一定の日中若年女性の生き方や女性の間の関係性に対する願望の傾向の、類似点と相違点を分析し、修士論文を書きました。
在学期間中、コースでは、自分で専攻領域や研究課題を追求することはもちろん、演習などで研究に必要な知識や指導教員の意見を受けることができました。また、研究科全体では様々な分野の演習や講義が設けられ、複数の分野の先生・院生の意見を聞き、啓発を受けることができました。便利な研究環境も備えられており、グローバルな学術ゼミに参加する機会も多く、多様な国籍や経歴をもつ先生方や院生の仲間とともに学び、視野を広げることができました。国際文化学研究科・先端社会論コースは、学問的にも人間としての成長にとっても、とても恵まれた環境だったと言うことができます。

 

田 恩伊(チョン ウニ)さん(2011年度博士後期課程修了)

神戸大学大学院国際文化学研究科博士前期・後期課程修了後、京都大学Global COE Program 研究員に就任。現在、神戸大学大学院国際文化学研究科学術推進研究員、下関労働教育センター「日韓国際交流・研究推進顧問。
博士論文のタイトルは「『つくられる共同体』の社会学的研究――共同体運動の現代的意味と新たな展開」。
現在の研究テーマは「現代の共同体をめぐる公共政策の新たな取り組みについて――日本と韓国の公共政策から」。

★メッセージ
   大学で研究者としての訓練を受けて「研究者たちの社会」に出てみると(入ってみるという表現が正しいのかもしれません)、自分の専門領域だけではなく、それと関連する様々な領域の知的訓練がどれだけ貴重で役に立つものかがよく分かってきます。というのは、緻密にミクロな世界を探りながらも全体としての社会を考えていきたいと願っている私自身の研究姿勢からすると、理論と実践両方からなる深い専門的知識はもちろん、社会的市民活動・交流への参加など、時には国籍を越境する実践的行動力を必要とする場合があるからです。
   この先端社会論コースに設けられている社会学、哲学、法学、文化研究などの幅広い研究領域には、こうした研究活動に直結する高度な知的訓練装置が用意されています。もちろん、研究科のこうした装置を自分のものにできるかどうかは、あなた自身の努力と心構えによりますが! この研究科は、多くの領域を融合させ現代社会をよりユニークな視点から探究したい人にとって、堅実な専門性を培ってくれる場だと思います。

 

 

qa

コース名の「先端社会論」っていう言葉はあまり聞いたことがなく、なじみがないのですが?

そうですね。「先端社会」ってどんな社会なの? と思われちゃうかもしれませんね。でも、「先端社会論」コースは、「先端社会を論じる」コースではなく、「先端的な社会問題を論じる」コース、っていう意味なんです。もう少し詳しくいうと、「現代社会の先端的な問題群に学際的に取りくむ」コースです。

ああ。そうだったんですか。だけど、「先端的な問題群」って、たとえばどんな問題ですか?

科学技術の進歩とか情報化、それにグローバル化とか、現代社会に特有な性格によって引き起こされている新しい問題群、っていったらいいかしらね。たとえば代理母問題とか、地球の温暖化みたいな環境問題とか。身近なところでは、男女の性差の意味あいがゆれ動いていることとか。

そういう問題だったら、ずっと気になっていたことにカブってくるかなあ。でも、さきほど「学際的に取りくむ」っていうお話でしたけれど、専門分野としてはどうなるんでしょうか?

専門分野っていう言い方をすると、今現在のコーススタッフは、社会学、カルチュラル・スタディーズ、ジェンダー論、法学、哲学、倫理学っていうことになるかしら。けれども、「学際的に取りくむ」っていうことは、そうした従来の分野が単独では扱いきれない問題に取りくむ、っていうことですから、あまり専門分野は気にしなくてもいいんじゃないかしらね。

それにしても、学部時代の専門とはだいぶんズレているんですが、だいじょうぶでしょうか?

この研究科には、そういう人のためにキャリアアップ型プログラムがありますし、入試問題に合格点が取れるだけの基礎学力があれば、あとは入学後の熱意と努力だと思いますよ。

すみません。私も質問していいですか。私はドクターまで進学したいという希望を持っているのですが、先端社会論コースの研究者養成型プログラムの入試はかなり難関なのでしょうか?

ドクター進学を考えているのなら、前期課程の入試よりもむしろ後期課程の入試に注意してください。募集人数を見てもわかりますように、前期課程に入学しても後期課程に進学できるとは限りませんから。研究者養成型プログラムを選択するのでしたら、前期課程・後期課程の5 年間で博士論文を完成させるつもりで、そのために必要な基礎学力をしっかり身につけておいてくださいね。

神戸大学大学院国際文化学研究科/国際文化学部
〒657-8501 兵庫県神戸市灘区鶴甲1-2-1
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