最終更新日: 2024年09月30日
グローバル文化専攻・現代文化システム系 モダニティ論コース
国民国家という政治原理であれ市場という経済原理であれ、あるいは小説という文学形式であれ遠近法という絵画技法であれ、西欧近代に由来するこれらの社会的・文化的な装置は、現代世界の基本的な枠組みをかたちづくってきました。ところが現在、この西欧近代の原理(モダニティ)は、グローバル化の進展ととともに根底から揺らいでいます。こうしたなかで求められているのは、あらためて「モダニティ」の意味を問いなおし、激動する世界のゆくえを的確に読み解くことだといえるでしょう。本コースでは、近現代の社会思想・経済思想・政治思想・科学思想・倫理思想など多岐にわたる言説群を丁寧に分析することをつうじて、アクチュアルな課題に応えうる足腰の強い思考力を養成することをめざしています。
就職実績 | (前期課程) 外務省(専門職)、西宮市役所、神戸大学(職員)、日本山村硝子、高知新聞社(記者)、共同通信社(記者)、イオン、がんこフードサービス、オーケー株式会社、金蘭中学校・高等学校(教員)、JNC、兵庫県高校教員(英語)、宝塚市役所ほか (後期課程) 神戸大学大学院国際文化学研究科助教、中国河南省新郷学院専任講師、トルコ・チャナッカレオンセキズマルト大学日本語教育学科専任講師、三重大学人文学部専任講師、松山大学経済学部特任講師ほか |
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在籍学生数 | (前期課程) 6名 (後期課程) 0名 |
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論文テーマ | (前期課程) ミシェル・フーコーとエルキュリーヌ・バルバン ピーター・バーガーの「日常」概念と宗教 批判理論における<女性的なもの/母性的なもの>をめぐって E・フロムとフランクフルト学派—批判理論における精神分析学の受容をめぐって H・アーレントにおける赦しの概念について H・アーレントの現象学的決断主義—複数性概念の再考 自由とその制度化—H・アーレントの行為論 W・ベンヤミンにおける神話理論—永遠回帰とアレゴリーとの関係について W・ベンヤミンの初期言語哲学再考―翻訳と批評を中心にして ドゥルーズにおける革命の諸問題 戦時中上海映画におけるジェンダー表象 ヴァナキュラー・モダニズムとしての映画―ミリアム・ハンセンの映画理論について (後期課程) エルンスト・ユンガー 技術と近代 ニクラス・ルーマン 社会システム論 ハーバート・スペンサー 映画と公共圏 D.H. ロレンス エコクリティシズム ピーター・バーガー |
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所属教員の紹介 | 上野 成利 教授 近代政治思想系譜論特殊講義ほか 政治思想・社会思想史。ホルクハイマー、アドルノらフランクフルト学派にかんする思想史研究を基軸にしながら、「暴力」「自由」「公共性」等の鍵概念の社会哲学的な分析に取り組んでいます。 著書:『思考のフロンティア 暴力』(岩波書店)など。 鹿野 祐嗣 助教 近代社会思想系譜論特殊講義ほか 現代フランス哲学・哲学史・精神分析理論。 当時の社会的・政治的状況を考慮しながら、ドゥルーズの哲学を中心に哲学史や精神分析理論を研究しています。 著書 :『ドゥルーズ『意味の論理学』の注釈と研究――出来事、運命愛、そして永久革命』(岩波書店)など。 田中 祐理子 教授 近代科学思想系譜論特殊講義ほか 科学哲学・科学史。近現代の医学を中心とした科学の歴史と、同時代の哲学を研究しています。科学と人間性の関係を、生命科学や原子物理学の歴史を通じて考察しています。 著書:『病む、生きる、身体の歴史』(青土社)など。 箱田 徹 准教授 近代思想文化系譜論特殊講義ほか 社会思想史、社会理論。批判的な社会理論や社会哲学の展開と気候やロジスティクスといった今日的課題の動向とを見据えた上で、二〇世紀後半の社会思想の新たな読み方を探究しています。 著書:『ミシェル・フーコー』(講談社現代新書)など。 |
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三好 帆南さん(博士前期課程2年)
広島市立大学芸術学部卒業
研究テーマ:「芸術と社会の関係、身体イメージ」
私は身体をキーワードに芸術と社会の関係について研究しています。学部で写真メディアを使った制作活動を行っていたときに、写真イメージをよみとく言説や、写真技術と身体の関わりに関心を持つようになりました。また交換留学先のドイツで、ミュージアムの公共空間としての可能性を感じ、卒業後は美術館での教育普及活動に携わりました。現在は、文化施設に勤めながら社会人学生として研究を進めています。社会人として働くうちに、芸術と社会の関係性を考える上で、芸術分野のみならず、領域を横断した視点を持つ必要性を感じるようになりました。そこで芸術理論と同時にそれと深く関わる思想的背景を学びたく、モダニティ論コースに進学しました。
本コースは、美学、社会思想史、政治思想史、哲学、文学など多岐にわたる講座が開設されており、自身の研究分野を多角的に検討できる環境です。また、本コースの特色であるテキストを丁寧に読むことを通して、物事を批判的に考察する視座を育むことができると感じています。
李 珂さん(博士後期課程3年)
神戸大学大学院国際文化学研究科博士前期課程修了
研究テーマ:「映画と公共圏」
私は、中国の初期映画史について研究をしています。とくに清末民初の上海映画におけるヴァナキュラー・モダニティと公共圏に関する研究をテーマとしています。映画学は、美学、哲学、心理学、社会学、歴史学、経済学、政治学など既存の学問の枠組みを超え、社会のさまざまな側面を総合的にとらえることができる学問だと言えるでしょう。近代社会のあらゆる動向と密接な関係を持っている映画を研究するためには、既存の学問領域にとらわれない学際的な視点が重要です。
本コースでは文化言説論、表象文化論、政治思想史、社会思想史等のゼミが設けられ、便利な研究環境も備えられています。多くの授業は少人数で行われ、さまざまなテクストを丁寧に読解し、その内容について発表を行い、先生や学生と議論する形です。そこで複数の分野の先生の意見を聞き、領域を横断して多面的なアドバイスや啓発を受けることができます。また、院生研究室での、他コースの学生との知的交流も刺激的です。さらに、モダニティ論コースだけではなく、他コースの授業をとることも可能なため、より一層学際的研究ができます。専門的な知識を身につけながら思考力を磨くことができる環境で、充実した研究生活を過ごすことができています。

畠中 茉莉子さん(2020年度博士後期課程修了)
研究テーマ:「ニクラス・ルーマンの宗教社会学」
現在、三重大学人文学部文化学科専任講師
私はニクラス・ルーマンという現代ドイツの社会学者が、社会の近代化とその中における宗教の変容をどのように捉えようとしてきたのかを研究してきました。モダニティ論には社会思想史、政治思想史、経済思想史、美学・表象文化論、英文学と非常に多岐に渡る分野をご専門にされる先生方がいらっしゃるので、普段の指導教員の先生とのやり取りのほか、年に数回開かれるコース発表会では「どんな質問が来るのだろう」と、いつもひやひやしていたことを思い出します。私の研究するルーマンは社会システム理論を得意とする論者なので、私は手をかえ品をかえ「宗教というシステムが近代社会において担っている機能とは〇〇です」という社会学的な説明を繰り返すことになるのですが、そのたび、当然のように先生方からは「その論拠は何か」「貴方のいう機能とは何か」「それは〇〇の議論とどう違うのか」「人びとの複雑な信仰をそんなに簡単に説明してしまっていいのか」という、極めて鋭い質問が飛んできます。それには毎度、頭を悩ませたものでした。しかし今にして思えば、それは各々の分野の専門家から、確かな知見に基づく「問い」を投げかけてもらえる極めて貴重な機会だったと、大学の教員になった今、実感しています。モダニティ論に来られる方にはその「厳しさ」と、そしてそこに込められた意味をゆっくりと受け取りながら、ただそれには決して飲み込まれないように、長い目で見て自分自身のための学びを進めていってくれることを、少しだけ先にその場を経験した者として、望んでいます。
野上 俊彦さん(2019年度博士後期課程修了)
研究テーマ:「エルンスト・ユンガーとドイツの国民的アイデンティティ」
現在、松山大学経済学部特任講師
私の研究対象は、エルンスト・ユンガーという20世紀ドイツの思想家です。この人は作家(言語芸術家)ですが、その著作の内容は政治、哲学、歴史、宗教、科学、技術、芸術など多岐にわたるので、はじめのうちは彼の言葉に圧倒されるばかりでした。
そのような私にとって、モダニティ論コースの環境はとてもありがたいものでした。本コースには、社会思想・政治思想や美学・芸術学など、複数の分野の専門家による学際的な指導体制が整っており、数多くの貴重な助言を得ることができました。また学内外の研究者を集めて実施される研究会や、院生同士の自主的な読書会などから、思いがけない学びや気づきが得られるということも少なくありませんでした。そして本コースでは、普段の授業・演習でも論文指導でも、テクストを徹底的に精読することが重視されます。地道でたいへんな作業ですが、そこから得られる知的刺激はテクスト読解の醍醐味であり、なによりこれが、思想家の難解なテクストにアプローチするための最適の方法でもあります。
私が大学院修了後もなんとか自力で研究を進められているのは、本コースでさまざまな知的刺激を受けながら基本的な研究姿勢(絶えず視野を広げるよう努めつつ、事柄を丁寧に観察し、かつ概括的に把握すること)を学べたからだと思います。この経験は、研究にかぎらず、広く課題一般に取り組む際にも活きてくるものです。大学に職を得て学生教育にも注力するようになった現在、このことを強く感じています。

研究テーマを絞り込むのではなく、広く「モダニティ」全般について学ぶことは可能でしょうか?
可能です。むしろ近現代の思想的諸問題について広く学べることが、モダニティ論コースの強みともいえます。とりわけ前期課程のキャリアアップ型プログラム履修生の場合には、モダニティ論コースで開講される思想関連の科目群を中心に履修しながら、幅広い分野について知見を深めることが望ましいでしょう。研究者養成型プログラム履修生の場合には、もちろん適切にテーマを絞り込まなければ修士論文を執筆することは不可能ですが、従来型の大学院では扱いにくい学際的な主題を正面から取り上げることができる点が本コースの最大の特長といえます。
フランス思想やドイツ思想を研究したいのですが、仏語や独語の知識はどれくらい必要でしょうか?
前期課程「研究者養成型」プログラム志望者でフランス思想やドイツ思想を研究対象とする人の場合には、仏語や独語の読解力をある程度そなえていることが望ましいといえます。とはいえ(外国籍学生特別入試ではない)一般入試の場合には英語で受験することになりますから、受験に臨んでまずは英語の読解力に磨きをかけ、前期課程のあいだに仏語や独語の読解力を鍛えてゆけばよいでしょう。むろん英米思想の研究志望者の場合には、独仏語の代わりに英語のテクスト読解にいっそう注力してください(なおキャリアアップ型プログラム履修生の場合には独仏語をかならずしも必要としないと考えてもらって差し支えありません)。